【ガタガタの警備とカチカチの警備】

・【ガタガタの警備とカチカチの警備】


 華絵の席に行って、喋っていた私。

 私と華絵だけだったのに、いつの間にか正太郎もやって来て、今はもう完全に正太郎のターンみたいな感じで、

「ワッハッハ! このロボット警備員という話はバカだなぁっ!」

 と大笑いしている。

 いや私が出したただの算数の問題で大笑いする正太郎のほうがバカでしょ、と思いつつも、自分が紹介した話が結構ウケて、内心嬉しい。

 正太郎はまだまだ笑いながら、叫んだ。

「面積の周りの長さでしか物事を判断できないなんてガタガタの警備だなぁっ!」

「でも実際ちょっと面白いかも」

 勉強が好きな華絵がうんうん頷きながら、まとめだした。

「一辺が1センチの立方体の角砂糖が5×5の正方形で置いてあって、ロボット警備員は角砂糖の周りを回って、一周して同じ道のりの長さならば大丈夫だと判断して。でも一つ角砂糖を盗んでも気付かないと。何故なら一つとっても面積の周りの長さは一緒だから、と」

 それに対して正太郎は笑いの余韻をゼェゼェと残しながらも、

「中をくり抜かれたならまだしもっ、一個減っても気付かないなんてっ、俺だったら気付くぞっ!」

 ロボットじゃないからね、と心の中で優しくツッコんでいると正太郎が、

「でもまあガタガタの警備だなぁっ! 略してガタイビだな!」

 とハッキリ訳分からん造語を使ってボケたので、さすがにここはと思って私は、

「何そのガタイが美しい人を差すような言葉」

 とツッコむと、正太郎が一瞬何か嬉しそうな顔をすると、またいつもの、ボケる時にする無表情な顔になって、

「いやまあ実際ボディビルダーのことガタイビって言うからなぁっ」

「いや言わないけども、全然言わないけども」

「何だっけ、じゃあボディビルダーのことをどうやって応援するんだっけ、小さいだっけ?」

「真逆、デカいじゃなかったっけ。あとは冷蔵庫って言うこともあるらしいよ、冷蔵庫はデカいから」

 急にボディビルダーボケをするなんて。

 私も知識があったから返せたけども。

 多分その返せたことで、さらに正太郎は乗ってきたようで、

「あと掃除機な」

「掃除機は最近コンパクトがウリでしょ!」

「掃除機のホース! 掃除機のホース!」

「いやもう悪口じゃん! 掃除機のホースってヨボヨボの細い筒じゃん!」

 と私が強めにツッコんだところで、華絵が笑いながら、

「いや二人の会話、漫才みたい」

 笑い終わると、机の中からお菓子の箱を取り出して、一個だけお菓子をつまみ食べた華絵。

 私は目を丸くしながら、

「急にお菓子食べた!」

 と私が正太郎との会話の勢いそのままで華絵にツッコむと、

「鈴香、私にツッコまないでよ」

 いやいや、

「いやだってお菓子食べたから!」

 私がそう言うと、華絵は何も分かっていないなぁ、といったような表情をしながら首を横に振り、

「これは糖分補給しただけ。勉強すると糖分を使うからこうやって補給しないとダメなのっ」

 そうプンスカと可愛く怒った。

 でも私は正しいことを言いたくて、

「でもお菓子って学校に持ってきちゃダメなんだよっ」

「いいよ、別にみんな持ってきてるじゃん」

「でも! 給食のパンをおいしく食べるには、お腹をすかせるのが一番だよ!」

「鈴香、これはお腹を満たすためのモノじゃなくて脳のための糖分補給なのっ」

 そう華絵は妙にハキハキと、良い発声でそう言った。

 私は少しムッとしながら、

「何それ、言い訳じゃないのっ」

 と言い合っていると、正太郎が割って入ってきた。

「いや実際、糖分で脳を働かせるとかそういうのはあるんだってさ、鈴香。いやでも、というか持ってきちゃダメだったのか、男子もヒロシとか持ってきてるから知らんかった。というか前の学校では大丈夫だったしなぁ」

 そうか、糖分で脳を働かせるって本当なんだ、二人に言われたら、さすがにダメだ。

 私はどこかただの言い訳だと思っていたけども、本当なんだ。

 じゃあ私が折れるか、ということで、

「まああんまりこれをキツく言ってもしょうがないから、これ以上は言わないけどさぁ」

 と言ったところで、華絵が立ち上がって、

「あっ、そろそろ休み時間終わるね、そうだっ、鈴香、ちょっとお手洗い行くからついてきてっ」

「うん、いいよー」

 私と華絵はお手洗いに歩いていった。

 その歩いている時に。

「ねぇ、鈴香ってさ、正太郎くんと仲良いよね。いっつも一緒にいるよね、最近」

「えっ、そうかなぁ……そんなこと無いと思うけども」

 考える。

 いやあるわ。

 最近ずっと一緒だわ。

 とか思っていると、華絵が、

「でもさ、いや何がでもなのか分からないけども、正太郎くんと鈴香ってお似合いだと思うよっ、美男美女でっ」

「いやそれどういう意味さ……」

 何か急に不快な風が吹いてきたなぁ。

 私はあからさまに嫌な顔を多分したんだろう。

 すると華絵が少し笑いながら、

「あっ、そっか、鈴香ってこういうことには疎いもんねぇっ」

 と言ってきたので、何か完全にムカッとしてしまい、

「疎いって何? こういうことって? 全然意味分かんない」

「まあいいや、でも何でそんなずっと一緒にいるの?」

「いやまあ意識していなかったけども、正太郎がボケるからかな、そうするとツッコまないといけないじゃん」

 と真面目に答えると、華絵は、

「何その感性、漫才でもしているのっ? というか漫才しているよね?」

「いや漫才しているわけじゃないけども、やっぱりボケたら誰かツッコむべきじゃん。それが正しい姿じゃん」

「その考え方がもうあれだよ、お笑いの発想だよ」

 みたいな話をして、お手洗いで用を済まし、クラスに戻ってきて、授業が始まり、授業が終わり、次の授業までの休み時間で事件は起きた。

「私のお菓子、誰かに全て食べられている……」

 華絵が私のほうにやって来て、そう言った。

 まさか、そんな食いしん坊がいるとは……と、おののいていると、私と華絵の異変に気付いて、正太郎が近付いてきたので、華絵がそのことを言うと、正太郎は驚きながらこう言った。

「いや、でも、華絵がお手洗いへ行っている間に全部食べられたってことだろ? そんな短時間で全部食べることってできるか? 華絵の勘違いじゃないのか?」

 正太郎がまあ当たり障りのない、普通のことを言うと、華絵は少しイラッとしながら、

「そんなことない! 私は今日学校で開けたばっかりだから、いっぱい残ってた!」

 正太郎は腕を組んで、

「でもそんなことできるのか?」

 ちょうどこの休み時間は少し長めの休み時間だ。

 この間に解決してやるんだから!

 と、私が意気込んだところで、正太郎が、

「人だっていっぱいいただろうし、ロボット警備員のガタガタの警備とは違って、ある意味、クラスにいた全員がガチガチの警備員だ。まずすごい勢いでお菓子を食べていたヤツがいないか、聞いて回ってみるわ」

 そう言って正太郎は聞き込みをし始めた。

 その間に私はもっと情報を集めないと。

「華絵、何か不審なことが無かったか、思い出してほしいんだ」

「いや、特に何も……どうしよう……私何か嫌われているのかな?」

「えっ、どういうこと?」

 華絵は深刻そうに俯きながら、ゆっくり語り出した。

「私思ったの。短時間で食べることはできなくても、短時間で捨てることはできるんじゃないかなって。中身をどこかに丸々捨てて、私の机の中に戻したんじゃないのかな」

 中身をどこかに丸々捨てて。

 ん?

 中身をどこかに丸々捨てて。

 いや。

 中身をどこかに丸々……!

「いや! 華絵は誰にも嫌われていないよ! 私、分かった!」

 ちょうどそれくらいのタイミングで正太郎が戻って来て、

「いや食べたヤツを誰も見ていないって」

 と言った直後に、すぐ私は正太郎に耳打ちをした。

 正太郎は頷き、ヒロシに近付いていった。

「おまちどおさま! なぁ、ヒロシ、オマエのお菓子、ちょっと俺にも一個くれよ!」

「何でだよー! オレが損するだけじゃーん!」

「苦手な宿題とかあったら教えるからさ! ほら! ヒロシは国語の文章題苦手だろ! 俺はそれ得意だから!」

「う~ん、どうしようかなぁ」

 ヒロシは何か迷っている感じだった。

 ここでもう一押しといった風に正太郎が、

「いやもうここでお菓子くれるヤツはやっぱり器がデカいと思うよ。冷蔵庫!」

 いやそれボディビルダーを褒める時に言うヤツ! 急にデカい=冷蔵庫の図式で言われても分からないだろ!

 やっぱりちょっとヒロシも頭の上にハテナマークが浮かんでいる顔しているわ!

 しかしなんとなく言いたいことは分かったようで、ヒロシは、

「冷蔵庫はよくわかんねぇーけども、そっかー? 器デカいかー?」

 と言ったので正太郎はやたら元気に、

「慕っちゃうよね、求めていることをしてくれる人って、優しくて最高だと思う!」

「じゃあいいぜー、一個くらいお菓子くれてやるぜー」

 そう言ってヒロシがお菓子を机の中から取り出すと、それは華絵のお菓子と同じお菓子の箱だった。

「それぇっ!」

 私の叫んだ声の合図で正太郎がそのお菓子の箱を奪って持ったので、ヒロシは少し困惑しながら、

「ちょーっ、ショータロー、全部オレのお菓子を取ろうとするなよー」

 しかし正太郎はヒロシの言葉を気にせず、お菓子の箱をじろじろ見て、

「……ヒロシ、これ、本当にオマエのお菓子の箱か? ん? 確かにお菓子の箱を開ける時にペリペリ開けるところが綺麗に開けられている。言われてみればヒロシってもっと雑に開けているような……」

 と言ったところで私は大きな声を上げた。

 そう、なんせ私だってお菓子の箱を今じろじろ見ていたから……華絵の箱もね!

「華絵のお菓子の箱の中身を食べた犯人は……いや! 華絵のお菓子の箱と自分の箱をすりかえたのはヒロシ! オマエだ! 華絵は几帳面な性格だから何でも綺麗にしているはずなのに、この華絵のお菓子の箱は妙に汚く開けてあっておかしいと思ったの!」

 と言ったところで、華絵もお菓子の箱の違和感に気付き、

「ホントだ! 私の開けた感じじゃない! このお菓子の箱!」

 私は続ける。

「食べきる時間は無くても、隙を見て箱ごとすり替える時間はあるはず。ヒロシ、どう? お菓子の箱のすり替え、していない?」

 ヒロシは突然のことに呆気にとられていたが、徐々に現実味を帯びてきたらしく、震えだしている。

 そこを見逃さなかった正太郎はすぐさまこう言った。

「ヒロシ! もし犯人ならこういうことは泥棒の始まりだぜ! 否! もはや、マジで泥棒だ! でも今謝るのなら許してやる!」

 私は正太郎を制止するように、

「ちょっ、勝手に許すとか言うなって! 華絵はどうっ?」

 私が華絵に決定権を委ねると、

「いや別に私が嫌われているわけではないと分かれば大丈夫だから、うん、ただの犯人ならば許すよっ」

 と言ったところで、ヒロシが、

「……ゴメーン! 華絵のお菓子の箱とすり替えたのはオレだー! ついいっぱい食べたくなってー!」

 ――こうして、この事件は幕を閉じた……と思われたが。

 正太郎は拳を天に突き上げながらこう言った。

「今回は俺の太鼓持ちが光ったな! うん! 俺の勝ちだ! 鈴香! 悪いな!」

「いやトリックを見破った私の勝ちに決まってるでしょ!」

「いやでも言葉巧みにお菓子の箱を取り出させた! これが決め手だからなぁっ!」

「そんなことない! 今回こそは完全なる私の勝利だったからぁっ!」

 私がかなり強く言ったところで、正太郎は何かポージングしながら、

「じゃあここはボディビルダー勝負でいくかっ」

「いや筋肉質度なら男子のほうが有利だろ!」

「デカい! デカい!」

「いやそれ応援のほう! 応援する人対決じゃん!」

 とツッコんでも、正太郎は止まらず、

「冷蔵庫! 冷蔵庫! チルド室!」

「チルド室は冷蔵庫の中の一部! チルド室なんてハム入れとくだけの場所じゃん! 小さくなってどうするんだ!」

「ハム! ハム!」

「もうペラペラになっちゃったじゃん!」

 正太郎は相変わらず無表情で、声は張っているけども、真顔でボケる。

「じゃあボンブレスハム! ボンブレスハム!」

「何か太っている人を揶揄する言い方になっちゃった!」

「ボンブレスダム! ボンブレスダム!」

「聞いたこと無いダム! でもかなりデカそうだ!」

 逆に私はエモーショナルにツッコむ。

 そういう側だから。

「ハムカツが乗ったダムカレー!」

「じゃあちょっと大きめ程度のカレー! 冷蔵庫ほどデカくはない!」

「ハムカツが乗ったダムカレーくらいうまい、俺の言葉巧みな技!」

「結局自分を褒める方向に持っていった! いや全然だし! トリック分かったヤツのほうがすごいし!」

 ここはもう事実なので、特に粒立ててそうツッコむと、

「いやトリックなんて結局、ヒロシが作った道のりをなぞっただけじゃないか。俺は新しい筋道を作り出したんだ!」

「いや見破ることがすごいのに! 全ての可能性がある中から一つの答えを導き出すことがすごいのっ!」

 とツッコんだところで、チッチッチッといった感じに人差し指を揺らしてから、ここはちょっと見下すような表情を作って、正太郎が、

「全然。そもそも鈴香のさんすう探偵は最後の部分がいつも甘いぜ?」

 と言ってきたので、私はムッとしながら、

「その分、正太郎のことば探偵は、大事な中央の部分が無いじゃないの!」

 言い合う私と正太郎に困り出し始めたのか、華絵が一言。

「ちょっ、鈴香、正太郎くん、そろそろ授業始まるから……」

 さらにヒロシまで、

「おーい、もー、オレが悪かったからー、喧嘩しないでくれー」

 やっぱり正太郎って何か変!

 絶対私のほうがすごかったのに!

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