ロリっ娘探偵!しちずん りずんッ!!
阿礼 泣素
第1事件「中島君 蛇舅母 失踪」
「あたしに解けない謎なんて……ないんだよねッ!」
そう息巻くのは七歳の小学生、
そもそも謎なんて大仰な言い方をしているが、これはただのボランティアみたいなものだ。学校の七不思議についてあれこれ言っている人間たちと大差がないレベルなのだ。
決して頭脳が大人ってわけではないし、彼女が行く先々で殺人事件が起こるってわけでもない。
そう、これはボクと彼女の探偵ごっこ。
それだけだったはずなのに……
※
「何!? 中島君の飼っていたカナヘビがいなくなったって!?!?」
――大事件じゃないか!!
――しちずんシップに則って、この事件はこのしちずんりずんが解決してみせよう!
しちずんシップと言うのは七寸が勝手に掲げている目標みたいなものであって、具体的には、第一に必ず事件を解決すること、第二に平和的に解決すること、第三に解決の際に見返りを求めないことの三つの信条をまとめたものである。
彼女が齢7にして、探偵業を営んでいるのかと言えば、決してそうではない。彼女はただのごっこ遊びに興じているにすぎないのだ。
このスマートフォンが普及した時代に、探偵など意味をなさない。世間一般で知られている探偵はあの有名な某江戸川君ぐらいなものだ。
「中島君、君が最後にそのカナヘビを見たのはいつかな」
七寸は優しい声色で問いかける。彼女の特徴的な声からはまるで似つかわしくないセリフだったが、彼女の中には探偵の魂が宿っている。
ーーと言うか、完全にノリノリで役作りを行っているにすぎないのだが。
「ちょっと、ワソト君……君、今何かこのりずんの悪口を言ってはいなかったかね?」
推理はしっちゃかめっちゃかなくせに、こういう時、彼女の勘は鋭い。
「いえいえ、滅相もございません」
こういう時は変に弁解をせずにすぐに否定するのが吉である。妙な間を作れば、それは素人探偵にあらぬ疑いをかけられることになるからだ。
――実際、言ったわけじゃなくて、思っただけだからセーフだし。
「ん? やっぱり何か怪しい……」
七寸は首を傾げながら、話を戻した。
「まあ、それで、だ。中休みまでは、そのカナヘビの次郎と一緒にいた、と」
「うん。俺が遊びから帰ってきたらカゴの中からいなくなってて……」
中島君の話を聞きながら、うんうんと頷く七寸。暫くの沈黙の後、彼女は声高らかに言った。
「犯人は、この中にいる!」
いや、さすがにそのセリフは使われすぎて手垢が付きまくっているだろう。今のはさすがにない。流石に助手とはいえ、擁護できない。
「なんて言うとでも思ったか!!」
場の雰囲気を即座に感じ取った素人探偵は、すぐさま前言を撤回する。
「正確には、高田さん、市村さん、植田さんの三人の中に犯人はいる!」
クラスの人数は自分たちをを含めて30人。その中からたったの3人に犯人の候補を絞っただけでも探偵としては随分と能力が高いだろうと思われた読者諸君。
勘違いするなかれ。ただ、アリバイが無かったのがこの3人というわけだったにすぎない。つまるところ、休み時間に運動場に出ないで教室に残っていたのがこの3人だったのだ。
「ふふ、この事件もう解決したと言っても過言ではないな、ワソト君」
「過言だよ」
ここから犯人を絞るのが難しいんじゃないか。さすがにそれくらいは某名探偵アニメで学んでおいて欲しい。
「もう一度、状況を整理すると、高田さんは教室で本を読んでいた。市村さんは宿題をしていた。そして、植田さんはカナヘビを見ていた」
「犯人は、植田さんだ!」
いや待て、そんなに早急に犯人が見つかるはずがない。植田さんが犯人だった場合、中島君は困ってはいないはずだ。
「僕も植田さんしかいないと思ったけど、どうやら違うらしいんだ」
ほれみろ、言ったことか。そんなに簡単に事件の真相が明らかになるはずがないのだ。
「……妙だな」
右手を顎に当てながら七寸は神妙に言った。何かに勘付いた風を装っているが、十中八九、ただの時間稼ぎでしかない。
「仮に植田さんが犯人だったら、他の二人が見ていたはずだ。読書や課題に集中していてそのことにすら気が付かなかったと言うなら別だけど……」
容疑者がここまで絞り込めているというのにこれ以上進展がみられないというのもまた七寸の言う通り妙である。本当に中休みの間に犯行が行われたのであれば、中山君が嘘をついているという可能性だってある。
「本当に、教室にはこの3人しかいなかったのだね? ワソト君、監視カメラをチェックだ!」
「いや、教室に監視カメラなんてないけど」
どんな監視社会だよと思いつつも、カメラがあったならどれだけ容易に解決できただろうと思った。
「他のクラスの人や、他の学年の子が教室に立ち入ったということはないと思う」
基本的に他クラスへの出入りは教師の許可なしには禁じられている。この
「ルール無視する人ってほんと少ないもんね」
子どもたちは先生に怒られることを恐れて他教室へ出入りすることはしない。だからこそ、今回もやはりこのクラス以外の人間の犯行の可能性は極めて低いといえた。
さて、ここから容疑者たちから話を聞こうというところで、
――キーンコーンカーンコーン。
休み時間の終了を告げるチャイムが教室に響いた。
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