第2事件「第謎者 発覚 鹵獲失敗」
「うむ、この事件、迷宮入りだ。後は先生に任せよう」
あっさり手を引く七寸。このくらいの謎ならば少年探偵団だけでも答えに辿り着けそうなものだ。
「おいおい、そんな簡単に迷宮入りしちまっていいのか!? しちずんシップはどこに行ったんだよ!」
「法律が憲法を元に定められているように、しちずんシップもまた先生の元に定められている……」
「つまりは?」
「先生には敵わない」
潔いのか、諦めが早いのか七寸はあっという間に推理を放棄した。
「これがもしもミステリ小説の導入だったら、読者はドン引きだぞ。この先、事件なんて解決できなさそうだって思われちゃうぞ」
「いいもん、別にりずんにだってムリなことはあるし」
二つに束ねた髪の毛の一つをくりくりと弄りながら七寸は言った。
――こいつ、完全に推理を諦めてやがる。
「おーい、チャイム鳴ったぞー。席につけー」
担任である山中が大声で呼びかけた。次の授業は国語だったが、先ほどの一件の聞き取りを行うことになったので、漢字ドリルの新出漢字をなぞる時間に変わった。
「ワソト君、結局のところ、誰が犯人だと思う?」
隣の席の七寸が声を掛けてきた。
「ボクは三人が嘘をついていると思う。三人ともカナヘビを触っていたんじゃないかな。そうじゃないと、他の人が見ている中で不審な動きをするのってムリだと思うし……」
誰の責任でもない、連帯責任だ。だからこそ、言い出しにくかったということも考えられる。誰かに罪をなすりつけるくらいなら、みんなで隠した方が良いという考えで黙っていたのかもしれない。
「ふーん、さすがりずんの助手ね。なかなかやるじゃない!」
七寸は心の底から六家の推理に驚嘆していた。名探偵が巧みなトリックを見抜いた時のように、素直に感心していたのだ。
――だが、小学2年生の浅はかな推理ほど、無意味なものはない。
「おーい、みんなで中島のカナヘビを探しに行こう。今ならまだ見つかるかもしれない」
山中はそう言ってクラス全員に声を掛けた。張り切って腕をこれみよがしに回すものもいれば、気怠そうに猫背で立ち上がる者もいた。
「一体、これってどういうことだと思う?」
「どうしてトカゲが外に出ているんだろう?」
二人はトカゲの行方が皆目見当つかないといった様子で、ただ目を丸くするばかりだった。学校の中庭、雑草が生い茂るその場所は生き物見つけをする時によく来る場所だ。観察池と呼ばれる小さな池には、メダカが泳ぎ、カエルが飛び跳ねている。その近くにはいくつかの木もあった。その木が何の木なのかはまったくわからないけれど、そこにもたくさん生き物がいるのだ。
「あっいた!」
「どこどこ?」
野本が叫ぶと同時に大きな木の周りに人だかりができた。野本はそういう野生の勘が強い人物だ。だからこそ、トカゲもこうして見つけることができたのだろう。
「中島、これがお前のトカゲか?」
木の根元でじっとしているトカゲを見ながら山中は言った。トカゲは逃げることもせず、多くの大衆に見守られながら堂々としていた。
「うん、多分」
山中の質問に最初は自信なさげの中島だったが、まじまじと見つめているうちに徐々に確信が持てたようで、
「いや、これは、ぼくのトカゲだ!」
と最後には嬉々として言った。担任の山中は安堵した様子だった。
「これにて、事件解決だな!」
「いや、りずん。犯人が分かっていない」
――ってか、お前が事件を解決したわけでは、決してない。
「おっと、そうだったな」
この状況を作り出した犯人がまだ判明していないのだった。
「いやあ、よかったよかった。隣のクラスの三島には先生が注意しておくから」
「三島?」
りずんの推理が外れたことが明らかになった瞬間だった。どうやら、トカゲを触っていた植田さんが、隣のクラスの三島さんと一緒に触っているうちに逃してしまったようだった。
「全然当たってなかったな」
「ま、当たるも八卦当たらぬも八卦だしぃ」
「それは占いだろ」
そんなものと一緒にされては全探偵が泣いてしまうだろう。だが、小学生の推理ごっこなどこんなものだ。当たる方が少ないのだ。実際の事件だってただの一般人の憶測が的中することの方が稀なのだ。
こうして事件は探偵と助手の手助けなしに幕を閉じた。
次なる謎は彼女たちに解き明かすことができるのだろうか……
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