第7事件「護謨 転落 所在不明」


「助手、何か探偵っぽいことがやりたい」


 七寸はそう言って六家の方を見遣った。どうやら暇を持て余しているようだ。


「でさー、『お手柄小学生探偵!』とか言われたいじゃん」


 承認欲求の塊のような発言だったが、たしかにちびっこ探偵ならそのくらいの名誉が欲しくなるものだ。


「猫探してます、みたいな依頼ってないのかなー」


 アニメでよくある動物探しの依頼なんてものは現実世界ではそうそう起こり得ないイベントだ。実際ペットはすぐに見つかるか、絶対に見つからないかの二択で、素人が探し回ったところで都合よく見つかるはずなどないのだ。


「依頼ねぇ……」


「そこの二人、里西の消しゴムがなくなったらしいからちょっと引き出しとか見てくれ」


 担任の山中が声を掛けてきた。何と言うベストタイミングだろうか。


「助手よ、これは事件のかおりだ」


「いや、さすがに消しゴムくらいすぐ見つかると思うけど」


 ということで自分たちの引き出しをまず探してみた。


「ま、ここにあったらわざと隠してましたって言ってるみたいなもんだけど」


「さすがに……ないな」


 ノートや教科書を除けて探してはみたものの、やはり見当たらない。


「ない、か。じゃあ、仕方ないな。まあ、また掃除の時でも見つかるだろう」


 やけに楽観的な山中。長年の経験からだろうか、簡単に見つかるだろうという思いが滲み出ているのが分かった。


「助手よ、タイムリミットは掃除の時間まで。つまりはあと2時間だ」


 今は2時間目が終わった中休み。掃除は給食の後である。つまりはあと2時間の猶予があった。


「探偵っぽいこと、やってやろうじゃないか」


 こうして六家と七寸の探偵ごっこが幕を開けた。


「まずは落とした本人に聞き込みだ」


「ということで里西さん、消しゴムはどこに落ちてったの?」


「授業の最後、使おうと思ったらなくて……」


「その消しゴムって丸かったりする?」


「角がなくなってて丸い……かな」


「じゃあ、カバーとかも……」


「もうなくなってる」


 矢継ぎ早に質問する七寸。これはどうやら思っている以上に高難度の依頼かもしれない。


「里西さんの席は窓側だから……絶対に右側に転がっている」


「そりゃ当たり前だろ。左側は壁なんだし」


 真相に近づいているようでまったく近づいてはいない。至極当たり前のことを言っているだけだ。


「問題は前に転がったのか、後ろに転がったのかだ」


 里西の席はクラスのちょうど真ん中だ。黒板の方に転がったのか、後ろのロッカーの側に転がったのか、せめてそのどちらかが分かれば捜索もしやすいというものだ。


「うーん。筆箱を前の方に置いてたから、前って可能性が高いかな……」


「うむ、助手。前から探そう」


 こうして二人は中休みの20分間を消しゴム探しに費やした。里西さんの消しゴムを、二人は見つけることができるのか……

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