アトスの力

 直後、アトスの目が一瞬だけ青く光った。何が起きたのかわからないまま、シドは魔法を発動させようとする。その瞬間、彼は己の身に起きたことを理解する。

「なんだ……? 何が起きている! オレ様が、魔法を使えないだと!」

 どうやら様々な力を持つアトスには、彼の魔法を無効化することも出来るようだ。彼女はすぐに別の魔法を使い、その場にいる全員をテレポートさせた。



 街の片隅に転送されたシドは舌打ちをし、独り言を呟く。

「先ずはあの女から片付けないといけないな」

 あの圧倒的な力を前にしても、彼はアトスを倒すことを諦めていない。おそらく彼には、何らかの秘策があるのだろう。シドは大きな伸びをし、それからその場を後にした。



 一方、奏多かなたとディランは自分たちの拠点に戻されていた。

「ありがとよ、アトス」

「ありがとう……アトス」

 一先ず、二人はアトスによってあの強敵から身を守られた。そんな彼女たちから感謝の言葉が出るのは当然のことである。続いて、奏多はもう一度、あの質問をアトスに投げかける。

「もう一度聞くぞ、アトス。オレの親父は生きているのか? 覚悟は出来ている。アンタの口からどんな真実が語られようと、オレはそれを受け入れる」

 そう宣言した奏多の目には、一切の迷いがなかった。他者の心を読めるアトスは、彼女が本心を口にしたことをよく理解している。それでもなお、アトスは真実を告げることを躊躇うばかりだ。

「奏多ちゃん。もしアンタの父さんが生きていたら、どうするつもりなの? どちらかが死なないと、アンタのいた世界を守ることは出来ないよ。少なくとも、エレムを倒せない限りはね」

 その言い分はもっともだ。無論、奏多の答えは決まっている。

「もちろん、エレムをブチのめすんだよ。何度も言わせるな」

 いつ何時も、彼女は強気な女だ。アトスは再びため息をつき、更なる真実を告げる。

「奏多。ウチは幾度となく、ウチの持ちうるあらゆる力でエレムと戦ってきたんだよ。だけどウチの力のほとんどは、エレムに無効化されている。ウチは真実を作り変える力を持っているけれど、エレムはその力さえも上回っているんだよ」

 その話が本当なら、ハコニワシティの住民が束になってもエレムを倒すことは出来ないだろう。

「アトス。何かここから脱出するための糸口はねぇのか?」

 奏多は訊ねた。アトスはしばし迷い、それから一つの答えを出す。

「ウチを作ってくれた魔術学者――ステラ博士と話してみると良いかも」

「……そいつは、どこにいるんだ?」

「その情報を、今からアンタの脳に送り込むね」

 彼女はほぼ全能だ。奏多の頭に、ステラの所在地の情報が送り込まれる。彼女は歯を見せて笑い、二人に背を向ける。

「行ってくるよ、博士のところに」

 そう告げた奏多は、自分たちの拠点を後にした。



 *



 その頃、シドはハコニワシティの一角で、クリフを見つけた。

「創造主――あの女に邪魔されたままじゃつまらないだろう。オレ様の力を戻せ」

 彼がそう呟いたや否や、その周囲は眩い光に包まれた。その目の前で、クリフは無数の魔物を生み出している。

「来い……シド。オメェは俺が倒す!」

 彼は言った。しかし彼の生み出した魔物たちは一瞬にして腐り、地上に散らばる肉塊と化していった。

「奏多たちはあの女に守られている。だからオレ様の遊び相手は、テメェだけだ!」

 奏多たちを虐げることを諦めたシドの目は、クリフに向けられていた。彼は魔法を発動し、クリフの皮膚を一瞬にしてただれさせる。

「……!」

 抵抗する間もなく、クリフはすぐに気を失った。シドは深いため息をつき、こう吐き捨てる。

「おっと、力加減を間違えたな。もう少し遊べると思ったが、残念だ」

 この期に及んで、彼はこの街で遊びつくすことだけを考えていた。

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