悪戦苦闘

「どうやら私達はここまでのようだな、奏多かなた

「そうだな……親父」

 崩れ行く世界を眺めつつ、奏多とその父親は落胆していた。眼前で全てを破壊している化け物は、もはや自然災害と呼ぶのすら生温い存在であった。言うならば、ディスペアはこの世を滅ぼす摂理に等しい存在だ。


 奏多たちは時間を巻き戻し、ディスペアとの戦闘をやり直すことにした。


 しかし彼女が何度時間を巻き戻しても、結果が変わることはない。二人が時間を停止しても、ディスペアは止まった世界の中で平然と動き続ける。奏多は生唾を呑み、父親に訊ねる。

「親父。アンタの魔法で、ディスペアの魔法を無効化することは出来ねぇのか?」

 無論、それが出来るのなら、二人が何度も時間を巻き戻す必要はない。

「無理だ。奴の魔法には特殊なプロテクトがかかっている。無論、私の魔法ではそのプロテクトを無効化することも出来やしない」

「それなら、どうやってアイツを倒せば……!」

「時間を巻き戻すしかない。奴を倒せる糸口が見つかるまで、何度でも!」

 時間遡行――今の二人に出来ることは、ただそれだけだ。彼女たちの目の前では今、ディスペアが光線のようなものをまき散らしている。そしてその光に触れた全てが、一瞬にして無に還っていく。あの化け物に消されるものは、物質だけではない。時間、空間、そして次元――文字通り「全て」が消し去られていくのだ。

「行くぞ、親父!」

「ああ、必ずこの世界を救うぞ!」

 二人は魔法陣を展開し、時間をやり直した。



 そんな不毛な戦いを続けていくうちに、奏多は予期せぬ出来事を目の当たりにした。



 もはや何周時間を繰り返しているのか、彼女にはわからない。当然、当時の彼女はハコニワシティの存在を知らない。そんな彼女がいつものように時間を巻き戻した時、そこに父親の姿は無かった。

「おいおい……死ぬには早すぎるだろ、親父」

 彼女は冗談めかしてそう言ったが、そもそも父親の死体は見つかっていない。後一ヶ月が経過すれば、いつものようにディスペアが地上に現れる。己の父親を捜索するにあたって、彼女に残された時間はわずか一ヶ月だ。奏多は一心不乱に父親を捜した。世界を救うため、警察や国家も全力で動いた。しかし、彼女の父親が見つかる気配はない。

「おいおい……こんな時にかくれんぼかよ、親父。オレが幼ぇ頃は、仕事に没頭してあまり遊んでくれなかったクセによ」

 実の父親が失踪してもなお、彼女の言動は変わらなかった。しかし彼女の渇いた笑みからは、どことなく哀愁が漂っている。


 結局、彼女はこの時間軸においても、ディスペアと戦った。


 今回は父親がいない。彼女は一人で世界を救わなければならない。そして案の定、奏多は命の危機に晒される。彼女は己の肉体と世界の状態を幾度となく巻き戻すが、それで世界を救えるわけではない。彼女の肉体が消え、そして蘇る。それを延々と繰り返していった末に、奏多は悟る。

「今回も、世界を守れなそうだな……」

 そう呟いた彼女は、更にもう一度時間をやり直した。



 奏多が何度時間を巻き戻しても、そこに父親が現れることはなかった。そんな不条理を前にして、彼女は半ば父親を取り戻すことを諦めていた。

「親父……アンタの使命は、オレが受け継いだ。とびきり旨ぇシャンパンを、アンタの墓に供えてやるよ」

 そんな独り言を呟いた彼女の目の前では今、時空が酷く歪んでいる。ディスペアの脅威に晒された世界を救うには、戦うしかない。そして世界を救えなかった暁には、またいつものように時間を巻き戻すしかないのだ。

「ディスペア! オレはアンタをブチのめす!」

 そう叫んだ彼女は、結晶で様々な武器を使って戦った。しかし、結果が変わることはない。そんな経緯を経て、何度もタイムリープを重ねてきた奏多は、ハコニワシティへと迷い込んだのであった。

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