心のままに
「追うのかい?」
剣を取るアレンに、テイザットが声をかけてきた。
アレンは苛立ち、振り返る。
「当然だ」
声を荒げ、剣の鞘を床に打ち付ける。
鋭い音とともに、床の一部が砕けた。
シルフィと、シルフィを連れて行った襲撃者たちは、もういなくなっていた。
アレンとテイザットを捉えていた魔法陣もない。魔法陣の効力が無くなって身体が動くようになったのは、シルフィがいなくなってからずいぶん経ってからであった。
「シルフィちゃんはきっと、ボクたちが行くことを望んでないと思うけど」
「そうだろうな」
「諦めきった表情だったよ。きっと強引に迎えに行ったところで、シルフィちゃんはボクらの手を取らない」
「……そうだろうな」
剣を握る手に力が入る。
シルフィが翻っていった瞬間の顔を思い出し、苛立ちが増す。
「アレンはどうしてシルフィちゃんを助けたいの?」
「なに?」
「以前言っていた“導き”のためかい?」
「違う」
「それじゃあ、自分のため?」
「……違う」
答えた直後、アレンは自分の中の力が少しだけ抜けたことに気付いた。
その答えを認めないよう、再び力を込め直す。
アレンの様子に、テイザットが小さく息を吐いた。
近くへ寄り、アレンの剣に指先を当ててくる。
「正直になったほうがいい。アレン」
「……なに?」
「ぐちゃぐちゃ考えると、剣が鈍るでしょ?」
アレンの剣に触れながら、テイザットが片眉を上げる。
そうだなと思ったが、アレンは答えられなかった。格好悪い気がしたからだ。しかしテイザットの目がそれを見透かしたように細くなる。「格好悪くてもいい」と、アレンの剣をつつく。
――そうだな。
アレンは剣の柄を握りしめた。
迷いなく、純粋に。
「本当に煩わしい」
考えがまとまるより先に、声が出た。
くっくと、テイザットが笑って頷く。
「冒険者の規約も、世間も、パーティ同士のいざこざも。……“水晶の導き”も」
「それだけかい?」
「……シルフィの、諦めた顔もだ」
「はっは! そうだねえ?」
「ぐだぐだ考えているこの時も、その先も。シルフィが俺の手を掴まなくてもいい。助け出してから、シルフィに選ばせる」
「今より面倒ごとが増えそうだねえ」
「自由の代償だ」
「それをシルフィちゃんが分かってくれるといいけど」
「分かっているはずだ」
窓の外へ目を向ける。
枠が壊れた窓。襲撃の際に壊されたのだ。窓だけではない。室内のところどころに大穴が開いている。そのうちの幾つかは苛立ったアレンが開けたものであるが。
「俺は行く。熊猫団から除名しておいてくれ」
壊れた窓に手をかけ、目を細めた。
「なんで?」
テイザットのとぼけた声が、アレンの背を打つ。
アレンは振り返り、へらりと笑っているテイザットを睨みつけた。
「冒険者の規約違反だろ。俺のやることは」
「だねえ」
「分かってるなら――」
「でも、ボクも行くからねえ? アレンだけ除名してもね?」
「……あ?」
アレン同様に窓へ手をかけたテイザット。首を傾げるアレンに、くっくと笑いかける。
「ボクも行く。元々行くつもりだったから。アレンが足手まといにならないよう、覚悟を決めさせただけさ」
「……そうか」
「そうさ。さあ、行くよ。あの時助けてと言わなかったシルフィちゃんを後悔させよう」
「そうだな」
頷きあい、二人は窓から外へ飛びだす。
月の明かりが、瞳に揺れた。
手に届かぬはずがないと、励まされている気がした。
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