第12話 小学校襲撃

 2053年12月21日、被害者の男児、藤田平太ふじたへいた(当時7歳、同校の2年生。伏見区醍醐在住)は、京都府山内小学校の校庭の北隅のジャングルジム付近で同級生と遊んでいた。当時山内小では保護者と担任の個人懇談会が開かれており、平太の母親も出席していた。当時校庭には、約30人の児童がいた。


 午後1時55分頃、近付いてきた黒色の目出し帽のようなものをかぶった男が、突然平太へ文化包丁を振り下ろし、何度も切りつけた。十数か所を切られた平太は首から血を流してうつぶせに倒れ、男は走って逃走した。


 殺人鬼の北条政夫ほうじょうまさおは山内小の卒業生で、平太の父親から腹を殴られたり、酷いイジメを受けていた。

 政夫は他に持参していたハンマーなどの凶器を校庭に投げ捨てた上で襲い掛かっていた。最終的に選択したのが文化包丁だった。


 周囲の児童らは突然のことに呆然と立ちすくんだが、その内の女児2人が「平太くんが切られた」と職員室に駆け込み、職員室にいた竹中直人たけなかなおとに似た室戸むろと校長らが駆け付けて平太に上着を掛け、「大丈夫か!?」と叫んだ。室戸むろと校長が駆け付けたときには既に母親と担任教諭、目黒桃子めぐろももこ多部未華子たべみかこ似)がおり、母親は平太の名を呼びながら「早く救急車を!」と叫んだ。平太は母親と女性教諭2名に付き添われて、午後2時24分に応仁総合病院へ搬送されたが既に心肺停止状態で、瞳孔も開いており、救急処置室で心臓マッサージを受けたが、事件から約30分後の午後2時31分に出血多量で死亡が確認された(7歳没)。左下顎から首に掛けて負っていた、動脈・静脈を切断する長さ20センチ・深さ10センチの傷が致命傷とみられた。喉も深さ5センチまで刺されていた。


 同日に行われた司法解剖の結果、平太の死因は首の切開創による失血死と断定され、死亡推定時刻は午後2時前で、救急車が学校に到着した時点で既に死亡していたことがわかった。ただし遺族によると、平太は当初は即死と思われていたが、のちに現場にいた児童らの証言で、「痛い……」「……言うてきて……」などの言葉を発していたことが明らかになったという。


 事件現場となった校庭には、幾つもの遺留品が残されていた。凶器として使われた柄の部分が焦げ茶色のステンレス製包丁のほか、金槌、毒性の弱い液体農薬の入った瓶、更に「私は山内小学校を攻げきします。理由はうらみがあるからです」などと記された犯行声明が散らばっており、駆け付けた教諭から警察へ引き渡された。


 同日、京都府警察の捜査一課と山内警察署は、殺人事件として捜査本部を設置。同本部は、この犯行声明が犯人に結び付く有力な手掛かりと考え、解明を急いだ。犯行声明は、同一の文面がB5判の紙6枚にそれぞれ印刷されており、手書きの文面をコピーしたものとみられた。文字は大きさが不揃いの稚拙なもので、罫線のない紙に9行に渡って書かれ、1字は1 - 2センチ四方程度で、矢印や句読点を含めて105字、7文で、2か所に抹消跡があった。


『私は山内小学校を攻げきします。理由はうらみがあるからです。今はにげますがあとで名前を言うつもりでいます。後で手紙をかきます。だから今は追わないでください。私をみつけないでください』


 また事件直後、学校から北西に約300メートル離れた児童公園でも、血の付いた青色コート、革製の右の手袋、刃渡り25センチのナイフ、グレーのマフラー、黒い毛糸の帽子、更に自転車が発見された。自転車は焦げ茶色のもので、遺留品のすぐ横に横倒しになっており、ハンドルには血痕が附着していた。ナイフは比較的新しい鞘入りのもので、青色のハーフコートはMサイズ、裏地付きだった。


 同日、午後11時……山内署地下一階仮眠室。

「那智の奴、余計なことしやがって」

 山内署刑事課の雪島洋介ゆきしまようすけ警部補はベッドの上でイライラしていた。

 那智は12月20日に復讐が認められた人間に対しての逮捕は違法で、1年の懲役か50万の罰金となることを定めた。

 北条の復讐が知らないところで認められているかも知れないのだ。

「安易に逮捕できないよな?」と、雪島の右隣に寝ている同期の来賀陸人らいがりくと警視が言った。来賀は京都府警捜査一課の管理官だ。2人とも53歳だ。

「寝れないよ……」と、雪島の左隣に寝ている若手刑事がボヤいたので、2人とも黙ることにした。

 雪島は来賀が羨ましいと思った。来賀は綺麗な奥さんと結婚して、子供もいる。


 12月23日午後6時頃、山内小に通う、小学校2年生の女児、流北玲香るきたれいか(7歳)が公園から帰宅して、自宅の東側に自転車を置いて家に入ろうとした時に、自宅前で刺される事件が発生。家に居た家族4人が玲香の悲鳴を聞いてすぐに駆けつけたが、すでに犯人の姿はなかった。


 玲香には正面から胸と腹部の計2か所に刃物で刺された傷があり、18時8分に119番通報で駆けつけた救急隊が現場に到着。搬送中に救急隊員が犯人について尋ねた際に、玲香は薄れていく意識の中で「大人の人……男……」と答えた。19時45分、玲香の死亡が確認された。

 左胸上部に刃物で受けた傷が致命傷となったようで、死因は失血死だ。


 目撃される可能性が高い自宅前で犯行に及んでいることなど不可解な点が多く、犯行の目的もはっきりしないが、物証や目撃情報が乏しい。


 クリスマスムードの繁華街を雪島や来賀は聞き込んだが収穫は獲られなかった。

 捜査機関は『大人の男』という女児のダイイング・メッセージについては『犯人が女児の顔見知りならこのような言い方はまずしない。見ず知らずの人間か、犯人が一方的に女児を知っていた可能性がある』と分析している。

 凶器は細い小型ナイフのような刃物とされている。


 12月24日午後10時

 群馬の自宅でニュースを見ていた樹は怒りに駆られた。藤田って子に続いて2人目だ。犯人は血も涙もない鬼畜だ。山内小学校には教え子の目黒桃子が勤務している。桃子のことが心配になったので京都に行くことにした。堀川御池ほりかわおいけってバス停の近くにあるビジネスホテルに泊まることにした。


 12月25日

 朝早く、樹はO駅近くの喫茶店でベーグルを食べていた。「アレ? 美唄先生じゃないですか?」

 トレイを手にした鷲尾英子が近づいてきた。トレイにはソーセージパンとホットコーヒーが。初めて会ったときは30歳だったが、今年で68歳になる。数学の教師で、かなり知能指数が高い。樹と肉体関係になったこともある。あれは確か、樹が42歳で、英子が32歳のときだ。既に紅子はこの世の人ではなかったから不倫ではないが、真夜中の公園でフェラチオされたり、ナースのコスプレをしてエッチをしたり、聖職者とは思えないことをした。

 樹は妄想の世界に浸った。

 全裸になった樹の股間を見て、英子が声を上げる。

 樹の股間から突き出ているペニスは、すでに完全勃起して反り返っている。亀頭が大きく膨らんでおり、松茸みたいな形をしている。

 英子の乳房はロケットおっぱいでそれだけで樹のは凛々しくなった。

「教育界が70歳が定年になって随分経ちますよね?」

 英子の言葉に樹は妄想を止めた。

「そうだよね」

「今日はこれからどうされるんですか?」

「用事があって京都に行かないといけないんだ」

「京都では子供ばかりを狙った殺人鬼が出没してますよね?」

「出没って熊じゃないんだからさ?」  

 英子は京都に伝わる都市伝説を教えてくれた。


 1. ガッシリさん  

「『ガッシリ』という名前の妖怪が、夜になると京都の街中を彷徨うと言われています。この妖怪は、人間に抱きついて体力を奪い、最終的にはその人を死に至らしめるとされています」


 2. 下鴨の心霊スポット

「下鴨神社の境内には、心霊現象が起こると噂される場所があります。特に有名なのは『星石』と呼ばれる場所で、その近くでは幽霊や声が聞こえるとされています」


 3. 関西大学の学生寮の怪奇事件

「 関西大学の学生寮『御影寮』では、過去に数々の怪奇な出来事が起こったと言われています。部屋のドアが自動的に開く、壁に触れたとたんに気持ち悪くなる、などの不思議な現象が報告されています」


 4. 音羽の赤い傘  

「音羽の地域では、夜になると『赤い傘の女性』が現れると言われています。この女性は、赤い傘を持ったまま夜道をさまよい続け、近づく人に不吉な出来事をもたらすと伝えられています」

「これから京都に行くってのによ……」

 京都までは5時間近くかかった。京都駅に11時30分くらいに到着した。京都駅近くに京都タワーだけでなく、祇園タワーってのが出来た。完成したのは10年前だ。高さは794mだ。奈良末期の混乱した政治状況下で、桓武天皇は遷都を計画、はじめ長岡京を都としたが、794年平安京へ移った。 遷都の理由としては、政治と仏教の分断、人心の刷新などが考えられる。 遷都にあたって山背国は山城国と改められた。

 

 飯を食いたい。技術の進歩により、レストランのオーダーや支払いが完全にデジタル化され、タブレットやスマートフォンを使って行われるようになった。現金を持たない日なんてザラだ。京都駅前にある『ボルタ』ってファミレスに入った。昆虫食セットを食べた。クワガタのソテーは今じゃ慣れっこだ。

 藤田六郎ふじたろくろうは『ボルタ』にやって来た。妻は息子の死で心と体を病み入院している。六郎が順番待ちをしていると、黒いフードを被った奴が前から現れて六郎のことを突き刺した。

 六郎は腹から血をダクダク流している。

 きっと、北条政男って指名手配犯に違いない。

 そう、樹は思って立ち上がった。

 何も怖くなかった。紅子に先立たれてから、いつも死にたいと思っていた。北条に刺されて死のうかと思ったくらいだ。

「おい! おまえ、殺すならこの俺を殺してくれ!」

 北条はダガーナイフを両手で構えて襲いかかってきた。そのとき、北条の背中が真っ赤に染まった。

 ショットガンを手にした来賀陸人が北条を撃ったのだった。

「危ない真似しないでください!」

 来賀と一緒に張り込んでいた雪島洋介に叱られた。北条も藤田も死んでしまった。

 来賀は判定の結果、無罪になった。

 北条も藤田だけを殺しておけば、こんな風にはならなかったかも知れない。

 桃子が無事だっただけよかった。

 喫茶店を出ると、野次馬の中に紅子そっくりの女が立っていたから樹はビックリした。

 



 





 


 


 

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