【最後まで全力で進むべきということ】
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・【最後まで全力で進むべきということ】
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「ちょっとクイズ出していいぃ?」
あまり得意げにならないように、抑えて言ったつもりだったが、やっぱりちょっと語尾が上がってしまった。
私はこういうところがある。
「鈴香のクイズ難しいからなぁ、でも今回は正解してやる!」
美代が拳を強く握って、そう叫んだ。
友達の本気の気合が見れて私は嬉しい。
「おまちどおさま! 俺も正解してやるぜ!」
……またコイツも来た。
やたら正太郎は私に絡んでくる。
でもまあ正太郎が間違えて悔しがる姿は見たいし、いいか。
と思っていると正太郎が気合十分の目で、
「正解したらオマエの探偵っぽさを全てもらう……!」
「私の探偵っぽさってどういう意味!」
「さんすう探偵という称号をもらって、ことば探偵さんすう課になる」
早速正太郎は私のクイズの前にボケ始めた。
私はまずツッコまないといけないと思っているので、
「訳が分からなくなってる! せめて、さんすうことば探偵でしょ!」
「いや、ここは頑なに、ことば探偵さんすう課にする」
「というか別にあげないからね! さんすう探偵の称号はっ! そんな重要なクイズじゃない!」
とツッコんだところで、正太郎は唇を震わせながら、
「よくそれでクイズを名乗れたな……」
「クイズってその程度のモノだよ! 試験ならまだしもクイズなんて、ちょっとした遊びだよ! 一回五分あれば終わるモノだよ!」
そんな私と正太郎の意味分からん掛け合いに美代が、
「ちょっと、鈴香、正太郎くん、私を忘れてもらっちゃ困るよっ。私もこのクイズを正解してさんすう探偵の称号をもらいます!」
「いや美代も変なこと言い出さないでよ! こっちは三択で出すつもりだったのに!」
と私が二人の中央でワタワタしていると、後ろから声がした。
「私もさんすう探偵の称号もらいまっ、ごほっ、ごほっ」
「誰、ぁっ大丈夫っ?」
こもった声と急な咳が聞こえてきたので、結果、大丈夫かどうかを最速で聞いてしまった。
「ちょっとお菓子モグモグしている時に喋っちゃって、大丈夫、大丈夫」
華絵だった。
またお菓子で糖分を補給していたらしい。
いやでも、
「華絵! お菓子食べている時は喋らないほうがいいよっ!」
それに対して華絵は、強い意志を含んだような声で、
「でも今逃したら、さんすう探偵の称号がもらえないから」
「何にしろ、さんすう探偵の称号はもらえないんだよ!」
「いやもらう、お菓子を配るさんすう探偵屋さんになる」
華絵は瞳を光らせながらそう言った。
それを聞いた美代は悔しそうな顔をして、すぐさまこう言った。
「じゃあ私は足が速いさんすう探偵アスリートになる!」
私は慌てながら、
「何で誰一人、普通のさんすう探偵にはなろうとしないのっ! 人気があるのか無いのか分からないよ!」
「人気はあるぞ! 俺が言っているんだから間違いない!」
正太郎が言っているから何なんだろうとは思ったけども、何か嬉しい。
いや正直人気があるって言ってもらえて、めちゃくちゃ嬉しい。
良いヤツだな、コイツ。
正太郎と美代と華絵はやる気満々だ。
まあよく分からないけども、盛り上がってきたので、ここで問いを出そう。
「ではクイズを始めます! まずはフリの部分ね、地球の赤道にロープを巻いたらどれくらいの長さになると思うぅ?」
語尾の上がった私の台詞を断ち切るように、間髪入れず正太郎が叫んだ。
「そんな長いロープは存在しないぜ! ことば探偵が論破だ!」
いや
「算数はこういう仮定が多いので、その台詞は却下します」
シュンとした正太郎。
却下します、とハッキリ言うと反論も飛ばさないんだなぁ。
美代と華絵はう~んと首をかしげながら考えている。
いや多分答えは出ないので、ここは言っちゃう。
「正解は約4万kmなんだけども、このロープを1m長くして、もう一度地球の赤道の周りに巻きます」
と私が言うと正太郎はやたら感心したような感じで、
「よく巻くなぁ、忍耐力がすごいぜ」
それに対して私は、
「巻く作業の大変さを感慨深そうにするな、続き言うよ。そうすると、地球とロープの間が長くなった分、隙間ができるよね」
と軽くいなしながら続きを喋った。
華絵は頷きながら、
「まあ1m長くした分だけはブカブカになるから、隙間はできるよね」
と言って、美代は頭上にハテナマークを浮かばせながら、
「私のスカートのお腹周りを1m長くしたらすごいブカブカになるけども、4万kmの1mは隙間ができるというほどできないんじゃないの?」
よしっ! かかった!
まさしく!
「まさにそれが問題なのっ! この隙間はどれくらいだと思うぅっ?」
私の語尾上がりは止まらない。
そしてもう一人、止まらないのが正太郎だ。
「じゃあ三択を出してくれ!」
いや、
「モチロンさんすう探偵の称号を渡すつもりはないけども、三択にして、それぞれ三人が別の選択を選んだら、誰かが必ず正解するじゃん」
「鈴香、それを算数的な言い方をするとなんて言うの?」
と美代がすごく自然な流れで聞いてきたので、つい私は、
「近いヤツだと、鳩の巣原理というヤツかなぁ」
と、ボヤッとしながら答えると、正太郎が、
「鳩の巣原理、絶対正解してやるぜ!」
と叫んだので、私は違う違うと思いながら、
「これは鳩の巣原理のクイズじゃない! 鳩の巣原理は三択の話! その話はその話でややこしいから今日はこの赤道ロープがブカブカクイズだけにして!」
「あんまり、モグモグ、カチッとした言い方は、モグモグ、ないんだね、このクイズには、モグモグ」
と華絵はあまりにもモグモグさせながらそう言った。
「いや華絵! 何かお菓子を食べるペース早くないっ? 足りなくなった糖分を補給するためのお菓子だよねっ!」
と私がツッコむと、華絵は優しく微笑みながら、
「あの事件以来、お菓子を食べなきゃと思ってしまう自分がいる、モグモグ」
「犯人だったヒロシめ! 華絵をモグモグ・マシーンに変えやがって!」
「でも考えながら食べる、モグモグ、効率」
「いいのかなぁっ! 本当に効率がっ!」
なかなか話が進まないなぁ、と思っていたところで、美代が言った。
「じゃあ三択を出すのっ? 出さないのっ? どっちなのっ?」
その声に共鳴するように正太郎も喋りだした。
「もう一回問題文を言ってくれ」
いや!
「覚えていないんかい! じゃあもう最初から全部言います! 地球の赤道にロープを巻いたら約4万kmなんだけども、このロープを1m長くして、もう一度地球の赤道の周りに巻くと、どれくらい隙間ができるでしょうか! 三択は出しません!」
それに対して華絵は少しムッとしながら、かつ、強くモグモグしながら、
「じゃあキッカリ当てないとダメね、モグモグ」
しかし美代はもう余裕そうに、
「私はもう大体分かったかなぁ、もう隙間は無いに等しいと思うんだよねぇ」
正太郎は何か浮かんだような表情をすると、一つ質問をしてきた。
「鈴香、数字を言うということか?」
「うん、そういうことだね」
私がそう答えると、正太郎の眼光が鋭くなり、
「でもさ、数字をキッカリ当てるって難しいよな。こういうクイズって普通、プラス・マイナス3は正解とみなすとかあるよな。そういうのも考えてくれよ」
と言ってきたので、何かすごいことを言うと思ったら、そんな話だったので、
「そっか、そりゃそうだよね、じゃあプラス・マイナス3!」
と私が言うと、正太郎が絶妙なタイミングで、非常にテンポが良く、心地の良いくらいの少し食い気味で、
「んっ、単位は?」
と聞いてきたので、その流れるようなテンポに合わせるように、
「センチメートルね」
と言った時に、正太郎が罠にかかったなというような笑みを浮かべ、私を指差しながらこう叫んだ。
「これぞことば探偵! 必要な言葉は言わせる! ミリメートルじゃなくてセンチメートル! という答えはセンチメートルだ!」
その台詞に私はモチロン、美代と華絵もざわついた。
よく見ると、正太郎も若干ざわついているようにも見える。
華絵は驚きながら、
「えっ? モグモグ、ミリメートルじゃないの? モグモグ、というかもっと短い単位だと思っていた、モグモグ」
美代も驚愕している。
「いやもう正直1センチでもブカブカって感じするよっ? 自分のお腹周りが1センチ痩せただけでも、結構スカートってブカブカになるよっ?」
でも一番動揺しているのが正太郎だった。
「俺も、まさか、本当にセンチメートルとは思わなかったぜ……4万キロメートルの1メートルで本当にセンチメートルほどあくのか?」
ざわざわしている美代と華絵と正太郎。
私も心の中ではざわざわしている。
もしや当てられてしまうのでは、さんすう探偵の称号がどこかへいってしまうのでは。
いやまあ、さんすう探偵の称号をあげる気はサラサラ無いけども。
というわけで、じゃあ、
「ヒントも出しちゃったので、そろそろ答えを出して!」
それに対して華絵がスッと手を挙げて、
「まず私が答え、モグモグ……モグモグ……モグモグ……モグモグ……、……、モグモグ」
いや
「モグモグ多いな! 溜めていると思ったら、ずっとモグモグしているだけじゃん!」
「私の答えは……モグモグ!」
「いやモグモグって言っちゃった! もうそれを正式な答えにしちゃうからねっ!」
「それは困る! モグモグ! 1センチ!」
と口からお菓子がこぼれそうな勢いで1センチと言った華絵を見て、ニヤリと微笑む美代。
「華絵、その答えは甘いね。プラス・マイナス3センチなら、4センチ以上の答えを出したほうが得! だから4センチ!」
と言ったところで正太郎もすぐに答えを出した。
「じゃあ俺は! マイナス3センチだ!」
「「「マイナス3センチっ?」」」
その場にいた女子勢の頭上に疑問符が浮かんだ。
しかし正太郎は続ける。
「1メートル長くなったということはその分、ロープが重くなったということだ! つまり重力をより浴びるようになったはず! だからその重力のパワーで地球にめり込むんじゃないのかっ!」
なんていう理論だ、正太郎、ことば探偵、言葉以外てんでダメだな、コイツ……。
「じゃあ正解を発表しますぅ!」
私は意気揚々とそう言うと、正太郎が、
「待て! 鈴香のその嬉しそうな顔! 嬉しそうな声! 誰も正解がいないということだな!」
ポーカーフェイスのつもりだったけども、顔に出ちゃっていたか。
あとそう言えば、あまり得意げにならないように、抑えて言ったつもりだったが、やっぱりずっと語尾が上がっている。
私は本当にそういうところがある。
でもその顔と声に気付いてくれる正太郎に何だか、少し、ドキッとしてしまった。
よく分かっていてくれて嬉しいな、と、何かちょっと思ってしまった。
何だろう、この感情。
まあいいや、
「正解の言い直しは認めていません! 正解は16センチメートルです! 猫が通れるくらいです!」
「「「16っ?」」」
美代と華絵と正太郎が声を合わせ、また顔を見合って驚いた。
これこれ、この驚きがほしかったの、私は。
これはもう圧勝だ。
美代にも華絵にも、そしてことば探偵にも圧勝だ。
と思って勝利の余韻に浸っていると、正太郎が、
「なるほど、全体的に見たら小さな差も、周り回って大差になるってことかもしれないな。だから物事は最後まで手を抜かず、本気でやらないといけないのかもしれないな」
と言い出し、それに華絵が、
「正太郎くん! モグモグ! カッコイイじゃん! モグモグ!」
さらに美代も、
「確かにその小さな差が命取りになるかもしれないもんね」
華絵と美代はそれぞれ畳みかけるように、
「正太郎くんの言葉って、モグモグ、何か響くんだよねぇ、モグモグ」
「声もいいんだよね、きっと」
と言って、正太郎はすごく喜びながら、
「そんな褒めないでくれよ! ワッハッハ!」
……あっ、何か締めの部分、持ってかれてる私……これがことば探偵か……でも負けない、私だって言葉を使っているわけだから、ここは私の圧倒的な言葉で戦況を打破してやるんだから!
「ところで正太郎! 正太郎は何で探偵をやっているのっ?」
すると華絵が不可思議そうに、
「急にどうしたの……鈴香……」
と一切モグモグをいわずに、ドン引きし始めたので、私は少し焦りながら、
「ほら! ちょっと気になって!」
とは言うんだけども、正直全然上手く戦況を打破できなかった感丸出しになったので、正直耳から熱くなってきた。
美代は小首を傾げながら、
「タイミングは全然あれだけども、確かに何で正太郎くんって何で探偵をやっているの?」
と言った。いやタイミングは全然あれって言わないで……ほろり……。
正太郎は後ろ頭をポリポリと掻きながら、
「まっ! それはいいだろ! 別に!」
と一切ボケずに言ったので、何か違和感を抱いてしまった。
正太郎が若干焦っているようにも見えた。ある意味、こんなドン引かれている私よりも。
だから、
「いいじゃん、教えてよ」
と軽い感じで言ってみると、正太郎は、
「というかそれより言い出した鈴香の理由が知りたいなっ、というかこういうのって大体自分が言いたいから聞いてきたんだろっ?」
それに対して華絵が、
「何それ! 鈴香は探偵やっている理由言いたかったのっ? それに人を使っちゃダメだよー……モグ!」
あっ、最後で、ギリギリでモグを聞けて良かった、と胸をなで下ろしたけども、いやいや違う。
「私は普通に正太郎が探偵をやっている理由が聞きたくて!」
美代は挙手しながら、
「でもタイミングが怪しかった! これは私が論破しました!」
くぅ~、全然言葉って上手くいかないチクショウ……まあいいか、ここはまず私の理由を述べるか。
そうしたら自然と正太郎が言う流れにもなるはず。
実際そこまで聞きたいわけでもなかったけども、戦況を打破したかっただけだけども、正太郎がやけに隠したがるし、マジで気になってきた。
よしっ、言おう。
「私が探偵をやっている理由はクラスのみんながチヤホヤしてくれたからだよ、はい、言った。正太郎は?」
すると正太郎がすごく頷きながら、
「それそれ、俺もそれ」
と言ってきたので、私は首を横に振ってから、
「いやそんなことないじゃん! 少なくてもこの転校してきた最初は違うじゃん! 転校を機にことば探偵辞めてもいいのに、最初の挨拶でそう言ったじゃん! ことば探偵としてのチヤホヤはそのあとじゃん!」
と私はどうにかして論破しようと早口でそう言うと、正太郎が少し俯きながら、
「おっ、鈴香って言葉が鋭いなぁ、こりゃことば探偵をとられてしまうかもしれないなっ」
と言うと美代が、
「すごい! 鈴香がことば探偵を奪った! さんすう探偵は奪われずに!」
華絵も何だか嬉しそうに、
「すごい! モグモグ! 鈴香すごいね!」
と私を褒め称える流れになり、満足してこの話は終わったんだけども、いや正太郎が探偵をやっているマジの理由、聞けてないな。
まあいいか、また後で聞いてみよう、今はこの打破できたという余韻に浸ろうっと……もしかすると正太郎が理由を言うことから逃げるために私を褒めた……?
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