第三十二話 日中戦争(13)重慶大空襲
1939年3月5日、日満英仏の四カ国は、国際連盟に対し中華民国臨時首都である重慶を軍事都市であると認定し、認定から一ヶ月後に重慶に対する全ての軍事攻撃を許可するように要求した。
四カ国は、重慶の軍事都市認定の根拠として、数々の戦争犯罪を実施してきた中華民国政府及び国民革命軍の主要機関が重慶におかれていること、重慶において中華民国国民の強制労働の情報が複数の難民から確認されていること、そしてソ連の支援による生物兵器研究の恐れがあることを提示し、早急な攻撃許可を求めた。
この要求を討議する為、国際連盟は緊急総会を招集し中華連邦の加盟の是非も含めて議論を行った。真っ先に決定されたのが中華連邦の国際連盟加盟であり、文句なしの満場一致で可決された。また、幾らかの議論はあったものの重慶が軍事都市化していることの認定自体は、比較的早く行われた。
問題となったのは、認定から一ヶ月後の重慶に対する全ての軍事攻撃を許可するべきかどうかである。
当然、認定から一ヶ月の間に重慶市民の対比を積極的に呼びかけることは当然四カ国も約束していたのだが、諸事情により脱出できない無実の市民が虐殺されかねないと多くの加盟国が懸念を示していた。
しかし、それほどの衝撃がなければ日中戦争の終結には程遠いということは加盟国の全てが理解しており、どこかで妥協し攻撃を認める方向性で調整が始まった。
約二週間ほどの議論を経た3月22日、国際連盟は民間施設への無秩序な無差別攻撃は慎むこと、攻撃直前に重慶からの退避を呼びかけること、そして講和後に四カ国合同で攻撃の被害にあった重慶市民に対する適切な賠償を行うことを条件に、重慶に対する無差別攻撃を容認した。
そして4月26日、統合参謀本部は、漢口航空基地統合司令官
特別空襲団は、十三試重爆撃機の増加試作機十六機、九六式重爆撃機三十二機、十二試戦闘機の増加試作機十六機、九六式戦闘機十六機の計八十機によって編成されている。
貴重な試作機ですらも投入し、日中戦争を速やかに終結させるという強い日本政府の意思に従う形で編成されたこの特別空襲団は、山口少将の下で行われた猛訓練によって連合航空軍で一・二を争う精鋭航空部隊へと成長を遂げていた。
統合参謀本部からの命令を受け、山口少将は練度も十分で空襲作戦の完遂が可能だと判断し、特別空襲団に出撃命令を下した。
漢口に存在する航空基地群から出撃した特別空襲団は、護衛戦闘機隊に守られつつ重慶上空にまで無事に到達した。
流石に、重慶直前の空域にて中国空軍機による迎撃を受けたものの、最新鋭の十二試戦闘機の活躍により九六式戦闘機二機撃墜の代わりに敵機群の撃退に成功、重爆撃機群は無傷で重慶に対する空襲を開始した。
高角砲による迎撃を掻い潜りながら行われた重慶に対する空襲は、条件付きではあったものの無差別爆撃であり、視界に映った軍事目標らしき全ての施設に対し攻撃が行われた。
空襲自体は、搭載している爆弾の量の関係で20分ほどで終了しており、特別空襲団も統合参謀本部も日本政府ですらその効果は大きいものとは言えず、重慶に対する空襲を強化しなければならないと判断していた。
しかし、この空襲が中華民国に与えた影響というのは、日本側の予想以上に大きなものであった。なんと、空襲を受けた中華民国臨時総統官邸にて
日中戦争継戦派の首魁であり、中華民国総統として抜群の指導力を発揮していた蒋介石が意識不明の重体に陥ったことにより、中華民国政府と中国国民党は日中戦争を巡る継戦派と講和派の派閥争いと次期総統を巡る後継者争いに突入した。
内部対立の影響で、多くの指揮官が対立に巻き込まれ左遷されることを恐れるようになり、指揮は保守的かつ精彩を欠くものとなってしまい、前線の兵士達の膨大な犠牲の下で何とか構築された防衛ラインは崩壊寸前の危機的状況に陥った。
この事態に、蒋介石の長男である
蒋経国による説得は、このまま無秩序に政治闘争を続けていたら防衛ラインの崩壊により決定的敗北を喫する可能性があったことや、政府・党内部で講和派が勢力を増しつつあったことで功を奏し、各派閥をまとめるという意味合いで蒋経国が中華民国第三代総統に就任、就任演説にて国際連盟の勧告に従い講話に応じると宣言した。
約二年続いていた日中戦争は、重慶大空襲による蒋介石が意識不明に陥る緊急事態により、終戦へと向かい始めるのであった。
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