第10事件「推理休題 酷暑 氷菓子」
「じゃ、2時に北門」
「オッケー」
そう言って六家と七寸は放課後の約束を交わす。今は個人懇談期間だ。午後の授業がなくなり、昼からたっぷりと遊ぶ時間が確保できる。
「にしても、七寸とこうやって遊ぶのって初めてじゃないか?」
ふと我に返った六家。いつも学校で色々話す仲ではあったが、こうして放課後まで遊ぶほど仲がいいわけではなかったのだ。
「でもまあ、結局、探偵だのなんだの言うんだろうな……」
学校を出れば、きっとまた新たな興味を惹くものが現れるに違いない。
「ま、別にいいか」
細かいことは考えないようにした六家。家に帰るなり用意してあったおにぎりを頬張って着替えた。
7月に入り、より一層暑さが増している。熱中症にならないようにと、準備してもらった水筒を肩から提げて、すぐさま自転車に乗り、学校へと漕ぎ出した。
「ちょっと早く着きすぎたか……」
時刻は1時30分過ぎ。当然七寸の姿はない。
――はずだった….…
「助手、集合時間を間違えたのか?まだ2時にはなってないぞ」
「それはこっちのセリフだよ。どうしてもういるんだよ」
いつもの制服姿とは違う、私服の七寸の姿があった。小学生だが、やはり制服と私服では随分と印象が変わる。半袖に短パン、極限まで肌色を露出したその姿に、六家は少し動揺する。七寸はなんらおめかしをしているわけではなく、いたって自然体であるかのように見えた。いつもの七寸りずん、そう六家には映っていた。
そう、いつもならここで「どうしてでしょう? どうしてこんなに早く到着してるんでしょう?」と言って推理が始まるはずだった。だが、七寸は澄ました顔でこう言ったのだった。
「さ、今から何して遊ぶ?」
――拍子抜けもいいところだ。
「え? それでいいの?」
「まさか、宿題するために集まったわけじゃないでしょ」
女子は遊ぶときに宿題をして時間を潰すということを聞いていたが、七寸はもちろんそのつもりではないらしかった。
「じゃあ、ブランコかな」
「オッケー」
六家には七寸が遊ぶことが楽しみすぎて早く来すぎてしまったこと、七寸が今自分にできる精一杯のおしゃれをして着飾っていることなど一切考えが及ばなかった。まさか、七寸が淡い恋心を抱いているなんて、露も理解していなかったのだ。
「二人だと、できること、限られてるね」
「うん? でも、あたしは別にいいけど」
炎天下の中、ブランコが長続きするはずもなかった。
「そうだ、りずん、コンビニ、行かない? お母さんからアイス買うお金はもらってるんだ」
「さすが、助手。いたい所に手が届くってやつだ」
「それを言うなら痒い所に手が届くだよ」
「そうかもな」
六家と七寸はお互いにこうして何気ない時間を過ごすことに幸福感を感じていた。まるで前世からつきあいがある間柄であるかのように落ち着く関係性。何も言わなくても何かが伝わる以心伝心の感覚。本当にただのクラスメイトだとは思えなかったのだ。
「あたし、これがいい」
「これって二人で食べるやつだろ?」
「じゃあ、ボクはこっちにしようか……」
「ん!」
六家が他のアイスを手に取ろうとした瞬間、七寸は六家の胸元に自分の持っていたアイスを突きつけた。
「……分かった」
ここでようやく六家もなんとなく七寸の気持ちに気が付くことができた。
「よし、そうしよう、そうだよな。二人いるんだし」
その後、コンビニの駐車場でアイスを分け合って食べた。本当は買い食いは禁止されているけれど、これは六家と七寸の秘密にした。
「これ、先生に見つかったら怒られるね」
「絶対、先生なんてこんなところ来ないよ」
「それもそうか……」
――甘いアイスなんだけど、はどうしてか、いつもより甘く感じる。
たまにはこんな日もあるだろう。そう自分に言い聞かせる六家。なんとなく過ごしたこんな日が、いつまでも思い出になればいいななんて考えて、六家はまた自転車を漕ぎだした。
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