7/22 少年らしく【Day22.賑わい】

「宿舎戻ってもやろうよ~! 負けたまんまじゃ眠れないんだって!」

「それは良いけど多分負けるぞ、お前」

「分かんないじゃんそれは! ね、つっきーいいでしょ?」

「ええけど夜更かし厳禁な」


 のでさんおねむやから、と月島滉太つきしまこうたが悪戯っぽく笑えば名指しされた佐々木日出ささきひのでは眠くないと顔を顰めた。そんなふたりの間に割り、両者と腕を組んでご満悦なのは日出の弟の水面みなもだ。

テレビ局を出ると送迎の車にさっさと乗りこむ。先程までバラエティ番組の収録だったのだ。十五分もすれば宿舎の前に着いた。


「じゃあ、なんか賭ける?」


 バラバラと机にトランプを落としながら日出がふたりに訊く。シャッフルできなさすぎやろ、と月島が机の上に散らばったカードをかき集めながら綺麗に整えた。日出の手に残っているものもすべて回収し、改めて切り直す。


「ごめん、手が小さくて」

「オレよりは大きいやんか。その言い訳が通用すんのはうちだといっちゃんだけやで」

「いっちゃんマジで手小さいよね」


 同じグループのメンバーである御堂斎みどういつきは小さくて肉厚な手をしている。ぱっと見もちもちしていて可愛いのだが、握力はこの年代の男性平均より上回っているので見かけによらないと水面はよく思っていた。

 閑話休題。月島は手際良くトランプを切り終わると全員に配る。五十三枚のカードが三山になると、それぞれ自分の手札を見てペアになるものを中心に捨てていった。そう、ババ抜きである。収録の待ち時間もずっとやっていたのだ。


「楽屋での勝率覚えてる?」

「そんなん覚えとらんよ、なあのでさん」

「三回目と五回目一位で、一回目と二回目は二位、四回目だけビリだった。一回目と二回目と四回目は滉太が一位。戦歴トップは滉太」

「よお覚えとんな⁉」

「人の行動にちなんだ記憶力は良いので……」


 文字だけ追うよりも得意と日出は呟くが、比較しての話なので文字を追っただけの記憶力もそれなりに良い。感嘆する月島と水面の様子にくすぐったくなったのか、カードを引かせろと言わんばかりに手を出す。慌てて月島が扇形にカードを広げた。


「滉太は三回目と五回目は二位。水面は四回目以外ずっとビリ、多分今回もビリ」


 スペードとハートで三が揃い、日出は中心にカードを捨てた。

 月島が水面の手札を引こうと手を出す。


「演技力あるはずなのに何でババ抜きこんな弱いんやお前……」


 月島は揃わずに引いたカードを手札に混ぜる。

 水面が日出の手札を引く。


「演技力とババ抜き力は別じゃないの? ……あ、」

「あ?」


 思わず声を出してしまったという風な水面を、日出が目を見開いて覗き込む。動揺したのが丸分かりな水面は顔を背けた。

 その一連に月島は噴き出した。確実にババを引いたのだろう。


「み、みなもん……おま、お前、ほんま……」

「何でもないよ」

「妙に早口なところが怪しいわ! はい、のでさん引いたって」

「引く~。水面は昔からアドリブ苦手だったもんね~」

「喋り方真似しないで……」


 手札を伏せて机に突っ伏してしまった水面。日出が弟の口調を真似する時は必ず、弟を煽りたい時なのだ。にやにやしながらさながら本物の扇子のように、手札で自分を扇ぐ日出を水面は恨みがましく見つめた。


「や、お前が悪いからな?」

「つっきーうるさい! ババ引け!」

「やっぱババ引いたのお前かい! ……残念やったなあ、普通に揃ったわ」

「え、なんで揃うの?」

「いやそういうゲームやんこれ……」


 相手の手札を引いて自分の手札とのペアを作り、手札がゼロになる速さを競うゲームである。揃わない確率より揃う確率の方が高いに決まっているのだが。


「ちなみに何か賭けようよ、何が良い?」

「その話まだ引っ張るの?」

「高いケーキが食いたいから高いケーキで」

「だって水面。頼んだ」

「なんでぼくが負けること前提なのお~!」


 ここから勝つかもじゃん! と最早何も隠さない、開き直った発言をする水面だが一向に月島はババを引かない。引かないまま、月島は何故か一位で上がってしまった。双子での一騎打ちだ。


「ここまで負ける気がしないこともないな」

「ほんっと、煽り過ぎだからお前……見てろよマジで!」


 結局水面が負けた。


「で、何見てれば良いんだっけ?」

「ああああ腹立つぅうう!!」

「煽りでも勝てる訳ないのに煽ったらあかんてお前……」


 本当に嬉しそうな笑顔を浮かべて弟の醜態を見つめる日出にぞっとする月島だ。仲が良いことは嫌というほど知っているが、こういう時の日出には普通に恐怖を覚える。というかカメラの前でもそういう顔をして欲しい、その顔のカメラ目線を待ち望んでいる“&YOUエンジュー”がどれほどいると思っているんだ。


「なもちゃん、お兄ちゃんハーブスが食べたいなあ」

「くそお、豚になってしまえ……」

「え、ホールで買ってくれるの……?」

「誰が買うか! 要求上げんな!」

「うふふ」


 弟へ煽りを籠めたダル絡みをする日出を見て、こう見ると年相応だなと月島は思った。

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