第4話 地獄の打ち上げ

「はい、それじゃあカンパーイ!」


 始まってしまった打ち上げ。


 打ち上げ自体は嫌いじゃない。


 むしろ好きだから、他メンと同じようにグラスを掲げる。


 早く終わんねえかな。


「ねえねえ和っち、なんか取ろうか?」


 成人組が調達してくれた食糧。


 お寿司、サラダ、パン、ご飯、お菓子などなど。


 お金を払おうとしたら、


「未成年からお金は取りませーん」


 と言われた。


 感謝感謝。


「和っち?」


 ボクの右隣りに座った羽衣が顔を覗き込んでくる。


 鞄を置いて座らせないようにしていたのに、勝手に鞄をどけて座りやがった。


 頼むから話しかけないでくれ。


 座ったことについては我慢してあげるから。


「和っち」


 ローテーブルを挟んで真向いに座った加子。


 名前を呼んだのは、多分「テメエいい加減にしろよ。羽衣に返事しろ」ってこと。


 あっ、多分じゃなくて絶対だな。


 威圧感ハンパねえもん。


 仕方ない。


「大丈夫」


 必要最低限の言葉だけを返したのに、


「そんなこと言わずにさ! ほら、お寿司美味しそうだよっ」


 数カ月ぶりに返事をもらえたことが嬉しかったのか、キャピキャピうるせえ。


「自分で取る」


 無駄な言葉は発しないからな。


 そう態度で示しているつもりなのにな。


「はい!」


 勝手に紙皿にお寿司やらサラダやらを盛りつけて差し出してきました。


 Hey、加子。


 どうしてくれんだよ。


 アンタが招いた事態だぞ。


 ヘルプミー。


 なんて思っていても、当の本人はメンバーと話していてこちらに無関心。


 放置すんなっ。


「和っち?」


「どーも」


 受け取りましたよ。受け取りましたとも。


 いつまでも皿を持たせたままにしておくわけにはいかないでしょうが。


 仕方なく、です。


 その後も羽衣に話かけられ続け、淡泊に返事をし続け。


 無駄なエネルギーを使いまくったボクは、


「眠いなら寝ていいよ。明日休みだし、泊まっていきな」


「サンキュー加子……」


 放置された恨みよりも眠気が勝り、素直にお言葉に甘えることにした。


 誰かが用意してくれたクッションに頭を乗せる。


 自分が思っていた以上に疲れていたのだろう。


 目を閉じればすぐに、ボクは静かに眠りの世界に誘われた。

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