第9話 河鯉高校殺人事件

 河鯉かわごい高校は豊後紅子の勤務先だ。

 河鯉は、昔から武蔵国の主要な商業都市として繁栄した。 徳川幕府三代将軍家光いえみつが幼少期を過ごした街でもあり、その歴史的な背景からまさに江戸時代を彷彿とさせる建物が今も現役で使われている。 それら文化財的な価値を多く残した町並みは、全国でも有名な観光地であり、日本をはじめ、海外からも多くの観光客が訪れている。

 河鯉 権佐 守如《かわごい ごんのすけ もりゆき

》は、扇谷おうぎがやつ家の重臣で、忠臣として知られた人物。籠山逸東太こみやまいっとうたの甘言に乗せられた主君が(山内家ではなく)北条家と和議を結ぶことに異議を唱えていた。蟹目前かなめのまえの飼っている猿の一件で犬坂毛野いぬざかけのと知り合い、毛野に北条家への和議の使者として向かう籠山逸東太こみやまいっとうたを闇討ちすることを依頼する。毛野によって籠山逸東太は討ち果たされたものの、家臣を殺されて激怒した扇谷定正おうぎがやつさだまさが守如の制止を振り切って出兵。毛野と守如の密談を犬山道節が立ち聞きしていたことによって、定正が八犬士たちに急襲され危うく命を落としかけたことに責任を感じて切腹する。河鯉佐太郎孝嗣(政木大全)は息子だ。

 

 河鯉高校で国語教師をしている紅子が奇妙な事件に巻き込まれた。

 2015年6月15日(月)、自分のクラスである3年E組で紅子は普段と変わらない授業を行っていた。

 本日のテーマは夏目漱石なつめそうせきの『こころ』だ。

 漱石が乃木希典のぎまれすけの殉死に影響を受け執筆した作品で、後期三部作とされる前作『彼岸過迄』『行人』と同様に、人間の深いところにあるエゴイズムと、人間としての倫理観との葛藤が表現されている。


 明治天皇の崩御、乃木大将の殉死に象徴される時代の変化によって、「明治の精神」が批判されることを予測した漱石は、大正という新しい時代を生きるために「先生」を「明治の精神」に殉死させる。


 元々、漱石はさまざまな短編を書き、それらを『心』という題で統一するつもりだった。しかし、第一話であるはずの短編「先生の遺書」が長引きそうになったため、その一編だけを三部構成にして出版することにし、題名は『心』と元のままにしておいたと、単行本の序文に記されている。


 🔵上  先生と私

 語り手は「私」。時は明治末期。夏休みに鎌倉の由比ヶ浜に海水浴に来ていた「私」は、同じく来ていた「先生」と出会い、交流を始め、東京に帰ったあとも先生の家に出入りするようになる。先生は奥さんと静かに暮らしていた。先生は毎月、雑司ヶ谷にある友達の墓に墓参りする。先生は私に何度も謎めいた、そして教訓めいたことを言う。私は、父の病気の経過がよくないという手紙を受け取り、冬休み前に帰省する(第二十一章から二十三章)。正月すぎに東京に戻った私は、先生に過去を打ち明けるように迫る。先生は来るべきときに過去を話すことを約束した(第三十一章)。大学を卒業した私は先生の家でご馳走になったあと、帰省する。


 🟡中 両親と私

 語り手は「私」。腎臓病が重かった父親はますます健康を損ない、私は東京へ帰る日を延ばした。実家に親類が集まり、父の容態がいよいよ危なくなってきたところへ、先生から分厚い手紙が届く。手紙が先生の遺書だと気づいた私は、東京行きの汽車に飛び乗った。


 🔴下 先生と遺書

「先生」の手紙。この手紙は、上第二十二章で言及されている。「先生」は両親を亡くし、遺産相続でもめたあと故郷と決別。東京で大学生活を送るため「奥さん」と「お嬢さん」の家に下宿する。友人の「K」が家族との不和で悩んでいるのを知った先生は、Kを同じ下宿に誘うが、これが大きな悲劇を生む。手紙は先生のある決意で締めくくられる。

 

 その日の放課後、紅子は校庭の前で見知らぬ女性と出会った。紅子は1階の職員室の隣りにある応接間に女性を通した。

 女性は涙を流しながら、自分の姉が何者かにさらわれたと訴えた。女性の名前は原田加奈はらだかなといった。姉の名前は原田春奈はるな、河鯉高校の先生だったが、去年の6月に結婚を契機に辞めている。


 なだめながら話を聞き、彼女が姉を探すために助けを求めてきたことに同情し、協力することを決意した。

「警察には相談されたんですか?」

 質問しながら紅子は加奈って女子アナの小林麻央こばやしまおに似てるな〜と思った。ロッテリア『エビマヨバーガー』のCM(2010年9月 - 2016年)に出ている。海老蔵が出演した新エビバーガーの続編として登場。まさか、この数年後帰らぬ人になってしまうとは。

「私の知り合いに娘を誘拐された人がいて、警察に密告したのがバレて殺されてしまったことがあったんです」

「それは災難ですね」

 加奈は春奈の顔写真を見せてくれた。どことなく、『牡丹と薔薇』に出ていた小沢真珠おざわまじゅに似ている。

 紅子は春奈の行方を追うために必要な情報を収集し始め、学校内外の人々との接触や調査を進めた。


 しかし、次第に紅子は奇妙な状況に遭遇し始めた。学校には謎のメッセージや脅迫文が届き、さらには生徒たちや教職員も事件に関わっているような様子が見受けられた。紅子は友人たちや警察と協力しながら、事件の真相を解明しようと奮闘した。


 2015年6月16日(火)

 河鯉高校の校門前で高3の河村正義かわむらまさよしはいじめを目撃した。

 須藤ってリーゼント3年生が、2年生の八十田和巳やそだかずみってチビにツバを吐きかけていた。すぐ近くで巴裕太ともえゆうたってメガネを掛けた化学教師が目撃していたが、注意もしない。

「どうして止めないんだ!?」

「僕、八十田に前にボコされた」

「何で?」

「顔がキモいって理由で。僕にとっちゃ、須藤君は神様だよ」

「くそっ、またこの学校でいじめが起きているんだ!俺がやらねば、誰がやるんだ!」

 河村は須藤に歯向かった。

 河村は須藤に頭突き、鼻下に掌底を喰らわせた。須藤は病院送りになった。須藤は教師間でも危険視されており、河村は注意勧告で済んだ。

 

 数日後の放課後、河村は裏庭にやって来た。

 須藤は驚異的な回復力で怪我を治し、退院して八十田を再びボコし始めた。

「オメェのせいで河村にやられたろうが! 金よこせ!」

 須藤は八十田に金的を喰らわせた。膝で2回。八十田は悶絶した。河村は八十田が死んじゃうんじゃ?と、ビクビクしたが立ち上がったのでホッとした。

 河村は八十田の友人、佐川晴彦さがわはるひこに依頼され裏庭にやってきた。

『俺のダチが須藤にやられます、助けてやってください!』

 佐川は加藤清史郎かとうせいしろうみたいな顔立ちをしていた。佐川は100円玉を河村に渡そうとした。『今回はコレで勘弁してください!』

『こんなもんいらねーよ』

 佐川は一生、河村について行こうと決めた。

「お前、迷惑だな。俺がこの学校の番長だ。さっさと立ち去れ!」

 河村は梅雨空に吠えた。

「くっ、こいつ1人で何ができるんだよ……」

 須藤は河村に少しビビっていた。

 河村とは小学時代からの竹馬の友、鬼田靖おにだせいが助っ人に現れた。

「河村!何でいつも一人で頑張ってんだよ。ボクも手伝ってやるぜ」

 鬼田はメリケンサックを右拳に嵌めていた。

 佐川が叫んだ。

「俺もだ!力を合わせて校内を制圧しましょう!」

 須藤は「トイレに行かせてくれよ!」と、逃げ去った。

「何だ、よえーの」と、鬼田はつまらなそうだ。

 次の日から河村は姿を現さなくなった。

 佐川は須藤たちにリンチされて埋められたんじゃとヒヤヒヤしたが、鬼田が「センコーに見つかって停学処分になったんだと」と、教えてくれた。

 

 6月30日(火)

 被害者の桜木翔さくらぎしょうは河鯉高校では野球部に所属しており、クラスの中心的人物だったという。学級委員長なども兼任しており、「皆から好かれる性格だった」と同高校に通う同級生は話すが、その一方で「上から目線な一面があり、命令口調で頼み事をするなどトラブルの原因になりかねない言動があった」と証言する同級生もいた。


 高校2年生の時に加害者、須藤晴太すどうせいたは学校にいじめアンケートを通じ、須藤と須藤の友達との会話途中に被害者、桜木が割り込んで話に入ってきたり、応援演説を被害者、桜木から頼まれてた事に嫌気を感じていると報告。学校側は被害者、桜木に「相手の気持ちをもう少し考えよう」と指導し、須藤には「大丈夫か?」と声をかけ、「大丈夫」と返事をしていた。事件の10日前の2015年6月20日に修学旅行で、携帯電話の持ち込みが被害者、桜木に見つかり、先生に報告され、没収された。この事に対し須藤は疎外感を感じ、以前から嫌っていた被害者、桜木の殺害に至った。桜木に殺意を感じ始めた須藤はネットショッピングにて刃渡り20cmの包丁を購入し、事件当日の6月30日に学校に登校する際、通学バックに包丁を入れ、朝のホームルームが終わった時点で被害者、桜木を廊下に呼び出し腹部辺りを包丁で刺した。その後被害者、桜木は腹部の痛みに耐えながら教室に戻ってきた。須藤はその後直ぐに現場に駆けつけた河鯉警察署の刑事、蘇我匠海そがたくみに銃砲刀剣類所持等取締法違反の現行犯で逮捕された。その数時間後、搬送された河鯉病院で桜木の出血性ショックによる死亡が確認された。


 7月18日(土)、19日(日)、20日(月)(海の日)は3連休、久々に樹とデートだ。紅子はルンルン気分だ。


 18日午前中はアクティビティ満載のパークへ行った。ハイキングやジップライン、アスレチックなど、体を動かしてスリルを楽しんだ。昼食はパーク内にある軽食屋で、樹はカルボナーラを紅子はオムレツを食べた。


 午後はアドベンチャーゲームセンターやリアル脱出ゲームを体験した。謎解きやチームワークが必要なゲームで一緒に協力して楽しむことができた。さまざまな謎やスリリングな展開で、二人の絆も深まった。


 翌日は原田邸に赴いた。春奈を探すことを決めた樹だったが、昼過ぎに嵐になってしまった。原田邸に宿泊することになった。19日の深夜のこと、濃いコーヒーで寝付けなかった紅子は、加奈が、書斎で家の古文書である儀式文を読み漁っているのを見つけた。


 翌朝、加奈は忽然と屋敷から姿を消していた。彼女がベッドに寝た形跡はなかった。屋敷のドアには鍵がかけられ加奈の外靴が残されていたので、屋外に出たとは考えられなかった。

 外でザーザー、ゴウゴウと嵐の音がしていた。


 樹からの電話を受けた蘇我刑事たちが河鯉に向かったところ、鉄砲水により河鯉と亀ヶ島かめがしまをつなぐ橋が落ち、互いの街が分断されてしまう。さらに亀ヶ島も土砂崩れにより外界との交通が遮断されてしまう。しかも、河鯉駅近くの繁華街で殺人事件が発生する。現場は雑居ビルだ。

 被害者は河村正義。首や胸などを、鋭利な刃物で複数回切りつけられていた。死因は刺されたことにより心臓の周囲に血液がたまって圧迫される『心タンポナーデ』とみられる。また、河村には首を絞められた痕もあった。

 蘇我たちが周辺を聞き込んだ。近隣住民から、「事件前にマスクをした不審者を被害者宅で見た」という目撃証言が寄せられていた。犯人はドアの外側にドアストッパーを置き、河村が逃げられないようにした上で、ベランダに梯子をかけて登り、ベランダの窓を割って侵入した様だ。

 木製の棒(長さ約60cm)の先に包丁を固定した手製の槍のようなものや、バールが現場のベッドの上で発見された。

 

 午後2時、蘇我は署に戻り須藤の取り調べを行った。「知ってることを全部話せ」と、蘇我はそう言ったが、須藤は不貞腐れ黙秘を貫いていた。蘇我はムシャクシャし、ホルスターからS&W M37 AirWeightを抜いて、銃口を須藤に向けた。同銃は警察の主力リボルバーだ。

「その態度何とかなんねーのか!?」

 須藤はガタガタ震えている。撃たれたくないという気持ちが彼を饒舌にさせた。桜木だけじゃなく、河村を殺したことを認めた。さらに、原田加奈と春奈を河鯉郊外にある廃ホテルに監禁していることも喋った。

「桜木だけじゃなく、何故河村を殺した?」

 取調室で蘇我は須藤に詰め寄った。

「アイツのせいで面目丸潰れだ」

 蘇我は須藤から監禁場所を聞き出し、部下たちと向かって春奈と加奈を助け出した。2人は暴力などは受けていないが、春奈はペット用の首輪を付けられており、須藤自身の外出や就寝の際には春奈の両手足を緊縛して身動きが取れないようにしていたようだ。

 

 蘇我は夜になり署に戻ると再び、須藤の取り調べを行った。

「何故、彼女たちに怖い思いをさせた?」

「殿様気分を味わいたかった」

 蘇我は須藤に裏拳を見舞った。

 須藤が数日後、留置所の中で舌を噛んで自殺した。死因は窒息死だったらしい。

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