第19話 頑張れ!教師の卵
13話とリンク🔗
地面や木々は一面、真っ白な雪に覆われている。寒さが身にしみる中、雪は風に舞って地面をゆっくりと覆っていく。
街路や道路には除雪作業の痕跡が見られる。黒いアスファルトが見え隠れする中、除雪車が一生懸命に雪をかき分けている様子も顕著だ。通行する車や人々も慎重に移動し、雪の中での生活に慣れた様子が窺えた。
街路樹や樹木は、雪化粧をしている。その瞬間、木々は幻想的で、美しい景観を作り出している。雪の重みで枝が垂れ下がり、風に揺れる様子は、まるで自然の絵画のようだ。
庭先や公園にも雪が積もり、雪だるまや雪合戦で遊ぶ子供たちの姿が見受けられる。彼らは大きな笑顔で雪の中を駆け回りながら、冬の楽しさを存分に味わっている。雪の結晶が舞い踊る空間は、まるで童話の世界そのものだ。
夜は街灯の光が雪の中に反射し、幻想的な光景が広がる。街の中は静寂に包まれ、歩く足音や冷たい空気が耳に響く。雪が広がる景色は、冬ならではの美しさを感じさせてくれる。
2月16日(日)
竹内まりやの『マンハッタン・キス』がカフェで静かに流れてる。卜部健刑事は仕事終わりに立ち寄り一息ついた。カフェは落ち着いた雰囲気で、暖かい灯りが灯り、窓ガラスには霜が張っている。
卜部はテーブルに座り、注文したコーヒーを待ちながら外の景色を眺めた。窓の外には雪が舞い落ち、街並みは白い雪で覆われている。人々は厚着をして歩いており、寒さが身に染み渡る様子が見受けられる。
コーヒーが運ばれてきて、卜部はその香りを楽しみながらゆっくりと飲んだ。心地よい温かさが体を包み込み、日常の疲れを癒してくれた。カフェの中には穏やかな雰囲気がある。
カウンター席には他のお客さんもいて、1人で本を読んだり、友人と楽しい時間を過ごしたりしている。卜部は周りを眺めながら、思いを巡らせた。
彼は厳しい仕事に悩みながらも、正義感を持って真実を追求する刑事だ。犯罪の闇に立ち向かいながらも、自分自身を見失わず、心の平穏を保ちたいと願っている。
カフェの窓には次第に夜が訪れ、街のライトアップが冬の風景を一層美しく彩っている。卜部は心地よい雰囲気と雪の景色に癒されながら、新しい事件の解明に向けた気持ちを新たにした。
その新しい事件とは八坂の塔で起きた殺人事件だ。八坂の塔は風情ある神社の境内だ。雪が静かに舞い、周囲は神秘的な雰囲気に包まれていた。
被害者である瑞巌寺善吉学園長は、水神学園の重要な存在だった。彼は教育の世界で長年にわたり活躍してきた人物であり、多くの学生たちから尊敬されていた。だが、そんな彼は息子の為に過ちを犯した。彼の死は学園内外に衝撃を与えた。
事件が発覚したのは2月14日(金)の深夜であり、境内は静まり返っている。卜部刑事は被害現場に駆けつけ、証拠を調査し始めた。雪が降っていたため、足跡や物の移動がはっきりと残されていた。
卜部は周囲の人々や学生たちと話し、事件の真相を明らかにするために動き始めた。彼は被害者との関係やアリバイ、証拠品などを徹底的に調査し、可能な動機や犯人像を探った。
場面ごとに証拠を結びつけ、聞き込みをして状況を整理していくと、徐々に事件の謎が明らかになっていた。被害者は学園内で重要な立場にあり、その立場に嫉妬や反感を抱いている人物がいることが分かった。
卜部は容疑者を絞り込みながら、それぞれの動機とアリバイを徹底的に調査した。同時に、瑞巌寺学園長の人物像や過去の出来事にも注目し、事件の鍵となる情報を探った。
難解なパズルのように事件の真相を解き明かし、瑞巌寺善吉学園長の死の真相を追求していった。冷たい雪の夜に響く卜部の足音は、真実への決意を表していった。
瑞巌寺の家は八坂の塔のほど近い場所にあった。寝室で寝ていたときに、窓にガムテープを貼って割った音を消して侵入してきた何者かに襲われて縛られたあげく、包丁で肺に穴を空けられて15分ほど苦しんだ末に窒息死したことが明らかになった。
犯人の足跡はあったが、吹雪の中では消えてしまい犯人特定にはつながらなかった。
動機があり、アリバイがない人間が1人だけいた。
近藤は鞍馬を徹底的に鍛えた。
まず第一に、基本技術の徹底だ。近藤東吾は、柔道の基本技術が身に付いていなければ、より高度な技を習得することはできないと考えていた。したがって、近藤は鞍馬天狗に対して基本技の練習に力を入れた。
特に重要視されたのは、投げ技と組み手の技術だ。鞍馬天狗は身体能力や柔道の技術において優れていたが、経験の浅さから基本技の不足が見られた。近藤はその点を見抜き、反復練習に取り組むよう指導した。
次に、体力と筋力の向上が特訓のポイントだ。柔道は激しい身体の動きや相手との対抗に耐える体力が必要だ。そのため、近藤は鞍馬天狗に体力トレーニングと筋力トレーニングを組み合わせたプログラムを組んだ。
ランニングやジャンプ、ウエイトトレーニングといった基礎的な運動を取り入れながら、柔道の特徴であるバランス感覚や反応力を鍛える特殊なトレーニングも行われた。これにより、鞍馬天狗はより強靭な体を持つことが出来た。
最後には、精神的なトレーニングも重視されました。柔道は肉体的な強さだけでなく、精神的な強さも求められる。近藤は鞍馬天狗に対して、集中力を高めるための瞑想やメンタルトレーニングを指導した。
また、柔道の道徳的な側面や精神的な成長を促すような話を交えながら、鞍馬天狗の感受性やモチベーションを高めるように心掛けた。
近藤は瑞巌寺にパワハラを受けていた。『ガメラ』という奇妙なあだ名をつけ、嘲笑の対象にした。体が怪獣ガメラに似ているのだ。また、全国大会に敗退したときに『ガメラ、貴様のせいだ』と胸倉を掴んだらしい。尚、全国大会は2022年に廃止になった。
事件が起きた夜、近藤は寝ていたらしいが、近藤の住んでるのは一軒家で防犯カメラとかハイテクなものはなかった為にアリバイを証明出来なかった。
彼はカフェでのひとときを終え、再び厳しい現実に立ち向かうために外へと歩き出した。カフェの風景と経験した穏やかな時間は、彼の心に少しの安らぎを与え、次なる挑戦に向かっていく力を与えてくれた。
鞄の中でケータイが鳴り出した。相手は京都府警刑事部の部下だ。ガリガリに痩せているのでガリガリ君と呼んでいる。
《警部補殿、上京区にある
同地には
地元の人々は寺を敬いつつも、その化け狐が巡り巡って災厄をもたらす存在であるとも恐れていた。
境内は京都御所の真北に位置し、龍造寺大学に隣接している。最盛期には東は寺町通り、西は大宮通り、南は一条通り、北は上御霊神社との境までが相国寺の寺域であった。応仁の乱による焼失後、三門と仏殿は再建されることなく、近世以降は法堂が仏殿(本尊を安置する堂)を兼ねている。
被害者は浅野茉優という高校教師だ。
茉優は鋭利な刃物で斬り殺されていた。
翌日の朝、身支度をしているとニュースで茉優が殺されたことを樹は知った。殺された場所は樋口の通う大学の近くだった。彼が茉優に貶されたことを樹は思い出した。
短大卒であることをあんなに貶されたら茉優に対して殺意を抱いてもおかしくはない。アーサー・コナン・ドイルの『緋色の研究』みたく壁にRACHE (ラッヘ:ドイツ語で復讐の意)と血で書かれた文字があったらどれだけ楽だろうと樹は思った。茉優は英語教師だから、それくらい簡単に書けそうだ。
樋口の殺意の矛先が菅田に向けられたら大変だ!
樹は卜部を伴って三条河原の近くにある菅田の家に向かった。玄関のドアは簡単に開いた。嫌な予感がした。樹は白いドアを開けた。
「菅田君……」
樹はベッドでうつ伏せになっている教師の卵に声を掛けた。彼は既に事切れていた。手首を剃刀で切っての自殺だった。
テーブルの上には手書きの遺書と、万年筆が残されていた。
『母さん、それから西野さん、それと美唄先生。瑞巌寺校長と浅野先生を殺したのは僕です。父、
菅田直人は2年前の6月に発生した浅野茉優による、鞍馬天狗へのイジメを瑞巌寺に密告した。茉優は『変な名前だ』『おまえなんて柔道部に向いてない』などの暴言を吐いた。瑞巌寺は直人に『ウチの学校の評判にかかわる、10万やるから勘弁してほしい』と校長室で土下座して頼み込んだ。が、直人は拒否した。『私の知り合いの弁護士に頼むしかないな』と正義を貫き通した結果、瑞巌寺は茉優に命じて自動車事故に見せかけ直人をワゴン車で轢き殺したのだ。現場には雨に打たれた
菅田は父の死の真相を知るために実習生として水神学園に潜り込んだ。校長室に電源タップ型の盗聴器を掃除の時間に仕掛け、瑞巌寺と茉優の密談を察知した。
『鞍馬の奴、菅田にどことなく似てるんだよな? 顔は全然違うが、あの正義感……』
『もし、アレだったら私が殺してあげようか? 菅田のときみたいに』
『マジか?』
『息子が産まれるんでお金がいるの、アナタの子かもね?』
『任務をクリアしたらな……』
鞍馬が殺される直前、2人は消された。
樹は優秀な菅田の素性を知り、愕然としハラハラと涙を溢した。
2月24日、2週間の教育実習は終わった。
樋口は「菅田があんな風になってしまうなんて思いもよらなかったです。母校がこんな風になってしまうなんて残念で仕方がありません。僕は浅野先生みたいな先生には絶対になりません。先生方、それから生徒の皆さん、どうかお元気で」と、体育館の壇上でマイクに向かってスピーチした。
樹は瑞巌寺たちのしでかしたことに憤慨していた。体育館の後ろの方で黙って話を聞いていた。
頑張れ!教師の卵、と心のなかでエールを送った。
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