第五話 さまよえる民の悲願
朝鮮民族が滅亡寸前であることは、火を見るより明らかであった。
朝鮮自治政府などを始めとする親日勢力は、朝鮮独立派及びそれを支持する殆どの朝鮮民衆によってことごとく虐殺されていた。
また、朝鮮派遣軍による朝鮮制圧時にほとんどの朝鮮民衆が派遣軍に対し攻撃を加えたため、派遣軍は朝鮮人に対する無差別攻撃を決定、朝鮮半島で生活していた朝鮮人は全滅し、もはや国家機構の再生は不可能であった。
更に、日本国内にいた朝鮮人の多くが朝鮮独立派蜂起という知らせに呼応し、日本各地で国家転覆を画策した為、治安維持法違反・内乱罪・外患誘致罪などの罪で容赦なく逮捕されていた。日本国民の対朝鮮人感情も悪化の一途をたどっており、朝鮮自治政府の復活が許される状況ではなかった。
この状況を待ちわびていたのが、河豚計画の始動を命じていた日本政府であった。朝鮮自治政府の崩壊・朝鮮民族の滅亡・国内世論の対朝感情悪化は、河豚計画を実行するには必要なことだったのだ。
河豚計画の内容。それは、朝鮮半島反乱に伴う朝鮮民族虐殺及びユダヤ人国家建国計画であり、第二次朝鮮出兵以降の出来事はすべてこの河豚計画に基づいて行われていた。
満州王国建国後、陸軍参謀本部第五課及び第八課は、ユダヤ人の技術力・経済力を何とか日満両国に導入することができないかと思案していた。同様に、今や大日本帝国最大の汚点ともいえる朝鮮半島をどう扱うかにも頭を悩ませていた。
朝鮮半島の価値は、満州王国建国に伴い大幅に低下しており、日本本土及び満州王国への投資を諦め数十年かけて開発しなければいけないほど、朝鮮半島は使えない土地だと判断されていた。
二つの問題は全く無関係なものと見られていたが、ある一人の課員の「朝鮮半島はいらないんだよな、ならそこにユダヤ人国家を造ればすべてが丸く収まるんじゃないか?」という閃きによりすべてが変わった。
この課員の閃きに当初は多くの課員が戸惑ったものの、試しに研究を行ってみた結果今までの案の中で一番現実的な方法であると判明した。研究結果にこれで問題が解決すると判断した両課は、正式にその計画案を立案、陸軍大臣・参謀総長らの陸軍上層部に意見具申を行い政府首脳陣へ働きかけるよう要請したのが、すべての始まりだった。
そして、閣議にて承認を得ることに成功した陸軍はその威信にかけ朝鮮半島における工作を実行、朝鮮独立派を蜂起させることに成功したのだった。朝鮮半島に対する工作成功を受け各機関は世界中での工作を開始、数か月で成果を出す事に成功した。
1933年9月21日、朝鮮自治政府首都であった京城において、シオニスト機構七代目代表ハイム・アズリエル・ヴァイツマンは、ユダヤ民族の独立並びに
京城宣言を受け、河豚計画に関与していた日本・満州王国・英国は即座に東方イスラエル国を国家として承認、日満英経済協定への参加を認めると宣言した。三国の宣言に、イスラエルは参加容認に感謝するとの声明を発表、感謝の意として満州石油に対し多額の資金を無償で供与した。
また、この時点では公になっていなかったものの日満英防共同盟への参加も認められており、東アジア全体が共産主義に対抗するためにまとまろうとしていた。
日本政府は、日満安保とほぼ同じ内容の日東安全保障条約をイスラエルと締結、朝鮮軍もある程度規模を縮小したうえで在朝日本軍として存続することとなった。満州王国も満東共同防衛条約を締結し、対ソ・対中有事における協力を約束しあった。
東イ建国後、世界各地に散らばっていたユダヤ人・ユダヤ資本は、東イ領である朝鮮半島へ急速に集まり始めていた。しかし、東イが建国された朝鮮半島は、第二次朝鮮出兵によって完膚なきまでに破壊されており、イスラエル政府やユダヤ人は国土債権から始める必要があった。
その為、イスラエル政府及び多額の資本を保有しているユダヤ人富豪は、金に物を言わせて世界各国から大量の物資を輸入。当然、隣国かつ同盟国である日本・満州とは特に多くの取引が行われ、両国は後に朝鮮特需と呼ばれる空前の好景気に沸くこととなる。
日満各企業も、朝鮮自治政府時代とは打って変わって朝鮮半島開発の為に東イに事業を展開、ユダヤ人の持つ潤沢な資金のおかげか多くの中小企業が発展するきっかけにもなっていた。
そんな中、日本国内では経済成長に押されるような形で大規模な国内改革が始まろうとしていた。
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