第6話 リーダー命令

 加子の家で打ち上げをしてから数日後。


 夏休みに入った梨美と羽衣は、レッスンスタジオに課題を持って来ていた。


 ボクが学生の頃よりも量が多くて大変そうだ。


 レッスンの休憩中に勉学に勤しむ高校生二人を眺めていると、


「和っち、ちょっといい?」


「ん?」


 加子がスタジオのドアを首の動きで示しながら言った。


「いいよ」


 空調が効いているとはいえ、踊れば暑い。


 タオルを首にかけたまま加子とスタジオを出る。


「あっつ」


「暑いね」


「なに、スタジオじゃ話せないこと?」


 来たときは涼しいと思ったのに、廊下はスタジオよりも暑かった。


 早くドアの向こうへ戻りたい。


「私もさっさと戻りたいから単刀直入に言うね」


 おっと。


 声に出てたみたい。


「おん。なに」


 加子はポケットからスマホを取り出し、


「これ」


 こちらに差し出してきた。


 くっつくと暑さが増すような気がして、適度に距離をとりながら画面を覗き込む。


「は?」


 表示されていたのは、


「なにこれ」


 SNSの検索欄に『和奈 羽衣』と入力され、予測変換機能で『不仲』と書かれたもの。


「ボクたち知名度が低いのに、こんな――」


「そこは今いいでしょ」


 ピシャリとシャットアウト。


 あれ、怒ってる?


「あのさあ……裏で仲が悪いのは仕方ないって個人的には思うよ。メンバーだから無理して仲良しこよしする必要はない。でも」


 間違いなくキレてる。


 口調ににじみ出てますよ、リーダー。


 茶化したらブチギレられそうだから黙って話を聞きますけど。


「ファンに見透かされちゃったらダメでしょ。アイドルなんだから。知名度が低くったってプロなんだから。そこはしっかりしてよ、ねえ」


「……仰る通りです」


 返す言葉がございません。


 そうだよなあ。伝わっちゃうよなあ。


 ギスギスした感じって。


 不仲って。


 まぁ、ボクが一方的にガン無視してるだけで、羽衣は普通に接してくる。


 ふと思ったんだけどさ、ボクだけ悪者にされてない? 加子の中で。


 腹立ってきたな。


「羽衣にも問題アリアリだろ。千亜に成り代わったように振舞ってさ、気持ち悪いんだよ」


「だ・か・ら」


 スマホを引っ込め腕を組んだ加子は、


「裏ではどうでもいい。表では、ファンの前ではちゃんと仲良くしろ」


 ボク言い分は聞き入れてもらえず。


「わかった? これ、リーダーとして『命令』だから。グループを辞めるか、羽衣と仲良くするか。どっちかだよ」


「えー……」


 そんな二択ズルいじゃん。


 ボクだって、千亜の分まで頑張りたいんだ。


 羽衣のやり方は気に入らないけど。


 仕方ない。


 腹の中に大量の不満をため込んだまま、渋々頷いたのだった。

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