決戦の地

結託

 数日後、住民たちは一斉に「決戦の地」を目指した。そんな中、ディランはシドと行動を共にしていた。

「シド……僕たちで、この戦いを終わらせよう」

「ああ、もちろんだ、兄弟。オレ様が味方についた意味、わかるよな?」

「ふふ……とても頼もしいよ、シド。君が味方になってくれて、本当に良かったよ」

 何やら彼に看病されたことにより、シドは彼の味方になったようだ。二人は歩みを進め、目的地を目指していく。その道中、二人はある人物と鉢合わせする。


「シド……ワタシはキミを倒しに来た」


 ステラの登場だ。彼女は魔法の杖を携帯しており、その瞳には底知れぬ闘志が宿っていた。彼女は今、真剣そのものだ。そんな彼女に対し、ディランは言う。

「ステラ。シドは改心したんだ。もう、彼を警戒する必要はない」

 無論、今までのシドの素行を監視してきたステラからしてみれば、その話は信用に値するものではなかった。

「ディラン。この男を易々と信じない方が良い」

「人を信じる気持ちは、世界に潤いをもたらす。僕はそう信じる!」

「とんだ戯言だね。本当は気乗りしないけれど、どうやらワタシはキミのことも殺さないといけないようだ」

 彼女は平和を願う者である一方、多少の犠牲を伴うことを厭わない性格だ。シドはディランの前に立ち、眼前の女を睨みつける。

「ディラン……ここはオレ様が引き受ける!」

 そう言い放った彼は、いつものように波を発生させた。しかしステラには、彼の攻撃はあまり通用していない。続いて彼は、無数の魔物を生み出した。ステラはその全てを粘液に変え、自らの肉体に取り込んでいく。

「クリフやキミが魔物を振りまいてくれたおかげで、ワタシもだいぶ強くなったよ」

 そう呟いた彼女は、杖の先端から灼熱の炎を放った。シドの身は容赦なく焼かれ、彼は炎の中で苦しんでいく。

「くっ……テメェ、なんて強さだ!」

「強いのは自分だけと驕っていたようだね、シド。ワタシは何年もの間、この街で戦ってきたんだよ」

「これはマズイな……ディラン! 逃げろ!」

 その発言は、かつての彼の口からは決して出てこないものだった。ディランは少し戸惑ったが、シドの言うことに従うつもりはない。

「嫌だ! 僕は君を置いては先に進めない! 僕たちは、仲間じゃないか!」

「ちっ……馬鹿が! 好きにしろ!」

「うん、好きにさせてもらうよ! シド!」

 結局、ディランはこの場で戦いを見守ることにした。その目の前では今、シドが半ば一方的に追い詰められている。彼は依然として、灼熱の炎に呑まれて苦しんでいる。例えディラン一人が彼を許しても、他の住民が彼を許すことはないのだろう。

「これで、全力か? ステラァ……」

「強がりはやめなよ。キミにはもう、勝算なんかない」

「ヒャハハ! 果たして、本当にそうかな?」

 この期に及んで、シドは笑っていた。それが本心からの慢心なのか、あるいは虚勢なのか、それは彼のみぞ知ることだ。ステラは呆れたようなため息をつき、彼の頭に手を触れる。

「今度こそ、キミの心は壊れるだろうね……シド」

 そう告げた彼女は、目を金色に光らせた。シドは膝から崩れ落ち、頭を抱えながら悶え苦しみ始める。

「な、なんだァ! 何をしたァ! テメェ!」

屠熊とぐまがラピスを倒してくれたからね。おかげでワタシはラピスを粘液化できたし、それをキミの体に流し込むことも出来た。さあ、苦しみながら死ぬと良い。それがキミに相応しい最期だよ……ラピス」

「ふざけるな! オレ様は、オレ様は、こんなところで死ぬわけには……!」

 もはや彼は絶体絶命だ。そんな彼を見下ろすのは、ステラの冷たい眼差しである。この光景を前にして、ディランは目を疑うばかりだ。

「シド! シドォ!」

 彼の叫び声は、辺り一帯に響き渡った。

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