第5事件「証左 娯楽 類推」

「今から7つのとびらゲームをしまーす」


 お楽しみ係の前園が元気よく言った。


「ワソト君、これはあたしたちにぴったりのゲームじゃないか」


 この7つのとびらゲームはいわゆる推理ゲームで、出題者があるものを設定し、その物がどんなものなのか7つのヒントをもとに考えるゲームである。


「第一問、質問がある人ー」


「はい!」


「じゃ、市村さん!」


「それは、食べ物ですか?」


「はい、食べ物です」


 市村の質問により、無数にあった答えの中から、どうやら食べ物であることは特定できた。だが、それ以上の情報がない以上、迂闊に答えに辿り着くことなど……


「分かった!」


「えぇ! 七寸さん、もう分かったの!! じゃあ、七寸さん!」


 出題者である前園は本気で驚いているようだったが、さすがにこのヒントだけで正解できるなら、ただ運がいいか予知能力者だ。


「ふふ……答えは、トマト!!」


「ぶっぶー!!」


「へにゃーー!!!」


――ほら、言わんこっちゃない。


――ってかへにゃーって何だよ。猫なのか? 素でそんなリアクションができるなんて逆にすごいけど!!


「んじゃ、次のしつもーん」


「はい!はい!はい!」


 ゲームは盛り上がり、たくさんの手が挙がっていた。前園はしばらく迷った後、


「じゃ、六家くん!」


 六家の方を指差して言った。


「それは野菜ですか?」


「ワソト君、普通すぎるぞ!」


「いいだろ、2つ目のヒントなんだし」


 横から余計なヤジが飛んできたものの、それを気にせず六家は質問した。


「はい、野菜です」


「でかした! さすがあたしの助手!!」


 なんていう早さの手のひら返しだろうか。まったく、この探偵、いいところがいまのところまったくない。


「はいはいはーい! 答え、分かっちゃいました!」


 性懲りもなく手を挙げて存在感を誇示する七寸。さすがにそうはいかせまいと隣の六家がブロックに入った。


「む! 何をしようというのかね! ワソト君!!」


「どうせ適当言って外すのがオチなんだ。もう少し推理したらどうだ」


ーー探偵らしく!


「…………」


 そうだったと言わんばかりの沈黙。ズシリとこの言葉の重みが伝わったのだろうか。七寸は勢いよく掲げていた右手を元の位置まで下げた。


「ワソト君、あたしは忘れていたよ。初志貫徹ってやつだね」


「いや、ちょっと違うと思うけど」


――初心というか、本分というか。


 とりあえず、気を取り直して三つ目のヒントを訊く。


「……それは……赤色ですか?」


 千草が少し遠慮気味に問うた。小声で弱弱しいかすれた声だった。


「赤色では……ありません!」


「いや、待て! どうして赤色に絞った! 野菜は赤以外の方が多いんだぞ! そんなの何のヒントになるって言うんだ! ちょっと! 大西くん!!!」


「そのための7つのヒントなんだよ。ちょっと落ち着いて」


 七寸の言うことも一理あったが、これはあくまでもお楽しみ会である。貴重なヒントを無駄にしたところでなんら支障はないのだ。


「んじゃ、どんどんいっちゃおう!」


 まだヒントは半分以上あるのだ。まだ慌てるような時ではない。


「それは三文字ですか?」


「はい、三文字です」


 高田の質問が見事的中する。これは大きな手がかりとなる。


「今わかっているのは、三文字で赤色ではない野菜」


――めちゃくちゃあるんじゃないか?


「たしかに。今パッと考えられるだけでも、レタス・オクラ・ごぼう・スイカ・セロリ・もやし・ゴーヤ、まだまだありそうだけど……」


「助手は野菜博士か? 一気に思いつきすぎではないか?」


 七寸はちょっと引いていた。


――買い物行ったときに見てるだけじゃん。誰でもこのくらいは分かるだろ。


「あたしはトマトしか出なかったぞ」


「いや、トマト赤いからバツだし」


――てか、さっき言って違うって言われてたじゃん。


 この後もヒントは出て、緑色であること、小さいこと、給食に出たことがあるということは分かった。


「いよいよ、最後の質問です」


 お楽しみ係の前島は勝利を確信したかのように余裕綽綽の表情で言った。


「ぐぬ……最後のヒントは一体何を質問すればいいんだ?」


「打つ手が……ない……」


 小学生の知能ではこれ以上、真相に迫るような質問を出すことは困難だった。しばらく皆沈黙した後、山野が言った。


「それは鍋料理に使われますか?」


「いいえ」


 最後のヒントはほぼ無意味な質問に終わった。この限られたヒントの中で三文字の野菜を特定することは至難の業だった。


「ここで、探偵の頭脳が試されるってわけだ。りずん、ここはバシッと決めっちゃってくれ」


「あたしにだって、調子の悪い時だってある。ワソト君、あまり期待をしないでほしい」


 完全に手詰まりであることを明かしたかのような答えだった。


――七寸りずんは、いつもまともに推理できてない。


「じゃあ……」


「はい!」


 六家が挙手した。ここは助手の力のみせどころだ。幸いなことにまだ3文字の野菜の候補を思いついたのだった。


「三つ葉!」


「うーーーん、残念」


「ぐはっ……」


 いいところを攻めたつもりの六家だったが、あえなく散った。意気消沈の六家を余所目に、七寸が続けた。


「なすび!」


「いやそれも違う。ってか緑色だからね。七寸さん……」


 こうして7つのとびらゲーム第一問は幕を閉じた。賢明なる視聴者の方は分かったかもしれないが、答えはパセリである。この7つのヒントだけでこの答えに到達するのは甚だ困難ではあったが、この後のお楽しみ会も二人が楽しんだことは言うまでもないだろう。


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