第十話 カードゲーマー
「不死カウンターが貯まったから、三つ使って1000ダメージを与える」
「分かった……ダメージを受けた時、俺は指令『合成の儀式』をオーダーする。『合成の儀式』の効果で俺の“聖戦領域“に存在する使徒を二体以上対価に捧げ、手札から『|合成獣(キメラ)』と名のつく使徒を特殊召喚する」
僕の前で、つとむんむんとアキラ50%が神話戦争をしている。
正直何言っているのか僕にも分からない。
彼らがやっているのはアニメ化もしている大人気カードゲーム『セレクトワールド』と呼ばれるものだ。
世界の選択という意味を持つ通り、複数の世界の文明があり、プレイヤーはその中から一つの世界……つまりテーマを選びデッキを構築する。
つとむんむんは『不死』のテーマ。
アキラ50%は『混沌』のテーマ。
バトルフィールドは『聖戦領域』と呼ぶ。でも、長いからフィールドとか呼んでも通じる。
いわゆるモンスターカードが『使徒』。
魔法や罠みたいな効果を持つのが『司令』。
使徒や司令カードの効果を使う時はオーダーと宣言する。
このゲームは異なる世界を管理する神々が己の使徒と力を屈指して神話戦争を制するのを目的にするらしい。
これが僕にできた読み取りだ。
これ以上を知りたいなら聞くしかないわけだけど、みんなも分かってる通り、オタクと呼ばれる人達は僕含めて、好きなことを語らせるとえっらい長くなるから、聞くに聞けぬ。なんならこれを“拓斗する“と言い換えてもいいぐらい。
だから僕は徐々に臭いに慣れ始めた鼻の心配をしつつ、カードショップの奥側のプレイコーナーでみんなの戦いを見守っていた。
ちなみに神楽道さんはミルク姫と戦っている。
「ここでフィフ頼みとか確率オワロス」
「でもフィフ越えでアド確だし」
「希望的観測過ぎ出直し乙」
「要研究。新弾のはめマリ受け盤面の展開がスムーズ」
「待ち盤面沼るし、助かる攻め救済」
「蓄積でメリ有りだからオケ」
「でも、ソル勘弁」
「ずっと、マイターン」
おい。なんだあのプロ棋士同士の研究成果お披露目みたいな圧縮言語のやり取りは!
ちっとも分かんねぇーよ!! 日本語喋れ!
「あー相変わらずミルク姫さんは『自然獣』のテーマなのにガチムチで固めてんだ。あれ、ソルと間違いなくマイターン化するからなぁ」
「それに対してココミッチーは『破滅』の新弾、はめマリのカウンターを試しているようだな。攻め苦で沼るから、ソルやられると暇を持て余す」
「俺もミルク姫さんとやると沼るけど、アキラ50%さんだとゴリ押しいけるから強いよね」
「その代わり、はめマリの受け盤面には無力だな。つとむんむんなら、安全構築で城塞化して削れるだろう」
「それやると、またココミッチーさんにソル勘弁言われるなぁ」
「マイターンしないだけマシだろう」
何故お前らも戦いながら、あの話が理解出来るの?
正直僕にはさっぱりだよ!
でも、なんか聞いていて飽きない。
こう、極めたらこんな会話になるよね〜みたいなね。面白さがあるから。
「なんか僕もやりたくなってきたかも……」
よせばいいのにボロっと言ってしまう。
「ビッグ、デビューしちゃう? オヌヌメは『創成』か『世界竜』かな」
「どっちもアニメ版で主人公とライバルが使っていたテーマだな」
「そうそう。アニメ流し見すればおおよその流れ把握出来るし、優遇されてるからバリエーションが多くてカスタム性抜群だよ」
「ビッグ。何か欲しいカードがあったりしたら言ってくれ。おおよそ家にあるから」
「やっぱり独身貴族は趣味に金使えるのが強みだよねー」
「周りで結婚した奴らはみんなしんどそうにしているのを見るとな。俺には結婚は無理だ」
「結婚イコール人生のゴールじゃなくなった空気あるよね」
「むしろ今までが異常だったと思う。個人の人生に周りが干渉し過ぎた」
僕にオススメしつつ、世間話に流れるようにシフトしている様子からして、本当に仲良しなんだなぁって不思議に思った。
(ネットだけの知り合いでも、会えばこうやって仲良くなれるんだね)
なんか良いなぁって思った。
最近は孤独死とか、若者は他人に冷たすぎるとか騒がれているけど、それは純粋にネットに個人の情報が流れすぎて、今まで目にしてこなかった部分が浮き彫りになっただけだと思う。
(常に存在していた概念なれど、観測しなければ無いにも等しいのかもね)
話題に上がらなければ、近くに居なければ、存在しないことになる。
昔から孤独死も冷たい人も居たというのに。
(そして、どれほど才能に溢れようが、周りの人が理解してくれなければ凡人と同じという評価になる)
フィンセント・ファン・ゴッホとか言う人は死んでから描いた絵が評価されたように。
結局、巡り会えるかどうかなのだ。
自分の理解者というのは。価値を分かってもらえるのは。
そういう意味では、僕は恵まれている。
美澄さんという理解者が居るから。
空っぽの器は視認しなければ気にすら留めないだろう。
でも、一度でも存在を視認してしまうと、気になって仕方なくなる。
深淵をのぞく時、深淵もこちらをのぞいている。みたいな、ね。
そうして少し臭いが気になりつつ、オフ会は無事に終わりを迎えた。
☆☆☆
オタクというのは用事が済むと直ぐに帰る傾向にある。
このメンバーでもそれは同じであった。
半日近くカードショップで過ごし、夕暮れときにあっさりと解散する。
誰も、飯食いに行こうとか、二次会だー! みたいに人が居ない。
でも、それが心地よい。必要以上に接するのではなく、お互いの無理のない範囲で接する。共存の理想系だと思う。
それに名残惜しいと、次が楽しみになるからね。今回だけでオフ会は終わりを迎える訳じゃない。これからは定期的に集まり遊ぶのだろう。
そして僕もその一員として迎え入れられてしまった。しょうがないな〜帰ったらアニメ見てやんよ♪
そして、いずれ彼らの会話すらついていけるようになったら、美澄さんや拓斗にマウント取りつつ、早口で教えてやろう。圧縮言語でな!
そんなくだらないことを考えながら神楽道さんと電車に乗る。
少し混んでいて、彼女は居心地が悪そうに端っこに寄る。
彼女の壁になるべく、僕は他の人をブロックだ。任せろ、ディフェンスはそこまで得意じゃない。もちろん僕も指一本触れませぬ。
「あんがとね。……君なら割と平気かも」
「気にしないで。彼氏の務めだからね!」
後半ボソッと言うけど、耳のいい僕には聴こえてるよ! 凄く嬉しいです。
でも気分が悪そうだから努めて明るく言う。
「言うねぇ〜“仮“だからね? 勘違いするんじゃねぇーぞぉ〜?」
くすくすと笑ってくれた。
そして少し照れくさそうに彼女は俯きつつ言う。
「君を連れてって良かった」
「僕も連れていかれて良かったよ」
本当に。彼女の意外な一面が見れたもの。
「ねぇ。神楽道さんはオタクだったりする?」
僕は自然と踏み込んだ。
「割とガチ勢だったりするね〜」
彼女も受け入れてくれた。
「じゃあさ、あのラノベ知ってる? 山本君が持ってたやつ」
「あれ、アニメ化する予定のやつだよね〜いいセンスしてんじゃんと思ったよー」
「本当だよねー。いじめっ子の彼らには反省してもらわないと」
「だねー。でも、君に言い負かされた主犯は学校を休んでるみたいだよ。手下たちは今や新しい寄生主を探しちゅー」
「言い方悪いなぁ」
「でも嫌いじゃない?」
「うん」
「照れるぜぇ〜」
僕たちはもう友達だった。
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