友情
そんな中、
「アトス! アンタ……一体、何を……?」
奏多は訊ねた。彼女の顔には、不安が表れていた。そんな彼女の目の前で、アトスはノイズに包まれながら消えていく。その光景を前にして、奏多たちは全てを理解する。
「アトス! 僕たちなら、大丈夫だから……!」
そう叫んだディランは、満身創痍の体でアトスに駆け寄った。アトスは聖母のような微笑みを浮かべ、彼を抱き寄せる。
「ごめんね。奏多ちゃん、ディランくん。初めて友達が出来たみたいで、楽しかったよ」
「アトス……?」
「ウチはずっと、対エレ厶用の道具――その失敗作にすぎなかったんだ。だけどアンタたちは、身を挺してウチを守ろうとしてくれた。ウチ、今までで一番……幸せだったよ」
そんな二人のやり取りを横目に、奏多は居ても立っても居られなかった。
「アトス! オレたちだって、アンタと会えて幸せだった! オレたちは、アンタを失いたくねぇ!」
彼女はそう叫んだが、それがアトスの消滅を止めることはない。
「今までありがとう。向こうに行っても、ずっと見守ってるからね」
そう言い遺したアトスは、その場から消滅した。彼女が死に際に残した力は光と化し、奏多とディランの体に流れ込んでいく。直後、二人は無傷の状態にまで回復し、彼女たちの抱えていた頭痛や高熱も消え去った。奏多はうつむき、か細い声で呟く。
「あのバカ……オレたちのために命を張る義理が、アンタにあったのかよ……」
しかし今は、感傷に浸っている場合ではない。彼女はすぐに後方へと目を遣り、シドを睨みつけた。その傍らでは、ディランがクリフを睨みつけている。
奏多は瞬時に間合いを詰め、シドの腹に結晶の剣を突き刺す。
「待たせたな、サイコ野郎。ションベン垂れながら許しを乞え」
「命知らずだな。オレ様はまだ、本気を出したことがないというのによ」
「ならば今日がその日だ。さもなくば、アンタは負ける!」
一発、また一発と、彼女の斬撃は着実に相手の体を傷つけていく。シドは必死に抵抗を試みる。しかし彼女の皮膚が腐るよりも早く、彼の体は満身創痍となっていく。そんな戦いを繰り広げる中、奏多は最後の警告をする。
「オレは基本的に不殺主義だが、アンタが相手じゃ手加減は出来そうにねぇ。もしかしたら殺しちまうかも知れねぇ」
無論、そんなことで降伏するシドではない。
「ヒャハハハ! やってみろよ! 口先だけではなんとでも言えるよなぁ!」
「そうか……遠慮は要らねぇな」
奏多は勢いよく剣を振り下ろし、彼を一刀両断した。
奏多の勝利だ。
彼女が戦っていた一方で、ディランもまたクリフと戦っていた。どういうわけか、彼の振るう剣が切れ味を失うことはない。幾度となく召喚される魔物を斬り倒しても、彼の剣は決して刃こぼれしないのだ。
「何が起きている……!」
クリフは憤り、ディランを睨みつけた。ディランの剣の周りには、常時魔法陣が展開されている。その光景を前にして、クリフは全てを察する。
「そうか……常に剣を生成し続ければ、それは決して破損しない剣と同じ……というわけだな」
「ああ、その通り。僕の剣も、心も、決して折れはしない!」
ディランは一気に間合いを詰め、相手の全身に切り傷をつけていく。クリフは己の身を守るべく、魔物を生みだし続ける。しかしディランは剣の一振りで魔物たちを一掃し、クリフの胸に剣を突き刺した。彼がその剣を勢いよく引き抜くや否や、クリフは吐血しながら崩れ落ちた。
ディランも勝利した。
その時だった。二人の勝者の背後から、拍手の音が聞こえてきた。
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