第3事件「果醤 紛失 慟哭」

「警部が犯罪を起こすことってあり得ると思うかね? ワトソ君?」


「おいおい、そんなのNOに決まっているだろ。さすがに正義の見方がルールを破ったらなんでもありじゃないか」


――いきなり何を言い出したかと思えば、そんなの掟破りに決まっている。


 でも数ある推理小説の中では、警察側が犯人だったなんて展開も普通の話なのかもしれない。


「ってことで今回も事件なのだよ。ワソト君」


「展開が急すぎないか!?」


 事件は10分前に遡る。


 4時間目のチャイムが鳴り、給食の配膳時間になった。六家はトイレに行って帰ってきたところ、ぴょんぴょんと飛び跳ねる七寸と目が合った。


「ワソト君、今日の給食は何か知っているか?」


「ん? 知らないけど」


「あたしの好きなハンバーグなのだよ!!」


 語尾に確実に感嘆符が付いている声色で七寸は言った。


「うん。まあ、良かったな」


 ハンバーグは六家も好きなメニューではあったが、給食のハンバーグはどうも業務用というか、肉の質感が違うというか、どこか家の母が作るものとは異なると感じていた。


「ハンバーーーーーグ!!」


 依然としてテンションが青天井の七寸。小学生という生きものは刹那的である。その時々の感情をMAXにして生きているのだ。


「絶対にじゃんけんに勝って二つ目のハンバーグを手に入れる!」


 今日の欠席は前園、千草、中崎。三個のハンバーグが余ることになっている。だからこそ、その残りのハンバーグを手に入れることに全力を尽くすつもりでいた。


――だが……


「ない!ジャムが、一個足りない!」


 じゃんけんが始まるはずだった教室で青野が叫んだ。


「3つあったはずのジャムが……なくなっている……」


 今日の給食はハンバーグとクリームシチュー。加えてパンもある。そのパンに付属してジャムがある。パンにジャムなどの追加メニューがつくのはレアケースで、そんな日はみんな決まってテンションが上がる。七寸が欣喜しているように、クラスの皆もジャムに対する意識が高かった。

 だからこそ、この消えたジャムについては誰もが行方を知りたがっていた。


「さあ、ワソト君、君にこの謎が解けるかな?」


 神妙な面持ちで七寸が言った。


――いや、お前、それ悪役側のセリフじゃん。


――りずんさんは謎解き、するんじゃないんですか??

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