第三十五話 日中戦争(16)第二次下関条約 下

 1939年7月2日、参加国全代表が出席する第7回会談が開かれ、「」いわゆるが締結され、約二年続いた戦争に終止符が打たれた。


 日中戦争がついに終結したというニュースは、瞬く間に世界中に拡散され大きな影響を与えた。


 ネヴィル・チェンバレン英首相は、中華民国に対しを与え中国大陸にを獲得したことを高らかに宣言、英国は日東満華四カ国に対する支援を惜しまず、東アジア・西太平洋の秩序維持に国際連盟加盟国として全力で協力する意向を表明した。


 対中宣戦布告時には激昂していた国内世論も、多額の賠償金と領土という目に見える戦果を得られたことに満足し、その視線は欧州大陸において勢力を増しつつあるヒトラー率いるドイツに向けられることとなる。


 全く計画していなかった中華民国との戦闘に動員された英軍も、今回の戦争において中華民国相手とはいえ平時ではを得たことに満足しており、後の第二次世界大戦においてその効果が発揮されることとなる。


 エドゥアール・ダラディエ仏首相は、ミュンヘン協定調印によると対中戦争勝利というをフランスにもたらしたと国民から熱狂的な賞賛を受けた。


 だが、本人はに懐疑的であり、国民からの支持を背景に対独戦を意識した軍備増強を推し進めていくこととなる。


 中華連邦国家主席の汪兆銘おうちょうめいは、中国大陸の民主主義を守ろうと尽力しただと高らかに宣言、国際連盟や東アジア諸国と連携を強化し中華連邦の発展の為に尽力していくという方針を明らかにした。


 中華国民も、無事に戦争が終わったことに安堵しており、友好的な日満両国から占領時並みの支援が得られるのなら生活が良くなるだろうと楽観的に状況を見ていた。


 満州王国執政の愛新覚羅溥儀あいしんかくらふぎは、満州族領土の奪還を果たし貴重な文化遺産を奪還したことを理由にを宣言、が樹立された。帝政への移行に伴い、溥儀はに即位し満州帝国の国家機構も再編されることとなった。


 しかし、基本的な政治体制に大きな変化が生じることもなく、国際社会も大英帝国のような立憲君主政のままで、袁世凱えんせいがいのような非民主主義国家になったわけではないだろうと判断していた。


 経済面でも、奪還した領土や返還された文化遺産という、多額の賠償金など経済発展に繋がる材料が揃っており、日満各企業の動きも活発化していた。


 そして、大日本帝国総理大臣の町田忠治まちだちゅうじ首相は、第二次下関条約の締結に伴い、宣戦の詔書にて言及された戦争目的を達成したことを宣言した。も同時に宣言され、東アジアの安定と経済発展の為に官民協力して尽力する方針を明らかにした。


 獲得した多額の賠償金の使い道に関しても、永田鉄山ながたてつざん国防大臣が「国防省は、日中戦争において被った損失に関連したものしか予算を請求しない」との意向を示したことで、その多くを公共事業に投資することが決定された。勿論、永田国防相からの要請で造船所や飛行場建設に対する出費も行われたが、公共事業に対する投資は更なる経済成長に繋がることとなる。


 また、日中戦争終結に伴い町田内閣は内閣改造の実施を表明、8月30日にが成立した。


 日中戦争中の激務により体調を崩した者や、年齢上の理由で引退を望んだ者などを中心に数名の閣僚が交代、国防大臣には海軍大将の堀悌吉ほりていきちが就任し、外務大臣には外務省出身の広田弘毅ひろたこうきが就任した。


 また、大蔵大臣には大蔵省出身の賀屋興宣かやおきのりが就任し、町田内閣の経済政策実現に大きく貢献してきた高橋是清たかはしこれきよ前蔵相は、衆議院議員も辞職し隠居する意向を示した。


 戦勝国側がこうした動きを示す一方、敗戦国の中華民国では講和条約締結に反対する民衆や国民党員による暴動が発生、蒋経国しょうけいこく総統は軍事力によってこの動きを強引に弾圧し、国内情勢の安定化の為に政府・党内の結束に尽力していくこととなる。


 また、ルーズベルト米大統領は、第二次下関条約は中国への進出を容認するであり、早期に不当に獲得した領土を中華民国に返還するよう声明を発表した。しかし、このような動きに対し共和党を中心とする勢力は「中華民国の独裁体制や非人道的行為を容認するのか」と反発を強めており、北米情勢はまだまだな状況が続くと予想された。


 ドイツでは、英仏による中国に対する強引な進出を非難する一方、中国大陸における共産党勢力が日本軍によって撃滅されたと日本政府を賞賛、コミンテルンに対抗する為にだと主張し早期の交渉実施を要求した。


 また、ソ連では反共産主義勢力が中国大陸を掌握したことに懸念が示され、極東軍の更なる増強が進められていくこととなる。


 中国大陸での戦争が無事に終わりを告げた一方、日本から遠く離れた欧州においてナチス率いるドイツは戦争の火蓋を切ろうと動き始めていた。

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