第1話 生まれ変わりなんて戯言

 ファンの中で【うーたん羽衣ちーたん千亜の生まれ変わりだ】


 いや、羽衣ういは死んでないんですけど。


 生まれ変わりって表現はおかしい。


 だけど、そう言いたくなる気持ちはよくわかる。


 明日のライブに向けて鏡の前で練習をする羽衣を見ながら、再びスマホに視線を落とす。


 羽衣の豹変ぶりを歓迎する声。


 千亜の仕草を丸ごと真似する羽衣を気持ち悪がる声。


 羽衣が精神を病んでしまったのではないかと、心配する声。


 SNSの声は大体こんな感じで3種類に分類される。


「そりゃ気持ち悪いよなあ」


 いくら千亜と顔が似ていたって。


 姉妹みたいと言われていたって。


 羽衣は羽衣。


 千亜は千亜。


 成り代わることなんてできやしない。


 彼女がやっていることは、死者への冒瀆だ。


 ファンが受け入れた派と受け入れられない派、様子見派に分かれたのと同様に、メンバーも対応が分かれた。


 なにを言っても「千亜の分まで頑張る!」としか言わない彼女を仕方なく受け入れたのが3人。


 気持ち悪がって距離をとっているのが4人。


 怒っているのが……ボク1人。


 初めて羽衣の豹変ぶりを目にしたあの日から、ボクたちはまともに会話をしていない。


 正確に言えば彼女は事あるごとに話かけてくる。


「今の振り、千亜っぽかった?」


「今の歌い方、どうだった?」


「羽衣は千亜になれてる?」


 鬱陶しいったらありゃしない。


 毎回無視しているのに、めげずに話しかけてくる。


 メンタルどうなってんだよ。


 鋼か。


 ダイヤモンドか。


 まぁ、その図太さがないとこんなことできないよな。


かずっち」


「ん?」


 顔を上げると、眉間に皺を寄せたリーダーの姿があった。


「なに、どうしたの」


「『なに』じゃないでしょ。今日も羽衣と一言も交わさないつもり?」


「うん」


「即答かよ」


 グループをまとめる加子かこは、現状をどうにかしようとメンバーに声をかけまくっている。


 つまり、最悪なグループ内の空気を打開しようと頑張ってくれている。


 その原因を作っている一人……というか、主にボク。


 他のメンバーには申し訳ないけれど羽衣を許すつもりはない。


 彼女が千亜の真似をやめるまで。


 絶対に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る