第8事件「窃盗 屑箱深淵 冤罪」


「全然、見つからない!」


 教室は狭しとはいえども、誰かの机の下に隠れていたりすれば、容易く見つけることはできない。


「昼休み、再チャレンジだ!」


「先生も、言ってたけど、掃除の時間になったら、見つかると思うけど……」


 里西は山中の言ったことを信じていたようで、二人にこれ以上時間をとらせまいと考えていた。


「いやいや、このりずんが見つけてみせるんだから!」


 ここまでくるとただの意地でしかない。引き際を見誤るともいえるこの愚行は、延長戦に突入した。


「前になかったということは、後ろしかないということだ。だな、ワソト君?」


「いや、そう思えるが、実際授業をして、こうして昼休みになるまで見つからないということは別の場所にあるということも考えないといけないかもしれない……」


「例えば、考えたくないけど……」


――誰かが、盗んだ……とか。


 六家の言う通り盗難の可能性も十分にあった。だが、そんな使いかけの消しゴムを盗む物好きがいるとは到底思えないが。


「里西さんのことが好きな誰かが、盗んだってことね! ってことは、里西さんに対して好意を抱いている人が、容疑者の可能性が高い! 推理らしくなってきたじゃない!」


 先ほどとは打って変わって、ノリノリの七寸であった。


「ということで、平前君、君は里西さんのことが好きだよね?」


 唐突に後ろの席の平前に問う七寸。


「いやまあ、嫌いとかではないけど……」


「犯人、確保!」


 そう言って七寸は平前の右手をがっしり掴んだ。


「さすがにそれは無理がある」


「止めるな、助手。あたしには犯人のトリックが……」


 見えもしないトリックに現を抜かす七寸。証拠もないのに逮捕するのは悪党の所業である。


「ということで、真面目に後ろを探そう」


 一度頭を冷やす意味も込めて、教室の後ろを探し始めた二人。


「もしや、このゴミ箱の中にあったり、なかったりするのでは?」


「助手よ、頼む」


「いや、汚れ仕事担当とかじゃないから」


「そこをなんとか」


「見つけたら、ボクの手柄になっちゃうけど?」


「あたしがやろう」


 そう言ってゴミ箱のなかを弄る七寸。この中にある可能性はないとはいえないだけに、里西も止めることはできないでいた。


「助手、一つ分かったことがある」


「この中に消しゴムはない」


 鉛筆の削りカスがこびりついた右手を掲げて、七寸は言った。


「お疲れ様、探偵りずん」


 実際しらみつぶしに探しているのだから、そろそろ見つかっても良いはずなのだが、見つからない。やはり先ほどの推理、盗難の可能性が高くなってきた。


――キーンコーンカーンコーン。


 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。


「どうやらあたしたちはこれまでのようだ……」


 あっさりと諦める七寸。どうやら彼女の辞書にアディショナルタイムという文字はないらしい。


――というか、飽きたな、これ。


 こうして、この事件は未解決に終わるかに思われた。


――が……


「里西さん、もしかしたら消しゴム、音楽バッグの中かも」


 六家たちを見かねた前園がそう言って声を掛けた。音楽バッグは机の横にかけてあるかばんだ。六家たちはその中を確認してはいなかった。


「まさか、そんなところに……」


「あった!!!!!」


 こうして事件は呆気なく解決した。探偵と助手、二人はまた手柄を立てることはできなかったのであった。

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