不安に這い
荷を作るシルフィの傍の灯が、小さく震えた。
同時に背後で、別の灯りが揺れる。
「行けるか? シルフィ」
アレンの声がシルフィの肩を叩いた。
振り返ると、心配そうな表情を浮かべるアレン。その手元に、シルフィよりやや多い荷があった。シルフィと同じく、必要最低限のものだけ詰め込んだらしい。シルフィはアレンに小さく頷き、自分の荷をそっと撫でた。
「不安か?」
「……不安よ」
「何事も、だいたいなんとかなる」
「……テイザットさんが言いそうな言葉ね」
「テイザットが言っていた」
「やっぱり」
シルフィは苦笑いしてみせる。
そのテイザットは、今はいない。移動先でも乗り捨てができる竜馬を借りに行っているのだ。ずいぶん前に出たから、もう戻ってくるころである。
テイザットが戻ってくるまでの間も、シルフィは窓に近付かず、潜んでいた。
恐怖によって隠れているわけではない。ただただひたすらに、皆に顔向けできないという想いでいっぱいであった。この上さらに、今ヴィランたちに見つかってしまえば迷惑どころではなくなってしまう。
「竜馬の鳴き声がしたな」
アレンが窓の外を見て言った。
「うん、テイザットさんが帰ってきたみたい」
「分かるのか?」
「この姿になってから、感覚が鋭くなっているの」
「そうか」
「……変だと思わないの?」
「思わない」
相変わらずアレンの答えは短い。しかも即答だ。それが今のシルフィには、嬉しかった。長考する様子が見られない分、本心のままに返事してくれていると思えるからだ。
だからこそアレンにすがっている。
アレンにすがれるからこそ、熊猫団にすがることができる。
今は辛くても、熊猫団と共にいれば、いつかはきっと――
「……あれ?」
思わずシルフィは、首を傾げた。
その声は無意識で、数瞬遅れて妙な気配に気付いたのだと悟る。
「……テイザットさん以外の気配が、たくさんするわ」
「人か?」
「た、たぶん」
「どっちが先に来る?」
「テイザットさんだと思う」
「つまり、付けられたってことか」
アレンが舌打ちをして剣に手をかける。
チンと金属音が鳴った。同時にアレンの目が細くなる。
テイザットの足音が聞こえてきた。ゆっくりと近付いてきている。
シルフィが感じている別の気配は、足音を立てていなかった。しかし確実に近付いてきていると、シルフィには感じ取れていた。アレンもようやく気付いたらしく、険しい表情へ変わっていく。
「たっだいまあ!」
テイザットの声。戸を開ける前にひびいた。
後を付けられていたなど、微塵も気付いていないに違いない。
「俺が出迎える。シルフィはそこに居ろ」
「でも」
「テイザットには悪いが、一瞬で状況を理解してもらう。そのあとはすぐ逃げる」
「う、うん」
「いくぞ」
アレンがそっと戸を開ける。
テイザットの顔が見えた。にこやかな、いつもの笑顔。
「竜馬、借りてきたよ? ……って、ん? なに??」
「テイザット、いますぐ――」
アレンがテイザットに声をかけた瞬間。
周囲が光に包まれた。
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