打倒エレム

 そして今、奏多かなたはハコニワシティに閉じ込められている。しかし彼女の目の前にいる女は、頼もしい味方になりそうだ。

「アンタの言うエレムって奴をブチのめせば、オレたちは自由になれるんだな?」

 そう訊ねた奏多は、自信に満ち溢れた顔をしていた。しかし現実問題として、彼女はまだシドすら倒せていない現状だ。

「ウチらだけでは無理だね。仲間を集めないと」

 それがアトスの答えだった。ディランは優しい微笑みを浮かべ、二人に提案する。

「ねえ、今から仲間を集めにいかない?」

 それが意味を成すか否かは定かではないが、三人に他の選択肢はない。この街を出る方法は二つ――エレムを倒すか、最後の生き残りになることだ。

「行くぞ。ディラン、アトス」

 奏多はディランたちを連れ、部屋を後にした。



 彼女たちは街を練り歩いた末に、クリフと遭遇した。

「なんの用だ?」

 クリフは身構えている。彼は臨戦態勢だ。そこで奏多は、アトスから聞いた話を彼に話した。それから彼女は、彼に協力を持ち掛ける。

「エレムを倒すぞ。ここの住民全員で力を合わせれば、ハコニワシティから脱け出せるはずだ」

 無論、それはエレムを倒すことが可能である場合の話である。彼女の提案に対し、クリフの答えはこうだ。

「断るぜ。姿形すら見たことのない相手を、どうやって倒せば良い? オメェらを倒す方がはるかに容易なことだろう」

 確かに、エレムは常軌を逸した力の持ち主だ。アトスが未だに彼女を倒すことに成功していないのが、何よりの動かぬ証拠だ。しかし奏多は、まだ希望を捨ててはいない。

「諦めるには早すぎるんじゃねぇのか? オレたちはまだ、何もしてねぇだろ」

 そう言い放った彼女の目は、底知れぬ熱意を孕んでいた。クリフは深いため息をつき、怪訝な顔で彼女を睨みつける。

「そのエレムとやらが現存し、この街は今もなお俺たちをルールで縛っているんだぜ? つまるところ、この街のルールを変えた先駆者は、一人たりともいないということだぜ。俺はそんな博打には乗れないぜ」

 ある意味、彼の判断は賢明だろう。無論、そんなことは奏多も重々承知している。しかしその上で、彼女は人を殺したくないのだ。

「倒せねぇ敵でも、説得は出来るだろ。オレがエレムのお友達になっちまえば、全てが解決するんじゃねぇのか?」

 それが無謀な考えであることは、奏多自身もよくわかっている。しかし彼女たちに残された選択は、他に何もない。


 その時、彼女たちの前に一人の少年が現れた。

「オレ様は乗る。テメェの話にな!」

――シドだ。奇しくも、彼と奏多は利害が一致している。彼もまた、いずれはこの街から脱け出したいと考えている一人なのだろう。


 無論、それは彼が嘘をついていなければの話である。


 アトスは眉をひそめ、奏多たちに言う。

「シドくんは、ウチらに嘘をついている。ウチは常時他人の心を読んでいるけど、アイツはウチらを利用した後に裏切るつもりでいる。シドくんは、真性のサディストだから」

 何やら彼女は、シドの本心を理解していたようだ。エレムを倒すために作られただけのことはあり、彼女は様々な力を有しているらしい。シドは悪意に満ちた微笑みを浮かべ、舌なめずりをする。

「キヒヒ……バレたなら仕方ない。テメェら全員、オレ様の玩具にしてやるよ!」

 そう叫んだ彼の目は、赤く発光していた。

「まずい……来るぞ!」

 奏多は咄嗟に身構え、手元に結晶の剣を生み出した。ディランは鉄の剣を生成し、クリフは魔物の群れを召喚した。臨戦態勢の三人の前で、シドは高らかに笑っている。

「ヒャハハハ! オレ様はテメェらには負けねぇし、この街の創造主を殺すつもりもない! この街がある限り、人は苦しみ続けることになるからな!」


――戦闘開始だ。

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