タッグマッチ
翌朝、シドはクリフのもとを訪ねた。
「また俺を玩具にするつもりか?」
そう訊ねたクリフは、警戒心の籠もった目をしていた。シドは首を横に振り、話を切り出す。
「今からオレ様たちで、
今の奏多たちは無防備だ。言うならば、彼女たちはおおよそ戦える状態にない。そんな中でシドたちが手を組み、二人を虐げようものならば、アトスは一刻も早く自らの命を絶たなければならない。
無論、ステラから話を聞いていたクリフも、それをよく理解していた。
「良いぜ。この街から、アトスを葬り去ろうぜ」
一先ず、彼らの利害は一致した。シドはクリフを連れ、奏多たちの拠点へと赴いた。
彼らの到着地では、相変わらず奏多たちが高熱にうなされていた。彼女たちはシドとクリフの姿を目にし、全てを悟る。
「おいおい……アトスを殺そうってか。そうはさせねぇよ」
こんな状況下においても、奏多は強気だ。彼女はおぼつかない足取りで立ち上がり、結晶の剣を生み出す。彼女の後に続き、ディランも鉄の剣を構えた。そんな二人の無謀な態度を前にして、シドは笑いを堪えられなかった。
「ヒャハハハハ! 今のテメェらに何が出来る? アトスにはもう、テメェらを守ることは出来ない! テメェら二人とも、オレ様たちの玩具なんだよ!」
彼の体から、周囲の物質を腐食させる波が発生する。どういうわけか、クリフはその影響を受けていない。奏多はシドとの間合いを詰め、勢いよく剣を振り回す。
「おいおい……アンタの魔法、攻撃する対象を絞れるのかよ。厄介な魔法だな」
「ヒャハハ! その通りだ! 二対二の戦いでも、オレ様は強いんだよ!」
「笑っていられるのも今のうちだ。この狭い部屋の中じゃ、オレたちは近距離戦を強いられるんだ。ここはオレに有利な戦場だ!」
彼女の俊敏な斬撃は、シドの体に数多の切り傷をつけていく。一方で、彼女自身の体も相手の魔法によって腐食していく。一見五分五分の戦いに見えるが、この戦いは奏多にとって振の悪いものだ。奏多は肩で呼吸をしつつ、なんとか意識を保っている。そんな彼女を睨みつけ、シドはまた笑う。
「ヒャハハハハ! テメェらは高熱にうなされている上に、五臓六腑が炎症でボロボロだ! だが今この場で土下座して命乞いをすれば、命だけは助けてやるよ!」
このままでは、奏多は命を落とすこととなる。それでも彼女は不敵に笑い、眼前の宿敵と戦い続けた。
その傍らでは、ディランとクリフが戦っていた。シドの魔法の効力により、ディランもまた満身創痍の有り様だ。それでも彼は剣を振るい、周囲の魔物たちを斬り倒していく。あまり多くの魔物を作れない屋内では、いささか彼の方が有利だろう。もっとも、それは彼の体が腐食されていなければの話である。
「クリフ! 僕たちは同じ人間だ! 僕たちは同じ、エレムの被害者だ! 僕たちはきっと、わかり合えるはずなんだ!」
「黙れ! 俺の目に映るものは祖国だけだぜ! メフィア王国の勝利だけが、俺の望む全てだぜ!」
やはり何度話し合っても、二人がわかり合えることはない。ディランはやむを得ず、魔物の群れと戦い続けた。しかし彼の生み出す剣は、すぐに錆の粉末と貸してしまう。この場にシドがいる以上、ディランは無力だ。しかし、その事実がディランの心をへし折ることはない。
「僕たちが勝たないと、アトスは安心できない! 僕たちは絶対に、アトスを死なせはしない!」
そう――この期に及んでもなお、彼は己の勝利を確信しているのだ。そんな彼に冷たい目を向け、クリフは深いため息をつく。一方で、シドは依然として大笑いしている。今の奏多たちに勝算が無いことは、もはや火を見るよりも明らかである。
それでも二人は、戦い続けるしかなかった。
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