第18話 ラーガルフリョゥトの蛇

 🔗第14話とリンク

「ラグナル・シグルドソンは昔、平安大学で講師をしていたの」

 もうじき着陸ってときに紅子は言った。

 旅行のついでに退職したラグナルに会う手筈になっている。

「そうなんだ」

 樹はドキドキしていた。昔から絶叫系は苦手だ。

「卜部とは連絡ついたの?」

「それがまだなんだ」

「北野に殺されてないといいんだがな?」

 

 樹はアルツハイマー病で、治療薬『レカネマブ』を処方してもらっていた。日本の製薬大手『エーザイ』がアメリカの『バイオジェン』と共同で開発を進めてきた薬だ。 アルツハイマー病の患者の脳にたまる『アミロイドβ』という、異常なたんぱく質を取り除くことで、症状の進行を抑えることが期待される。2020年代は高額だったが、最近では安価で手に入る。

 キィーン、グォォッ🛬

 恐怖のあまりに樹は目を閉じ、歯を食いしばった。

 

 羽田空港(東京)からレイキャビク・ケプラヴィーク空港(レイキャビク)へのルートでアイスランドに樹と紅子はやって来た。 このフライトの片道の平均飛行時間は23時間08分ほどだ。


 アイスランドは、北ヨーロッパの北大西洋上に位置する共和制国家。首都はレイキャヴィーク。総人口は約35万5620人。グリーンランドの南東方、ブリテン諸島やデンマークの自治領であるフェロー諸島の北西に位置する。


 アイスランド島を主な領土とする島国で、イギリスとのタラ戦争の舞台にもなった漁業基地であるヴェストマン諸島、北極圏上にあるグリムセイ島などの周辺の島嶼とうしょも領有する。高緯度にあるためメルカトル図法の地図では広大な島のように描かれるが、実際の面積は10万2828平方キロメートルと、フィリピンのルソン島(10万4688平方キロメートル)や、韓国(10万210平方キロメートル)とほぼ同じである。グレートブリテン島(約22万平方キロメートル)の約半分、または日本の北海道と四国を合わせた程度の面積である。


 多くの火山が存在し、温泉も存在するほか、豊富な地熱を発電などに利用している。一方で、噴火による災害が多い。たとえば、2010年にはエイヤフィヤトラヨークトル氷河の火山が噴火し、欧州を中心に世界中で航空機の運用に大きな影響を与えた。ただし、「自然災害」のほか「紛争・戦乱」「治安など個人の安全」の3つのリスクで128カ国を比較した「世界で最も安全な国ランキング」(『グローバルファイナンス』誌)では、2019年が第1位、2018年が第2位だった。


 金融立国であり、国家経済が金融に強く依存していたため、2008年の世界金融危機の影響を強く受けて2008年10月に債務不履行となった。その後、自国通貨アイスランド・クローナも暴落したが、これが漁業やアルミニウム工業などの輸出産業にとっては有利に働いたため、かえって景気が回復することになった。それによって経済成長率は2012年度には1.5パーセント、2013年度には3.3パーセントを達成した。また、経済危機の直後には8パーセントを超えていた失業率も、2015年では4パーセント台で推移している。さらに来島する旅行者が急増して観光業が成長しているほか、IT分野などのベンチャー企業の育成・誘致にも力を入れている。2016年の経済成長率は7.2パーセントに達した。


 国土の大部分が西経15度よりも西にあるにもかかわらず、グリニッジ標準時を使っている。沿岸には多数のフィヨルドがある。火山性の土壌で大地は肥沃とは言えない。また、アイスランドの森林はかつて乱伐が行われたことも手伝って、現在の森林面積は国土の0.3パーセントしかない。


 アイスランド本島は北緯63度から66度に位置し、国土の一部は北極圏にかかっている。しかし、冬の寒さはそれほど厳しくはなく、同緯度にあたるフィンランドやスウェーデンの北部の2月の最低気温の平均が氷点下20度近くであるのに対し、アイスランドは氷点下3度ほどである。ケッペンの気候区分では、アイスランド南部は西岸海洋性気候 (Cfc) に該当する。これはアイスランドにメキシコ湾から流れてくる暖流である北大西洋海流の影響を強く受けているためである。この暖流によって大量の熱が輸送されてきているために、アイスランドは高緯度に位置するにもかかわらず比較的温かい。また、高緯度に位置するアイスランドは、オーロラを地上から観測するのに適する場所として知られているが、このようなオーロラ観測に適する地域としては、もっとも暖かい地域である。これに対してアイスランド北部は、東グリーンランド海流などの北極方向からの寒流の影響を受けるために、ツンドラ気候 (ET) となっている。これらの海流の影響を受け、特に標高が高い地域では天気が短時間で変わりやすい。


 2040年にタバコ業が崩壊し、煙草を吸ってる人間は見られなくなった。日本でも副流煙に関する罰則が厳しくなり、喫煙ブース以外で喫煙をしたら懲役3年を喰らうなどヘビースモーカーには厳しくなった。

 樹もかつてはラークやマイルドセブン、葉巻などを吸っていた。

 空港を出ると周囲は濃い霧に包まれていた。


 旅行初日、レイキャヴィークのメイン通り、ロイガヴェーグル通りにある土産物屋で樹はルーン文字グッズや溶けにくいバター、紅子はロパペイサというセーター(首から肩にかけて広がる模様が特徴的)を買った。

 女性の店員さんが「タック(ありがとう)」と頭を下げていた。

 文化的には北欧圏に属し、特に宗主国であったノルウェーとデンマークの影響が強い。しかし、ケルト系のアイルランド人が開拓を行った歴史もあり、血統や言語にはその影響も色濃く残されている。そのためスカンジナビア諸国とは似て非なる独特の文化を持つ。

 独立直後から冷戦の間はアメリカ軍が駐留していたため、近年はその影響も大きい。


 昼過ぎにシンクヴェトリル国立公園にやって来た。シンクヴェトリルは国内西部の活火山帯に位置し、大規模な地殻変動が際立つ。西暦930年頃から1798年までアイスランド全体を代表する野外集会が毎年2週間開かれた。これをオルシングと呼び、紛争の解決や法律の制定にあてた。オルシングは議会として現存し、世界最古である。芝と石で造った設備の遺構が50前後残り、地下には10世紀の遺跡が埋まっている。


 冬場は極夜となることなどから、外出は少なくなり、家にこもり読書にふける人々が増える。そのため、1人あたりの書籍の発行部数は世界的に見てもかなり多い。


 多くの人々が文学や詩に親しむ環境にあり、人口数十万の国ながら多くの文学者や音楽家を輩出している。近年はビョーク、シガー・ロス、ムーム、ヴィキングル・オラフソンらアイスランド出身の音楽アーティストたちが世界的に人気を集めている。

 

 約280ヵ所で温泉が湧くと言われる、温泉の国アイスランド、樹と紅子はスカイラグーンにやって来た。2021年にオープンした地熱スパだ。

 レイキャビクから車で15分の好立地にあり、夏は白夜、夜はオーロラを楽しめる最高のロケーションのなかで温泉を楽しめる。

 また、スカイラグーンの周辺には苔むした溶岩の大きな岩場があり、非日常のような空間を感じられる。

 温泉以外にも、カフェやレストランも充実している。

 アイスランド人の名前は姓を用いない。 個人の名字はその個人の父親の名(ファーストネーム)を示している(母親の場合もある)。

 つまり、「ラグナル・シグルドソン」であれば、お父さんの名前は「シグルド」という事になる。


 円柱形のホテル『ラーガル』にシャトルバスでやって来た。

 ラーガルフリョゥトの蛇って怪物がアイスランドのエイイルススタジルのラーガルフリョゥト(湖または川)に存在するとされる。

 チェックインして部屋に荷物を置き、1階にあるロビーに2人はやって来た。

 ラグナルがココアを飲みながら待っていた。樹たちより年上で杖をついている。

「紅子、久しぶりだな」とラグナルはアイスランド語で言った。

「お互い歳を取ったものね……」

 紅子もアイスランド語で言った。

 ラグナルが現地に伝わる伝説を教えてくれた。

「ある少女が、母親からもらった黄金の指輪をこのヒースの蛇(ナメクジ)の下に置き、バスケットの中で飼っていた。そうすれば黄金が増やせると教わったからである。だが、蛇はそのうち容器がはち切れんばかりに育ち、少女は怖くなって指輪と蛇を放棄し湖に投げ入れた。蛇は成長しつづけ、毒を吐き人々や動物を殺し、田園地帯の脅威となった。退治に呼ばれた2人のフィンランド人は、なんとか頭と尾を湖底に縛りつけて人的被害は出ぬようにしたが、より厄介な怪物がもう一匹下にいたために殺すことも黄金の回収も諦めざるをえなかった。その後も、このヒースの蛇が目撃されれば悪季節の到来や、牧草が育たない害の予兆だとされたんだ」

 樹はアイスランド語がさっぱり分からないので、紅子に翻訳してもらった。16時頃、寒くなると体に響くからとラグナルがホテルを去った。 

 

 その後、2人は混浴温泉に入った。

 そこには美しいオーロラが鮮やかな色彩で広がっている。地平線から天空まで、神秘的な輝きが空を覆い尽くしているのだ。


 最初に現れるのは、青や紫色に輝く光。ゆっくりと現れ、空を彩り始める。まるでシルクのように滑らかで、優雅さを感じさせる。その軌跡は優美な弧を描き、まるで巨大な絵筆が空に踊るかのようだ。


 徐々にその光は、ピンクや緑色へと変化していく。ピンクは優しさと幸福を、緑色は生命力と希望を象徴している。オーロラの光が重なり合い、絶妙な色合いが生まれる瞬間には、感動を覚えずにはいられない。


 オーロラは次第に活発になり、幻想的な幾何学模様が空に浮かび上がる。波状の輝きが織りなすウネリ、細かな点が点々と広がるディスプレイ、時にはドーム状に空間を包み込むマントル。その光景はまるで宇宙の中に迷い込んでしまったような錯覚を与える。


 オーロラが舞い踊る中、静寂な空気が辺りを包む。風が微かに吹き、寒さを伴ってやってくる。しかし、オーロラの美しさと神秘さに魅了された樹たちその寒さも忘れてしまうほどだ。


 オーロラの光はそのままに続き、美しいリズムを奏でながら消えていく。静かな闇の中で、オーロラの光景はただの夢のような存在となる。しかし、その一瞬の美しさを体験した者たちは、一生忘れることのない感動を胸に刻み込むことだろう。


 紅子は涙を溢した。

璃子りこ、ゴメンね……」

 璃子は、紅子の手によって殺された双子の妹だ。

「きっと、天国から見守ってくれてるさ」

 樹は彼女を気遣った。

「恨んでるわよ……私、きっと地獄に堕ちるわ」

 

 2日目の昼頃、樹たちはレイキャヴィークを散策していた。

 アイスランド島南西部のレイキャネース半島の根元に位置し、ファクサ湾に面する港湾都市である。首都としては世界最北の北緯64度8分に位置する。市名は「煙たなびく湾」という意味で、最初の上陸者が近郊の温泉から上る湯煙を炎の煙と見間違えて名づけた地名と言われている。


 人口は市内のみで約12万人、周囲の市を含めた首都圏全体で約21万人である。アイスランドの全人口の約2/3がこの一帯に集中している。


 市内の暖房・給湯システムは地熱の熱エネルギーのみで維持されており、自然エネルギーとの共存が図られている。他にも燃料電池自動車に水素を供給する水素ステーションを建設し、それを利用した路線バスを世界で初めて運行するなど、クリーンエネルギー政策の点では世界をリードしている。


 市内では犬を飼うことが法律で禁止されているが、申請することで飼うことができる。また、世界で最も人口1人当たりの書店の密度が高い町と住民は自称している。

 

 昼飯はレストランでラングスティンを食べた。🦞

 アイスランドのロブスターと言われる、「ラングスティン」。 ラングスティンとは日本でいう「テナガエビ」のこと。 寒いアイスランドでは、あたたかいスープをよく飲むため、スープの具材としても親しまれている。

 

 昼食後は街の中心部にやって来た。

 ランドマークであるルター派の教会のハットルグリムス教会が丘の頂上にそびえ立っている。高層ビルは皆無で、この教会の展望台が街の全景を眺めることができる唯一のポイントである。

 黄昏の街を眺めていると地鳴りがした。

「キャッ!地震よ!」

 紅子は悲鳴を上げ、樹に飛びついた。

 樹と紅子は最寄りの小中一貫校に逃げた。

 体育館に避難し、ガースって少年が「エイヤフィヤトラヨークトル氷河の火山が噴火した」と教えてくれた。

 しばらく日本には帰れない。『ラーガル』に繋がる道も寸断されたとガースが教えてくれた。

 アイスランドの学校は、10-3-3制で、小中が一貫で10年(6〜16才)、高校が3年(16〜19才)、大学が3年間だ。 日本と同様に高校から就職、進学といった進路ごとに学校が分かれる。 アイスランドの学校の特徴が、私学が少ないことだ。

 ガースは9年生で15歳だ。


 避難所は停電しており、ランタンが煌々と体育館を照らしていた。扉が開き、3人の男女が入って来た。驚くことに3人とも日本人だった。

「ようこそ、シグルズ学園へ……」

 樽みたいな体型の男性が歓迎を示しているのか両手を大きく開いた。

「私はこの学園の創設者、椿つばきです」

 椿の右隣に立っている柊って女性が学園名の由来を教えてくれた。

「アイスランドにはシグルズという英雄が存在していて、そのつれあいがブリュンヒルトというワルキューレとして伝わっています。ドイツに舞台がうつりかわると、今度はジークフリートと名を変えて中世史に登場するようになったのです」

 樹はパイプ椅子でうつらうつらしながら話しを聞いていた。

「楠君、彼らに食糧や毛布を用意してあげて」

 椿は左隣の屈強な男に甲高い声で言った。

「畏まりました」

 楠たちは備蓄倉庫へと向かった。

 野菜スープを飲んで体が温まり、樹は深い眠りに落ちた。


 樹は雪崩や恐竜に襲われ逃げる夢を見ていた。

 卜部も一緒に逃げていて、「見ろ、船だ!」と蜃気楼の向こうに見えた影を指さしながら、樹の袖を引っ張った。

「ねぇ、樹、起きて!」

 目を覚ますと紅子が楠たちが用意してくれたパジャマの袖を引っ張っていた。

 紅子の顔は青褪めていた。

「何かあったのか?」

「備蓄庫で……」

 急いで備蓄庫に向かうと楠と柊が床に転がっていた。楠は頸動脈を鋭利な刃物で切られ、柊は眼球を刳り貫かれ、さらに口に魚を突っ込まれていた。

 血腥い匂いに樹はゲロを吐いた。

 どこを探しても椿の姿は見当たらなかった。

 樹は子供や避難民に2人の死を告げた。

「ラーガルフリョゥトのせいだ」 

 ガースはブルブル震えていた。

「いいや、これは人間の仕業だ。俺がこの手でそいつを倒してやる」

 ガースは声高に言う樹がシグルズに思えた。

 

 2018年8月25日

 笹崎も不運な奴だ。俺は舞鶴市にある海上保安大学校時代を思い出した。伊治釦これはるぼたんは毎日のように上官からイジメに遭っていた。

『オマエなんてこの世界に向いてねーんだよ!』

『とっととやめちまえよ!』

 そんな暗澹たる日々が俺を悪魔に変えた。

 ウサギの着包みを着て留守を殺したとき快感を覚えた。

 笹崎が殺したのは真柄、今村の2人。

 俺は留守だけでなく弓削、津田のことも殺している。

 笹崎は罪の意識から持っていたリボルバーでこめかみをぶち抜いて死んでしまった。


 夜の湖は静かな雰囲気とともに不思議な魅力を放っていた。しかし、静寂は突然破られてしまった。荒波に揉まれる船上での銃撃戦が始まった。船酔いしそうな程の揺れの中で2つのグループが銃を構え合い、蹴り上げられる波間からは発砲音が激しく響き渡る。

 俺は殺人ゲームに参加している鎌倉浦子かまくらうらこ伊佐炎助いさえんすけとともに琵琶湖を舞台にジョン・スミスと闘っていた。

 浦子は4人、伊佐は2人殺している。

 ジョンを殺したら、浦子たちも始末しないと賞金500万を手に入れられなくなる。

 ゲームの期限は8月31日、18時までだ。

 浦子は美容学生で獲物はハサミと手榴弾、伊佐は自衛官候補生で獲物は9mm機関けん銃だ。長野県の企業であるミネベア(現ミネベアミツミ)社が製造し、1999年に自衛隊が採用した9 mm口径の短機関銃である。防衛省は略称をM9、広報向けの愛称を一般公募から選ばれた「エムナイン」としている。

 伊佐は訓練中に罵声を浴びせた教官たちをエムナインで射殺し、軍用トラックを奪って基地から逃亡し同期と講師を殺した浦子や俺、死んだ笹崎を拾ってくれたのだ。その足で北近江高校を襲撃した、浦子と伊佐はトラックで待機していたのだ。

 クルーザーがグングン近づいてくる。伊佐はエムナインを夢中で撃った。ババババッ!暗視スコープなしで倒せるかどうか不安だったが、「うっ!」っていううめき声が聞こえたとき心の中でガッツポーズをした。

 安心感と焦燥感が同時に俺を襲った。ジョンは琵琶湖の底に消えていったが、伊佐が俺に追いついてしまった。


 8月26日

 赤城一郎はある青年のことを思い出していた。あれは2005年頃だっただろうか?

 舞鶴にある海上保安学校に入学した青年・伊治釦は、幼い頃から船乗りの父に憧れを抱きながらも、その夢を実現できずに悩んでいた。


 学校では厳しい訓練や海洋知識の習得に日々励みながら、同じような夢を持った仲間たちと切磋琢磨して成長していく釦。彼は学校での生活や訓練を通じて、仲間との絆や困難を乗り越える力を身につけていく。


 釦の過去の葛藤と向き合い、自身の夢に向かって努力する中、舞鶴の海や海上保安学校の暖かさ、そして仲間たちの情熱に触れることで、彼の心は徐々に成長し、次第に自信を取り戻していく。


 そして、学校卒業間近の訓練航海で、釦と仲間たちが突如として発生する危機に直面する。津波が巡視船を襲いかかったのだ。

 彼らは困難な状況に立ち向かいながら、学校での経験と学んだ知識を活かし、団結して乗り越えていく。


 卒業式の日、釦は改めて自分の成長を実感しながら仲間たちと共に卒業証書を手にする。彼は舞鶴での学びと経験を胸に、新たな船乗りの旅に出発するのであった。


 赤城は航空課程の講師だ。

 海上保安庁の航空機の運航を担当する海上保安官になるための基礎教養を習得する課程。期間は1年。飛行士となるために必要な数学、物理、英語等を中心に、警備救難業務や武道などを学ぶ。ここでの基礎教養を修了した後は、航空基地飛行員となり、ヘリコプターの要員は、海上保安学校宮城分校(1.5年)の実用機による研修に進む。固定翼練習機を保有していなかったため、2019年までは海上自衛隊小月教育航空群で研修を受けるため出向していた(2.5年)。

 

 釦は元気にしているだろうか?

 一郎は老人ホームの個室から、舞鶴湾の水平線に沈みゆく夕陽を眺めていた。どこからか祭囃子が聞こえる。

 

 ゲームの勝者は伊佐だった。不治の病に恐れる人や借金を抱えて鬱病になった人間を射殺し5人を始末した。

 伊佐と俺、浦子は賞金を元手にアイスランドに学校を設立した。

 俺は椿、浦子が柊、伊佐が楠とそれぞれ名を変えた。

 30年以上も経ち、世間も俺たちのことを忘れかけたときあの噴火が起きた。そして、日本人が2人、この学校にやって来た。伊佐は2人に畏怖を覚えたようで、『何か薄気味悪い、奴ら只者じゃねー』と避難民が寝静まった深夜、校長室で震えながら言った。

『私、最近ね、孫にお祖母ちゃん昔人を殺したでしょうって言われる夢を見たの。正夢になりそうで怖くって』

『浦子、おまえまで……』

 俺は久々に内側に悪魔が宿り始めていた。

『なぁ、釦……自首しないか? 今なら復讐も自由な世の中だ。死んだ奴らにパワハラされたとか言っとけば、罪が軽くなるかも知れない』

『伊佐クンって頭切れるわね? 伊治クン、私たち人間に戻らない』

『そうだな……』

 備蓄庫には食料の他に、今まで生贄にした者や武器が保管されていた。それらを運び出すって名目で2人を呼び出し、惨殺した。

 これまで築き上げた栄光を手放すわけにはいかない。

 この学園は警察に踏み込まれたときのことを考慮し、1階東の職員用トイレの個室から外に出られるようになっていた。

 事件から5日は経った。昨晩、どこからかアイスランド語で『噴火は収束した』ってスピーカーで声がした。避難民もここから出ていったに違いない。

 思い切って隠し扉を開けると警官隊が包囲していた。遠くに見える火山はまだ噴煙を上げていた。🌋

 全ては樹の策略だったのだ。地元のサガ警部に頼み込み、偽の情報をスピーカーで流してもらったのだ。

 伊治釦は呆気なく確保された。

 朝陽が雲間から差し込み、樹は心地よい気分になった。

 



 


 

 

 

 

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