第三話 殺意のような感情
◇◇◇ ある日の学校
✳︎✳︎✳︎ 美織?side ✳︎✳︎✳︎
こんにちは! 突然ですけど……私は佐藤
中学の時に転校したんだけど、転校前のクラスメイトに疾音、転校後のクラスメイトに栞が居たのよ。それが三人一緒の高校ですものね。クラスが別だったから高校からは付き合いあまり無かったけど、二人が一緒に居るところを見かけて合流したのよ!
控えめに言って、キセキよね!
だから、今は三人でよく遊ぶの。なんかねえ……二人きりだと緊張しちゃうみたいなのよ。だから私を何かと合流させたがるのよね……楽しいからいいけど!
しかし……見てると
「
「待って疾音! あなたファミレス行く時だけ帰り支度早いんだから!」
「部活の休みは貴重よ! 栞
「良いわよ。私も今日は部活休むって言ってあるから大丈夫。美織、疾音
呼び方からして牽制してるみたいなのよね。
決して二人は呼び捨てにしないの。私にはすぐに呼び捨てで呼んでくれたのに。親しくなり過ぎるのを警戒しているみたいね。
まぁ良いわ。こうなったら私が仲を取り持ってあげるわ。これが最近の私のミッションよ。
さて、今日はファミレスのドリンクバー三つとポテトで作戦会議中。
「明日は三人で文化祭の買い出しね。朝練終わってご飯食べたら速攻で駅集合! 二時には行けるよ!」
「なら疾音ちゃんのスケジュールに合わせましょう。駅の東口集合にしましょうか」
「賛成。疾音、遅刻しないでね」
「栞ちゃんは安定だから、美織こそ遅刻厳禁よ。あはははっ!」
「疾音ちゃん、テンション高過ぎ……えーっと、大きな布と小物十七点よね……東急ハンザかな……」
「そうだ! 買い物終わったら三人でなにか食べましょうよ。疾音、予約よろしく!」
「わーい、無茶振りだー。よし、回転寿司が良いな! 予約しとくよ」
私もだけど、二人とも気合いが凄いわ。
「ありがとう、疾音ちゃん、美織、楽しみね」
(ふんすっ!)
そうよ。初めての休日のお出掛け……これはチャンスね。疾音ちゃんと仲を深めないと! 深めたら、何をするのよ、どうするの! きゃー!
「うん。楽しみ。速攻行くよ。待っててね!」
(ふんすっ!)
栞ちゃんとなるべく長い時間一緒に居たいなぁ。仲良くしたいなぁ。どうしたら良いのかなぁ。分かんないなぁ……よーし、こんな時は防御より攻撃よね。目指せ一点突破!
「うふふ、二人とも、覚悟しなさいよ!」
(ふんすっ!)
よしよし、やるわよー!
私が『世話焼きおばさん』になって、仲良くさせるわよー!
◇◇◇ 買い物当日 二時五分
お、おかしい? 既に約束の時間を過ぎてますよ! あの子達、どこに居るのかしら? まぁ、二人で抜け出してイチャコラしてるなら、それはそれで良いけど……買い物してからにして欲しいわ!
LI○Eしちゃおっと!
美織『もしもし、いまどちらですか?』
(ぴこん)
疾音『遅いよー』
(ぴこん)
栞『お待ちしておりますよ』
いやいやいや、私、実は一時間前から来てるのよ! 一番待ってる私に遅いとは何事ですか?
美織『私も到着してますけど、皆様どちらにいらっしゃいますか?』
ほら、返せないでしょ。皆様を待たせるなんて不躾な事、私がするはずが……。
(ぴこん)
疾音『えーどこ?』
(ぴこん)
疾音『どこだろう』
(ぴこん)
栞『東口』
ほら、全く……探しなさいよって、えっ? 東口……ひがしぐち! ここは
(ぴこん)
栞『もしや西口』
(ぴこん)
疾音『わー間違えたんだー』
(ぴこん)
疾音『やーい』
(ぴこん)
疾音『やーい』
(ぴこん)
疾音『やーい』
東口は駅の向こう側! 美織、一生の不覚。急ぎましょう!
「はぁはぁ、わたし……足遅いのよ……はぁはぁ」
(ぴこん)(ぴこん)(ぴこん)
疾音めー、連投して焦らせないで! あっ、居た!
「こんにちは、美織」
「やーい、遅刻魔、遅刻魔」
「はぁはぁ……ご、ご機嫌よう……はぁはぁ、二人とも可愛いわ……はぁはぁ……気合入ってて宜しいですわ……はぁはぁ」
い、いいのよ! 二人の時間が少しでも多くとられたのなら、それは良いことよ! しかし……二人とも気合に満ち溢れたファッションよ。
栞は落ち着いたプリーツワンピースにスカラップデザインのボレロを羽織ってるのね。髪の毛も巻き巻きで気合いが見て分かるほどよ!
疾音もスキニーのデニムに白のカットソー。そこにガーリーなパステルカラーのウインドブレーカーとツイード素材のキャップでアクセントとはカワイイわ! こちらも、いつものダラダラTシャツと穴空きデニムとは気合いが違うわ。
こ、これは二人とも意識してるわね。期待大よ!
私は『世話焼きおばさん』として、地味目な装いで来たから、これはバランスが良い感じね!
「美織、どうどう。まず深呼吸ー」
「そうですね。はぁはぁ言いながら可愛い発言は犯罪の香りがしますよ」
「はぁはぁ……」
「しかし……真っ白のワンピースにつば広帽子とはホント、エレガントね」
「美織、お嬢様に憧れてるもんね! 一番気合が入ってるんじゃない?」
な、なんと! エレガントとは……嬉しい! こちらも気合が入りますわ!
「はぁはぁ……ありがとう……はぁはぁ……ふぅ、じゃあ早速買い物に行きましょう」
「よし、いこー」
「では、参りましょう」
さぁ、あまりに
栞が『何かと手を握る作戦(命名は美織)』をやってるわ。隙があれば疾音の手を握ってるのよ。それを疾音は拒否はしないのよ。でも全く反応しないの。
逆に疾音は『好き好きアタック(命名は美織)』をがんばってるの。すぐに『あなたが好き』って言うのよ。最近は慣れたけど、最初は聞いてて恥ずかしかったわ。でも怖いのが……それを栞はずっと無視するの。絶対に答えないの。
それで二人とも直ぐにリアクションの取り方を後悔して心底しょげてるの。ホント何してるのかしら……。
互いに何かポリーシーがあるみたいだけど……素直になれば良いのに。
それも今日で終わりよ!
今日はご飯食べながら二人の気持ちを確認しようと思ってるの。決戦は三人でお寿司を食べながらね!
まずは買い物を終わらせましょう。
「栞、疾音、買い物終わらせて、早くご飯行くわよ!」
「なになに? 美織、お腹すいちゃったの?」
「私、お菓子持ってきたから食べる? 疾音ちゃんもどう?」
うっ、これじゃあ腹ペコみたいよ。でも好都合だからそのままいきましょう!
「そうなの! 昼ごはん食べてないから、さぁ、すぐに終わらせるわよ!」
「だから気合入ってるんだ、あはは」
「美織、無理なダイエットはダメよ。ふふ、さぁ、片付けちゃいましょう」
気取られなかったわ。よしっ、この『仲良し作戦(命名は美織)』は成功間違いなしよ!
◇◇◇ 買い物中
しまった! 楽し過ぎて普通に買い物してしまったわ。それなのに、栞と疾音はお出掛けのハイテンションにも負けずにポリシーを貫いているのよ。
「疾音ちゃん、こっちにあるわよ!」
明るい声と共に疾音の手を引く栞。その瞬間から疾音は全ての感情が無くなってしまうみたい。栞の手が離れると力の入っていない自分の手をじっと見て戸惑っているの。
『そう。まるで栞が触れている間だけ活動を止めてしまうかのように』
「そんな分かりづらいとこにあるんだ! 流石は栞ちゃん、そんなとこも好きよ!」
栞にサラッと告白混じりのセリフを伝える疾音。まるで聞こえていないように何も語らない栞。
『そう。まるで疾音の好意に何か言葉を返すと死んでしまうかのように』
こんな不思議な二人だけど私に対しては全く普通の対応になるのよ!
「疾音、早くっ! 栞が待ってる」
手を握るとギュッと笑顔で握り返してくれる。一緒に走ってくれる。
「栞、あなた探偵になれるわ。そういうとこ好きよ」
「ふふ、ありがと。私も美織が好きよ」
いとも簡単に好きと返してくれる。
『同時にもう一人は私に殺意のような感情を一瞬だけ向ける』
あーん、もう、ヤキモチ焼かずに素直になってよ!
しかし、二人とも……ここまで頑固とは思わなかったわ。栞も疾音もフラフラだもの。『好き好き』やり合って限界って……ここまでくると呆れちゃうわ。
さて、どうしましょう。疾音と栞、互いにどう想ってるのかしら……。
✳︎✳︎ 栞の気持ち ✳︎✳︎
『そう。疾音ちゃんに私の気持ちだけは伝えていけない』
同性でもヘンじゃないよね……だから直ぐに強く手を握る。でも言葉には出せない。『貴女が好き』なんて絶対に言えない。
初めて聞いた貴女からの『大好き』という言葉。私はあれから貴女の虜。
だって、言霊は肉体より強いのよ。だから声に出すなんて私にはできない。たった一度の告白で一生を縛ってしまうこともあるのよ!
✳︎✳︎ 疾音の気持ち ✳︎✳︎
『そう。私は栞ちゃんの身体には絶対に触れない』
ただ大事にしたい。同性はヘンかな……だからそっと近くにいるだけでも良い。だから『あなたが好き』といつも言う。でも手を握り返すことはできないの。
初めて栞ちゃんが手を握ってくれた時から栞ちゃんのことが頭の中から離れないのよ。
だって、触れ合うことは強いのよ。百回見たり千回聞いたりするよりも強いの。たった一回の触れ合いが一生を変えてしまうほど心に響くこともあるのよ!
✳︎✳︎✳︎ 美織side ✳︎✳︎✳︎
結局買い物は終わったけど、なんか余計にぎこちなくなってる感じ。『世話焼きおばさん』としてはどうにも焦るわね。
うーん、お出掛けハイテンションなら距離も縮まると思ったんだけどなぁ……ホントに頑固な二人ね。取り敢えずこの大荷物をどうにかして最終決戦の場に行くとしましょう。
そうだ。ママに迎えにきてもらおっと。
(プルルッ……)
「もしもし、ママ? あれっ、パパいるの? うん。じゃあお願いします」
◇◇◇ 十五分後
あっ、パパさん号が来たわよ。ママさん号じゃないから大荷物も安心よ!
「わーい、パパありがとう! じゃあ荷物よろしくね。明日学校に運んじゃうから。またねー」
「まさか……美織、今日の大事な食事会、忘れてないだろうな?」
えっ? 今日って……ん?
「……んっ! ぎゃーー! わ、忘れてた。おほほほ。という訳でぇ……ごめんなさい! お二人は気にせずご飯食べてね。よ、よよ、よろしくー」
パパさん、車に乗り込みドアを閉めた瞬間、想像の倍の加速でアクセルを踏み込んでる。そうよね、少し遠いレストランですものね。ヤバいよね……がっくし。
「忘れてたー……」
はぁーん、自分の不甲斐なさが情けないわ……。パパの取引先に同じ位の歳の女の子がいるから一緒に来てって言われてたのを今更思い出しましたよ。
「あの子達、良いのか? パパ、悪者はイヤだけど……」
「……ん? あーっ! ちょうど良かったわ。んふふ、悪者じゃなくてキューピットね。邪魔者は自然に退散よ」
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