第十三話 内閣改造と陸海軍統合

 1936年4月1日、陸軍省及び海軍省は二・二四事件に関する大規模調査の結果を公表した。これと同時に、二・二四事件に関与した将校たちの処分と、林銑十郎はやしせんじゅうろう陸軍大臣と山梨勝之進やまなしかつのしん海軍大臣が責任をとって辞職することが発表された。


 同時に、町田忠治まちだちゅうじ首相が大規模調査の結果公表を受けて記者会見を開き、事実上の内閣改造の為に内閣総辞職を行い大命降下を拝受したと発表、新内閣の閣僚人事が発表された。


 外務大臣や内務大臣を始めとする内閣の中核メンバーは、基本的に交代はなかったものの、新たに新設された国土開発省や厚生労働省の大臣や商工大臣などでは閣僚交代が行われた。


 それ以上に世論の注目を集めたのは、軍政を管轄する陸軍省・海軍省である。陸軍省と海軍省は、41が発表されたのである。


 あまりにも突然に行われた陸海軍の統合ではあるが、しっかりとした理由のもとに統合は行われている。


 一つ目は、昭和粛清に伴う将校の不足だ。先に昭和粛清は、軍内の不穏分子を排除する為に行われており、確かに成果も大きかったのだが彼らを排除したことで人事上の問題が発生してしまったのである。


 陸軍では、そもそもの規模が大きいことを上手く活用して、一部将校の臨時昇進などで対応していたが、満州王国や東方イスラエル国などへそれなりの部隊を送っていたことから、予想以上に大佐や少将などの中間職の人間が不足していた。また海軍では、そもそもの規模が小さいことも災いして、陸軍以上に人員が不足していた。


 二つ目は、予算上の問題である。簡単に言うと、似たような研究内容で別々に予算を出すくらいなら、陸海軍が協力しあって研究や軍備整備などを行ってもらい、それに予算を出した方が必要な予算は減少すると大蔵省が必死に訴えたのだ。


 南北を中国とソ連に囲まれた満州王国をめぐる情勢は悪化を続け、アメリカの軍縮条約破棄に伴う海軍休日は終焉し、陸海軍共に軍備拡張に動くことは大蔵省も察知しており、少しでも予算を下げようと彼らは陸海の統合を訴えたのである。


 三つ目は、来るべき戦争への備えである。欧州では、ナチスドイツが暴走を始め、東アジアではソ連と中国の脅威に東アジア各国は晒され続けている。そして、アメリカの軍縮条約破棄によって太平洋をめぐる情勢も悪化を始めている。


 アメリカやソ連との戦争も視野に入れた軍部は、陸海軍を統合するなどの構造改革を行うことで、陸海空軍を最大限活用し戦争を勝利へと導こうと考えていたのだ。


 このような経緯から、国防省は新設されたのである。同じように、参謀本部と軍令部はの傘下で再編され、戦時大本営条例の廃止に伴い常設されている大本営のような扱いになった。


 国防省は、陸軍部・海軍部・航空部の三つの主要機関と三部と密接に関わる統合技術本部・人事教育局・軍備計画局などの機関によって構成されており、国防陸軍・海軍次官が従来の陸軍・海軍大臣と同じような役割を果たすこととなる。


 統合参謀本部は、統合作戦部・人事局・情報局・兵站局・戦略局などで構成されており、陸戦・海戦参謀部長が従来の参謀次長・軍令部次官と同じような役割を果たすこととなる。


 記念すべき初代国防省・統合参謀本部の主要人事は、以下の通りである。


・国防大臣 陸軍 永田鉄山ながたてつざん大将

 ・国防陸軍次官 陸軍 東條英機とうじょうひでき少将

 ・国防海軍次官 海軍 長谷川清はせがわきよし中将

 ・国防航空次官 海軍 大西瀧治郎おおにしたきじろう少将

・統合参謀本部長 海軍 寺島健てらしまけん大将

 ・陸戦参謀部長 陸軍 今村均いまむらひとし少将

 ・海戦参謀部長 海軍 古賀峯一こがみねいち中将

 ・空戦参謀部長 陸軍 東久邇宮稔彦王ひがしくにのみやなるひこおう中将


 主要人事は、陸海軍半々で割り当てられているが、人材は適材適所といってよくこの体制で軍部は悪化する東アジア情勢に対応することとなる。


 様々な事情が積み重なった結果、1872年兵部省から分離された陸海軍は二・二四事件を契機に国防省と言う形で再び合流し、陸海協力の下で悪化する国際情勢へと対応することになるのであった。

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