7/7 見せたい見せたくない【Day7.酒涙雨】
昼間は晴れてたのになあ、夕立に打たれる傘の下で
「最近雨ばっかじゃんね?」
「そんなことないだろ。どっかでは水不足って言ってたし」
「ここら辺の話をしてるんですが……」
桐生が呻くように返事をすれば目の前はもう宿舎だった。今日はメンバーの
ちなみに桐生と土屋は買い出しに行っただけであり、実際に作るのは日出本人である。どうやら試したいレシピがあるそうだ。
食材を冷蔵庫に仕舞い、またデザートのアイスは冷凍庫に押し込みふたりは居間のソファに腰掛けた。壁越しの雨音と、じんわりした湿気が冷風によって吹き飛ばされていく感覚でじわじわと回復していく。雨天の外出は疲れるものなのだと改めて実感した。
「えいちゃん、これ見て」
「なに? 画面近すぎて全然分からん」
「目が悪くなりあそばした?」
「画面と鼻がくっつくのは『近すぎる』ではないのか、お前にも同じことをやってやろうか」
「冗談だって。ほらこれ」
土屋が少し遠ざけたおかげ見えたスマートフォンの画面は、夜を背景に何かがぼんやりと光っている写真だ。なんだこれ、と首を傾げかけて桐生は思い至った。そういえばこの男、先日ひとりで温泉に行って蛍を見たと言っていたな、と。
お土産を配りながら得意げに話す土屋をメンバー全員で、次行くなら俺も連れて行けと脅した記憶が蘇る。そういえば写真を見ていなかった、というか撮っていたのか、写真。こいつが、珍しい。
「旅の思い出くらいは撮るよ」
「メンバーの顔は撮らないのに」
「私用では。社用スマホにはぎっしり入ってるし」
社用スマホに写真がぎっしり入っているのは当然のことなのだ、だって仕事柄オフショットは多ければ多いほど良い。そういう意味ではオンとオフを使い分けできていて、且つ仕事に対しては勤勉な男なのだ、土屋亜樹という人間は。
メンバーとしては頼りになるし尊敬もできる、だけど友達としては?
「亜樹と旅行行ったら写真撮ってくれるの? 俺のことも」
「は?」
「なんかふと思った。旅の思い出なら写真撮るっていうなら、俺と行ったことを思い出にすりゃあいいじゃんか、って」
「……それは、社用で撮ると思う」
正直なところ、予想はできていた返答だった。桐生は膨れ面になり、土屋の太腿に転がり込んだ。重いと言われても知ったことじゃない、膝枕を堪能してやる。
「つか暑い! 引っ付くな!」
「『あきさま』の膝枕堪能中、って透にメッセ送っても良い?」
「やめろやめろ、帰ってきたサーシャにべたべたされるのは俺なんだぞ」
「まあ被害に遭う時はお互い様だよ」
透もといサーシャもとい
「てか勘違いしてるだろ、お前」
「なにがあ?」
「社用で撮るって言った意味。社用で撮った写真は表に出るじゃん、っていうか出す前提で撮るやつじゃん」
「そうだけど」
「こんな仲良い友達がメンバーにいるよ、って見せびらかしたいじゃん」
「は? 好きなんだが?」
「条件反射じゃねえか!」
たまらず土屋の腰に抱き着く桐生を、土屋は「暑いうざい!」と必死で引きはがそうとした。まあ無理だった訳だが。十秒もせず諦めた土屋は桐生の首に手を当て、その冷たさに驚いた。
「え、寒かった?」
「ん? や、そんなに? あ、でも引っ付いてても平気なくらいには寒いかも」
「お前今日オフショルだしな……。その服似合ってるよ、かわいい」
「大盤振る舞いじゃん……彼氏かよ……」
ユニセックスどころかガーリーな服まで好む桐生は、少々露出度が高い服を着ていることがままある。蒸し暑いとは言え気温は晴天より五度以上低い本日、冷房をいつも通りの温度で付けたら寒いに決まっているのだ。
「ちょっと温度上げたから。寒かったら言って」
「いや自分で温度上げるから大丈夫だよ。……それより、何の話してたっけ」
「俺が旅先の写真見せたらお前が勝手に嫉妬した話」
「ああそうだった、……折角七夕だしツーショでも撮る? 社用で」
「……それは私用で撮りたいな」
「なんでだよ!」
結局桐生の押しに負けて、社用スマホでツーショットを撮影した土屋であった。当然この写真は『
ちなみに投稿時のタイトルは『友達といるから今日も笑顔』で、土屋があまり笑っていないことをツッコむコメントがほとんどだったそうだ。
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