暴走
「目を覚ませ! ディラン!」
そう叫んだ
「アンタ、強いんだな。今までは、相手を殺すことを躊躇していただけか!」
そう――これまでディランが目立った活躍をしていなかったのは、彼が殺生を躊躇っていたからだ。そしてリサによって殺意を与えられた彼には今、理性という制約が無い。少しでも気を抜けば、奏多は命を落とすこととなるだろう。
「ディラン! アンタの親友は、アンタがそうなることを望んじゃいねぇ! それに、オレだってそうだ! オレは、アンタを殺したくはねぇ!」
両者の剣は激しくぶつかり合い、火花を散らしていく。シドと
「殺す……殺す……」
もはやディランは、いつもの彼ではない。今の奏多に出来ることは、彼を気絶させることだけである。
「オレは絶対に、アンタを止めてみせる! ディラン!」
そう宣言した彼女は、いつになく勇ましい顔つきをしていた。幾度となく衝突し合う二本の剣は、甲高い音を奏で続けていった。
その傍らで、屠熊とシドも死闘を繰り広げている。両者共にすでに満身創痍だが、彼らに敵前逃亡という選択肢などない。言うならば、彼らはバーサーカーと化したも同然なのだ。
「倒れろ! 早く倒れろ! 屠熊ァ!」
「死ぬのはお前だ! シドォ!」
無数の魔物と、敵の肉体を腐食させる波――そしてそれらに抗うのは、純前たる筋力だ。一見、筋肉だけでシドを圧倒するのは至難の業でしかないだろう。しかし屠熊の戦闘能力は凄まじく、その鋼の肉体は眼前の宿敵と渡り合うのに十分なものであった。魔物たちは次々と血を噴き出し、少しよろけた後に爆発していく。辺りには鮮血が散らばり、爆炎と煙が広がっていく。
「死ぬが良い!」
魔物の群れを退けた屠熊は、シドの腹に強烈な打撃をお見舞いした。
「かはぁっ……やりやがったな!」
シドは勢いよく吐血しつつも、更に強力な波を放った。屠熊の身はただれていくが、そこで手を引く彼ではない。
「良いぞ……この
もはや今の二人は、人の言葉と肉体を持つモンスターだ。
そんな凄惨な光景を前にして、リサは高らかに笑っている。
「にゃはははは! イエーイ! エレムちゃん見てる? アタイの魔法があれば、こんなゲームはすぐに終わらせられるのさ!」
四人の戦いはまだ終わらない。唯一理性を残されている奏多は、この状況に半ば絶望していた。同時に、彼女は更なる危険が待ち受けている可能性を警戒している。
「リサ! 何故アンタは、オレの理性だけ残した!」
彼女はそう叫んだが、リサは決してその質問に答えなかった。リサは大きな欠伸をし、己の目元を袖で拭う。何やら彼女は、すでに退屈し始めているようだ。一方で、奏多とて、いつまでも危機に瀕しているわけではない。
「眠ってろ! ディラン!」
彼女は声を張り上げ、結晶のハンマーをディランの後頭部に叩きつけた。ディランはすぐに気を失い、その場に崩れ落ちた。これで一先ず、彼が奏多を殺すことはなくなった。
その時だった。
リサは妖しげな微笑みを浮かべ、目を赤く光らせた。直後、奏多は結晶の大剣を生み出した。その切っ先は、彼女の足下――ディランが倒れている場所に向けられている。
「ディラン……オレは、アンタを殺す!」
そう――奏多はリサに魔法をかけられ、最大の相棒に殺意を抱いたのだ。
奏多は足下の相棒を睨みつけ、大剣を勢いよく振り下ろした。
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