第7話 地獄のお誘い

 スタジオに戻ると、ちょうどレッスンを再開する時間になっていた。


 タオルを荷物のところに置いたボクに、


「和っち!」


 ヤツが話しかけてきた。


 自分から話かけるのは抵抗あるし、今更なにを話せばいいのかわからないからちょうどいい。


 じゃない。


「なに、もうレッスン再開するよ」


 加子の視線を感じて仕方なく返事をする。


「今日、この後予定ある?」


「ないけど」


「やった!」


 なにが「やった」だ。


 意味不明。


「勉強教えて!」


「は?」


 想定外の言葉に、ポカーンと羽衣を見つめてしまう。


「それなら他の人に――」


 高校はちゃんと卒業しましたが大学には進学していないボク。


 自分より賢いメンバーに頼れば、と言葉を続けようとしたのに言葉を遮られた。


「和っちがいいの!」


 なんだその理由ー!


 どういう思考回路してんだよ。


 正直断りたい。


 断りたいんですけれども……加子がめっちゃ見てる。


 ガン見してる。


 はぁ、仕方ない。


「いいよ」


 たった三文字を行っただけ。


 それだけで疲れました。


「ありがとう! じゃあ、和っちの家でいい?」


「なんでだよ」


 思わず即つっこんでしまった。


「羽衣の家でいいじゃん」


 家に入れたくない。


 アンタなんかを。


 千亜の偽物を。


「親戚がね泊まりに来ててね、うるさいの。だからいいよね?」


 こいつー。


 笑ってればなんとかなると思ってないか?


 騙されないぞ。


 偽りの笑顔なんかに。


「いいよね?」


 二度目の確認。


 これ、ボクが了承するまで続くだろ。


 チッ。


「わかったよ……その代わり、ちゃんと家に連絡しといてよ。ボクの家で勉強してから帰るって」


「うん!」


 はぁ……気が重い。


 メンタルに引っ張られてカラダも怠い。


 ピョンピョン飛び跳ねる羽衣とは対照的だ。


 そんなこんなで、この後のことを考えてレッスンに身が入らず、先生から滅茶苦茶怒られたのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る