第5話 A
自室、まさかの出来事に胸の鼓動があまりにうるさくなってきた。
加菜ちゃんが扉一枚挟んだところまできてくれるなんて思わなかったから。ううん、信じていなかったわけじゃない。でも、互いに知り合っているからこそ一日様子を見てみようってなると思っていた。
頑張って無理矢理部屋に入ってこれないよう強く言ったおかげで、私がこれを抱きしめていたことがバレずに済んでよかった。
「ねぇ、まっすぐに聞くけど、なにしちゃったの、私」
さっきも言ってたその言葉を聞くだけで端に折り目のついたノートを破りたくなる。
反省はしているんだろうけど、もっともっと粘って欲しい。自分をちゃんと責めて欲しい。私のために考えて欲しい。
これってわがままなの? 誰がとか何がとか、そんなことの解明をしたいわけじゃなくて、加菜ちゃんの頭のなかに私がちゃんといるんだよって確信したいって思うことが。
「悪いことをしたのはわかってる。誰かに聞いたわけじゃないんだよ。いつも一緒なのに何も言わずに帰ってることとか、今日の休み時間のときに暗い顔してたこととか、ちゃんと考えてここに来たの」
……嬉しい。すぐにわがままじゃないんだよって答えてくれる加菜ちゃんがやっぱり大好き。でもまだ許しちゃダメ。
簡単に私のなかに入ってこれるのはずっと一緒だったからだもん。こっちだって緩くなっちゃってたところがあると思う。
「じゃあ、原因も考えられるでしょ」
別に返しの内容を考える必要はないの。
「ぅ、うーん……」
どうして詰まるの? 意図を理解してくれたから? してくれたのに詰まってるの?
ベッドで眠らなきゃいけないとき、時計の針の音に気を取られるようにこの時間が苦痛に感じる。
学校を出る前から膨らみ始めた我慢の風船はもう限界。破れたら自分でも信じられないくらいの言葉を加菜ちゃんに吐き出しちゃいそう。
そんなのは嫌だ。だから、今日は帰ってもらうために言わなきゃ。
「もう、いいよ……。私にはくーちゃんがいるから」
加菜ちゃんがくるまで抱きしめていたクマちゃんのぬいぐるみ。
返事が怖くてまだ温もりの残っているくーちゃんを手繰り寄せて抱きしめた。
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