7/26 ただいま待機中【Day26.すやすや】
リノリウムの床にヨガマット、そこに寝転がる男が三人。ひとりはB5サイズのノートにボールペンで何かを書き殴っており、もうひとりはその年頃の人物が読むにはかなり易しい小説を読み、最後のひとりはおもむろに腹筋をしていた。三者三様とはまさにこのことである。
「……っていうか、押し過ぎじゃね」
書き殴っていた男、
土屋の一言で、小学三、四年生対象の児童書を熱心に読んでいた
「なあ、永介。俺ら何時から撮影開始って言ってたっけ」
「開始時間がそもそも機材トラブルで一時間押しだし、他の演者さんのトラブルで更に一時間押してるから──まああと二時間は待った方が良いんじゃない?」
「待て待て、開始から三時間経ってるのにそれは算数が変だ」
「人為的でないミスが起こった時は人為的なミスも連鎖的に起こるものなのだ」
自転車を漕ぐような足の動きをしながら上体起こしをする
今日は『
「あれ、そういえばですが他のみんなはどこに……」
「いっちゃんは踊りに行った、あとなもくんと太一も」
「ブレないなあの人。……振りの確認?」
「斎くんのユニットはダンスナンバーですからね」
「のでさんとつっきー、ゆうは多分先輩回りに行ってる。つっきーとのでさんのに、ゆうが一緒についていく形で」
「……それは俺らが行かなくても大丈夫なやつ?」
「九人で来られても嫌じゃん、気ぃ遣うじゃん」
「それはそうか」
現在ヤギリのデビュー組の中でいちばん年数が少ないのが『read i Fine』であるため、当然入りの時間は一番早い。後から来た先輩たちに挨拶をするのも自分たちの務めだが、デビュー組で一番の大所帯であるため全員で行くと確かに圧がある。しれっと行ってしまう
ぼす、と何かが置かれる音がする。桐生と土屋が顔を向けると、高梁が本にしおりを挟んで突っ伏していた。
「ねむくなってきました……」
「言うなよサーシャ、俺も眠くなってきたじゃん……」
「じゃあもう寝ようよ」
タオルケットが誰かの荷物にあった気がする、と言って桐生は立ち上がった。決めたらとことん早い男だ。メイクさんから調達をし、ひとり一枚配って全員仰向けになった。
「え、マジで寝るの?」
「マジで寝るよ。体力温存しとかないと」
「おやすみなさい!」
「元気良いな⁉ 体力温存はその通りだけど……」
「眠れないなら添い寝してあげようか」
「とことん寝かそうとするな……いや、添い寝はいいです」
桐生は土屋の方へ寝返りを打ち、彼を見遣る。その距離の近さと微妙な生々しさに土屋は目を背けた。反対側の高梁もまったく同じことをしていたのだが、逃げ場がない。
「お前おやすみなさい言っただろ⁉」
「おやすみなさいはあいさつで、寝るタイミングを教えるものじゃないです」
「ド正論」
「いつからこんな可愛くなくなったんだこいつ……」
「私はかわいいですよ。今も添い寝、するんじゃなくてされようとしてます」
「俺が添い寝すんの?」
「添い寝連鎖だね」
お眠りよ~と妙な美声と麗しい抑揚で歌う桐生は土屋の腹をぽんぽんと撫でる。高梁は土屋の腕を取り、そこに抱きつくようにして体を横にした。とんでもない密着度、圧縮度だ。寝苦しいことこの上ない、と最初は思っていた土屋も数分もすれば寝息を立てていた。妙な密着度が体温を与え、安心させたのだ。三人とも穏やかな眠りについた。
「ただい──おっと」
「どうした滉太」
「亜樹たちが寝とるから静かに」
「寝……? ……マジだ。仲良いなあこいつら」
「侑太郎、来てみぃ。面白い光景が広がっとるわ」
「はい? ……ぶっ、ガチ寝じゃん。どうしてこんなことに……」
「待ちくたびれたんだろうな」
「一部リスケになるかもって話やけど、どっちにしろ準備はせんと」
「……つっきーのそういう情報ってどこから入ってくんの?」
「さあ? まあ静かに過ごさんと。起こしてまうのは申し訳ない」
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