結合

「見事な戦いだったよ。奏多かなた。ディラン」

 二人の後ろから現れたのは、ステラだった。無論、彼女とディランは初対面だ。ディランは怪訝な表情を浮かべ、彼女に訊ねる。

「あの……僕たち、どこかで会ったかな?」

 そう――彼はまだ、自分が監視されていることを知らないのだ。そんな彼に対し、奏多は嘘をつく。

「ああ、あの女はアンタの追っかけっていうか……まあ要するに大ファンだよ」

「ファ……ファン? 僕の? ぼ、僕のどこが、気に入ったのかな……」

 まんまと彼女の嘘に騙され、ディランは頬を赤らめた。奏多は意地悪な微笑みを浮かべ、いつものように彼をからかう。

「おいおい……何を真に受けてるんだ? 冗談に決まってるだろ」

 その発言により、ディランは更に赤面した。

「だから、からかわないでよ! 奏多!」

 彼はそう言ったが、奏多は依然としてにやにやしている。彼女が意地悪をやめる日は、早々には訪れないだろう。ステラは苦笑いを浮かべ、ディランに追い打ちをかける。

「本当に仲が良いんだな、キミたちは。良い恋人に恵まれていて、羨ましい限りだ」

 何やら彼女の目には、二人が恋人同士のように映っていたようだ。無論、二人は恋仲ではないが、奏多はあえてステラの言うことを否定しない。

「だってよ、ディラン」

「や、やめてよ! 僕たち、そういう仲じゃないじゃん!」

 もはやディランの心は限界だ。彼は今、己の心臓の鼓動を全身で感じ取っている。それを面白がっている奏多は、彼を壁際に追いやった。

「嫌なのか?」

 そう訊ねた彼女は、壁に手を置いていた。

「もう! いい加減にしてよ!」

 ディランは己の顔を両手で隠し、その場に崩れ落ちてしまった。奏多はステラの方に目を遣り、歯を見せて笑う。

「コイツ、本当にからかい甲斐があるだろ? コイツと居ると飽きねぇよ」

「ふむ……まあ、キミたちが幸せそうで何よりだ。それよりも、だ。ワタシがここに来たのは、キミたちとじゃれ合うためじゃない」

 そう返したステラは、妙に真剣な顔をしていた。彼女は先ず、気絶しているクリフの体に触れた。彼の体は、一瞬にして粘液と化した。続いてステラは、シドの方に目を向ける。

「お、おい……オレ様に何をするつもりだ……」

 あの戦いを経てもなお、彼には意識が残っていた。しかし全身に切り傷を負っている彼は、当分戦えそうにない有り様だ。そんな彼の頭に、ステラはそっと手を触れた。シドもまた、一瞬にして粘液と化した。


 そんな光景を前に、奏多は訊ねる。

「アンタ、何してんだ?」

 その質問に対し、ステラは惜しげなく返答する。

「クリフとシドは、我々にとっては邪魔な存在だ。そして奴らは今、心身ともに弱っている状態だ。今の二人を結合させれば、間違いなくその自我は崩壊するだろう」

 それが彼女の推測だ。さっそく、彼女は二つの粘液を練り混ぜ始めた。

「よせ! 何も、殺す必要はねぇだろ! もうアイツらも、オレらの方が上だって理解したはずだ!」

 奏多は叫んだ。彼女とて、無駄な争いは好まないらしい。そんな彼女に続き、ディランも声を張り上げる。

「僕たちはわかり合わないといけないんだ! こんな街で幸せに生きていく方法なんて、皆が皆を愛する以外にないじゃないか!」

 無論、そんな美辞麗句では、ステラの意志は揺るがない。

「ディラン。キミは少々、純粋すぎるようだね」

「え……?」

「ワタシは二十年以上前からこの街にいた。そして、試せることは全て試してきた。時間を百回も巻き戻すほど己の目的に執着するような者は、そのための犠牲を伴うことをなんとも思っていない」

 そう語った彼女は、全てを諦めたような憂いを醸していた。彼女の容姿は二十代半ばだが、彼女が生きてきた時間はそれ以上らしい。


 脈を打つように蠢く粘液の塊を前にして、奏多たちは生唾を呑んだ。

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