盾
一方、
「アタイがもう少し、ゲームを面白くしちゃうよ!」
リサだ。彼女が目を赤く光らせるや否や、屠熊は奏多の方に目を遣った。
「勝負だ……奏多!」
彼女の魔法により、屠熊は完全に奏多への殺意を抱いた。彼は瞬時に間合いを詰め、その筋肉質な腕で容赦なく相手を殴っていく。
「おいおい……相変わらず重い拳だな。こりゃ、マズいかも知れねぇ……」
奏多は結晶の鎧を身にまとい、必死に受け身を取っていった。しかし鎧はすぐにひび割れてしまい、いとも簡単に砕け散る。屠熊の圧倒的な力を前にすれば、防具など無意味に等しいようだ。
この光景を前に、リサは笑う。
「ハハハハハ! 存分に暴れなよ! 屠熊! 奏多はここで死ぬんだ!」
屠熊を倒せなければ、奏多に命はない――彼女はそう考えていた。事実、屠熊は数多くの住民と戦い、その強さを知らしめてきた男だ。そんな彼が敵と化した今、奏多はまさに絶体絶命と言えるだろう。現に、彼女は今もなお殴られ続け、全身を酷く負傷している有り様だ。
そこで奏多は考えた。
彼女はリサの背後へと移動した。直後、奏多の腕はリサの首を固定した。
「こりゃあ良い。ちょうど良いところに、便利な盾があったよ」
「ま、待って! 奏多! アタイが悪かった! 話せばわかる! 話せばわかるから!」
「威勢が良いのは最初だけか。アンタも相変わらずだな、リサ!」
二人の目の前からは、屠熊の拳が容赦なく迫ってくる。そこで奏多は魔法を使い、彼の拳を結晶で覆う。
「ひっ……誰か! 誰か助けて!」
当然、そんな命乞いを聞く二人ではない。リサは咄嗟に魔法を解除したが、それも無意味な行動だ。
「この
そう叫んだ屠熊は、リサの顔面を勢いよく殴った。たったの一度だけではない。彼はその重い拳を、己の気の済むまで彼女の顔面に叩きつけた。そんな彼女を取り押さえている奏多にも、凄まじい衝撃が行き届いている。
「おいおい……オレの身のことも考えろ。もうちょっとくらい手加減しろよな」
「ならばその女を離せ! コイツはもう、気を失っているはずだ!」
「気絶してる? おいおい……マジじゃねぇか」
リサが気絶していることに気づき、奏多は彼女を離した。その体は無造作に崩れ落ち、地面に倒れ込んだ。しかしこのままリサを生かしておけば、また同じことの繰り返しだろう。
「この大神屠熊は、絶対にお前を許さないぞ! リサ!」
屠熊はリサの身を凄まじい力で蹴り飛ばし、不敵な笑みを浮かべた。リサの首はありえない方向に曲がり、その口からは大量の鮮血が滴っている。
「行くぞ、屠熊」
「ああ。もっと強い敵が待ち構えているかも知れないと思うと、魂が燃えたぎるようだ」
「ハハ……アンタは相変わらずだな。じゃ、行くか」
さっそく、二人は目的地を目指して歩み始めた。
*
その頃、ディランは依然としてシドから逃げ回っていた。彼の周囲を取り巻くのは、無数の魔物たちだ。ラピスを取り込んだことにより、シドは更に強くなっている。つまるところ、彼の生み出す魔物たちもまた、従来の魔物とは比にならない強さを有しているということだ。
「ヒャハハハハ! 逃さないぞ! ディラァン! 前々から、テメェの善性が気に食わなかったんだよ! 反吐が出る!」
「シド! もうやめよう! 君を看病している時、僕は本当に幸せだったんだよ!」
「ああ、知ってるよ! だからオレ様はテメェを利用したんだァ!」
一本、また一本と、魔物たちは次々と触手を伸ばしていく。その先端には毒針があり、迂闊に近づくことは極めて危険だ。ディランはオリハルコンの剣を振り回し、必死に己の身を守っていった。
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