第2話 地獄のお誘い

「この後打ち上げしない? メンバーだけで」


 ライブ後、珍しく加子が提案してきた。


「珍しいこと言うね。飲み会、苦手じゃなかったっけ?」


 同じく不思議に思ったらしいおなつがスマホをいじりながら言った。


「未成年いるから、飲み会じゃなくて『打ち上げ』ね。ノンアルノンアル」


 答えになってないし。


 たしかに加子、樹里亜じゅりあ真衣まい、お夏、かおるの5人が成人。


 残りの3人――ボクを含め、梨美りみ、羽衣は未成年だ。


 別に居酒屋に行ったってアルコールを飲まなきゃ問題ない。


 けど、居酒屋ってお酒を飲む場だし。


 テレビに出ているようなアイドルと違って知名度が低いとはいえ、ボクたちはアイドルだ。


 ファンと遭遇したり、SNSに遭遇情報を書き込まれたが最後。


「お酒を飲んだんじゃないか」


 噂がたってしまう。


 それだけで致命傷だ。


 ボクたちは今再始動し始めたところで、大事な時期なんだから。


「ま、いっか。私も久しぶりにみんなと打ち上げしたいし」


 千亜が亡くなってから初めてのライブ。


 ちゃんと盛り上がった。


 ボクたちはアイドルとしての役目を果たした。


 その高揚感からか、お夏は打ち上げに前向き。


 うーん。


「えーじゃあ私も行く!」


「「「私も」」」


 成人組はすっかり乗り気。


 ハモちゃってるし。


 対して私は、全然乗り気じゃない。


「私も行く!」


 おっと。


 梨美もかよ。


 返事をしていないのはボクと羽衣だけ。


 自然と視線が集まる。


 そっと視線をそらし、荷物のまとめることに集中しているように見せながら、心の中で明言する。


 羽衣は絶対行く。


 だって、


「羽衣も行くぅ」


 千亜は打ち上げが大好きだったから。


 必ずといっていいほど毎回参加していたから。


「和っちはどうする?」


 荷物をまとめ終えたのか、羽衣は私の目の前に立って聞いてきた。


 必然的に見上げる形になる。


「……」


 無視します。


 しっかりと目を見たうえで。


 これまで通り。


 今まで喋ってなかったのに、急に話し出すのは変でしょ。


 というか、根本的に喋る気はないし。


「そんなこと言わずにさ、ほら行くよ!」


「はっ!? え、ちょっと待てよ」


 荷物をまとめ終えてしまっていたのが悪かった。


 鞄を加子に持たれて、腕を引っ張られて立たされる。


「はいはい。行くよ」


「いやいやいやいや」


「和っち」


 ボクにしか聞こえない声量で、


「このまま一生羽衣と喋らないつもり?」


「そうだけど。なんか文句ある?」


「あるよ。メンバーなんだから。ずっとこのままっていうのは許さない」


 ニコニコしていらっしゃいますけど、目の奥が笑ってないのよ。


 こえーよ。


「はいっ、和っちも行くって!」


「りょー」


 あぁ……一言もそんなこと言ってないのに。


 押しに弱い自分が情けない。


 全員荷物を抱え、歩き出す。


「って、だからどこに行くの!?」

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