第7話 勇者のその後 その1

 一方そのころ、リリーと別れたブレイズ達は、奇しくも同じ敵、ミノタウロスと戦っていた。

 ブレイズがいつもの通り最前線に出て、ミノタウロスの攻撃を受けながら、反撃をする。

 その後方で、リリーの代わりを務めるルリナは、早速疲弊していた。


「はぁ……はぁ……」


 ルリナの回復はあくまで補助。本来は、光魔法での強力な攻撃だ。

 それが、今はひたすら補助の回復魔法で、ブレイズを回復し続けていた。

 アタッカーは剣士のロイヤーと、魔法弓使いのジュールはいつも通りに戦っていたが、連携も何もなく、自由に攻撃し続けている。

 ルリナはひたすら回復しながら、こう思っていた。


 どうして避けないの?!


 明らかな強攻撃の予兆。

 ミノタウロスのこれから強い攻撃をするような予備動作を見ても、ブレイズは全く避けようとせずに、攻撃をひたすらし続ける。

 まるで一刻も早く倒すことだけが仕事かの様に。

 ひどいことに、ロイヤーも、自分に攻撃が及ぶことになっても避けようとしない。

 ブレイズと同じ考えのようだった。


「”イージーヒーリング”、”イージーヒーリング”……”イージーヒーリング”!!」


 本職のヒーラーのヒーリングよりも、回復力が劣る上に、魔力の消費が多い補助回復魔法を、ルリナは何度も唱えていた。


「あ……やば……」


 ルリナは、くらっ景色が揺れるのを感じた。

 魔力を使いすぎた。

 ルリナは思わずその場に座り込んだ。

 

「う……意識が……」


 魔力を使い果たし、意識を手放しかけて、地面に倒れこんだ。

 それなのに、ブレイズ達はそのことに気づいてもいなかった。

 しばらく経った後に、ブレイズは違和感に気づいた。

 体が重い。

 大したダメージではないはずだが、回復が来ていないのか?


「何だ?」


 それでも、向こうのミノタウロスも、もうすぐ倒れそうだ。

 とっとと倒してしまいたいが……

 ようやくブレイズが後ろを振り向くと、はるか後方で、ルリナが倒れているのに気づいた。


「ルリナ?!」


 その声で、ロイヤーとジュールもようやく事態に気づいた。


「倒れている?誰にやられた!」


 ロイヤーは叫ぶが、ミノタウロスへの攻撃を続けた。

 当然、ブレイズも、ミノタウロスから離れることができない。


「まずい、俺もしばらく回復をもらっていなかったようだ。ロイヤー、回復薬はあるか!」


「あるわけないだろう!お前が買うなと言ったんだぞ!」


「し、仕方ねぇだろ……新しい鎧に金が必要だったんだよ」


「倒すしかないだろう!せいぜい死ぬなよ……ぐぉっ!?」


 言っているそばから、ロイヤーは自分が一撃を食らい、派手に吹っ飛んだ。


「馬鹿!はやく戻ってこい!」


 遠距離アタッカーのジュールは、自分が一番近かったため、駆け寄ってルリナを助け起こすと、できるだけ戦場から離れた場所へと運んだ。


「ルリナ、無事か?傷は無いようだが……」


「魔力切れです……」


「何だって?もう魔力切れか?何で言わなかった!」


「だって……」


「まあいい……くそ、ポーションがないから、魔力も戻してやれないな……いいか、そこで待っていろ……」


 そんな無茶苦茶な状況だったが、ブレイズ達は個々の能力が元々高いこともあり、何とかミノタウロスを打ち倒した。


 しかし、かつての戦いから考えると、信じられないほどの苦戦っぷりだった。

 本来そんなに時間をかけて倒す相手でもないのだ。


 ブレイズ達はルリナを抱えて街へ戻ると、薬を飲ませ、宿で安静にさせた。

 そして別室で、今後のことを話し合った。


「だから反対したじゃねえか」


 魔法弓使いのジュールは、実はリリーを追放することに初めは反対していた。

 しかし、彼は故郷に置いてきた妹の治療費を払うために、勇者パーティを追い出されるわけにはいかなかったのだ。

 だから、強くはブレイズには反対しきれなかった。


「うるさいな。お前だって最後は賛成しただろ!ルリナだって何も言わなかったじゃないか」


 ブレイズはそう激怒した。


「どうとでもなるだろ、ヒーラーなんて。俺たちと旅をしたい奴らなんて、いくらでもいる」


 そう言うブレイズに、ロイヤーも同意した。


「ミノタウロスだからよかったが、もっと強力な敵相手だったら命とりだ。この街で他のヒーラーを探そう。ルリナには無理だ。そもそもルリナはヒーラーじゃない」


「わかってるけど、俺らはそれぞれが強いんだから、何とかなると思ったんだよ」


「無茶言うな。とにかく、ヒーラーを探すぞ。全く……」


 ロイヤーは不愉快そうにそう言った。


 隣の部屋でベッドに横たわっていたルリナは、隣から聞こえてくる怒号に、泣きそうになっていた。

 ルリナもブレイズに愛されている自信はあったし、リリーは少し、そう言う意味では邪魔だった。

 だからって、ヒーラーをやる自信はなかったけど、ブレイズにやってみて欲しいと提案されたら、つい、反対することができなかった。

 とはいえ、ここまで苦戦するなんて。

 ブレイズ達は強いので、簡易回復だけでも、上手に立ち回れば倒せるはずだった。


 あの人たち、誰も周りのことなんて見えていないんだ。

 だって、私が倒れてから、見つけてくれるまで、いったいどれだけの時間がかかっただろうか?

 もし、魔力切れじゃなくて、他の魔物に襲われたりしていたりしたのだと考えたら、ぞっとする。


 今まで楽しい旅路だったが、ルリナは徐々に他の三人に不信感を抱き始めていた。

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