第12話 ボクの答え

「じゃあ、私と付き合ってくれるってこと?」


 喜び。


 嬉しそうに両手を頬に当てちゃってさ。


 やっぱりアンタ、頭悪いよ。


 調子に乗っているお馬鹿ちゃんに向かって走る。


 油断していた羽衣が腕を掴もうとしてくるけど、遅い。


 刃物を向けたなら、最後まで向け続けろよ。


 言ってやんねえけど。


 勢いよくベランダの戸を開け、そのまま幅数センチの手すりの上に立つ。


「和っち!」


 慌てた羽衣が部屋を出てこようとするのを、


「止まって」


 力強い声で止めた。


 柔らかな風がボクたちの間を通り抜けていく。


「あのさあ、恐怖ってMAXまで行っちゃったらさあ……なんでもできるような気がしてくるんだな」


 無敵になったような感じ、と言い換えてもいい。


 あくまで個人的見解。


 他の人がどうかは知らないし、もう知ることはできない。


「どうするつもりなの」


「どうって」


 決まってるじゃん。


「アンタに殺されるのは御免」


 絶対に嫌。


「アンタと付き合うのも御免」


 だから、私の選択肢は一つ。


「アンタは好きなようにしなよ。生きててもいいし、後追い自殺してもいい。でも」


 生ぬるい風を肺いっぱいに吸い込む。


 都会の空気は汚いってずっと思ってきたけど、意外といいもんだな。


「あの世で一緒になることはない。ボクは千亜のところへ逝く。なにがあっても」


 地獄の炎に焼かれようと、絶対に。


 天国へと這い上がって千亜を見つけ出してみせる。


「じゃあな」


 言い残した言葉はもうない。


「和っち! お願いだからやめて」


「……」


 これ以上会話するつもりはない。


 羽衣が一歩踏み出した瞬間。


 カラダの力を抜いたボクを風がさらってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る