第4話 B
最寄り駅で降りて慣れた足取りできょーこの家に着いた。
U字に沿って3階建ての一軒家が並ぶところの端と端。幼稚園の頃から通うときはいつも一緒だった。
お義母さんに怒られて目尻を赤くしているきょーこも、運動会のときに体操服と肌に隙間がバッチリあるきょーこも見てきた。
あまりに華奢で強く抱きしめたら壊れてしまいそうだから、そんなきょーこの頭を撫でることしか出来なかった。
「今はそれを考えてる場合じゃないか」
インターホンを押して、もしきょーこがいたら私が来たってバレちゃう。それじゃあ絶対あけてくれない。
お義母さんにメッセージ送ろう。スマホのスリープを解いたらきょーことの私服ツーショット。パスワード1124を打つ。
『きょーこママ、今家にいる?』
すぐに気付いて欲しいから電話もしてすぐに切ろう。
あっ、チェックマークついた。
『いるよー。もしかして加菜のこと?』
『うん』
『やっぱりね。じゃあ、夕食の食材買いにスーパー行くからそこで入れ替わりで入っておいで。多分きょーちゃんが来たって気が付いたら加菜帰らせようとするだろうから』
やっぱり母は偉大だなー。ちゃんと娘のことを理解して何が最善策かわかってくれてるし、私のことも信頼してくれてるしで本当に好き。
きょーこママがきょーこママで良かったなって。
…………あっ、鍵空いた音した。
ゆっくり開いていく隙間からきょーこママが顔を覗かせている。
「今、部屋にいるから」
声を潜めて話す。ここで見つかったら始まってもないのに帰ることになるからね。細心の注意を払わないと。
「わかった、ありがとう」
「じゃあ、行ってくるね。加菜をよろしく」
「任せて。いってらっしゃい」
きょーこママを見送る暇もなく扉を閉める。あくまで自然に音を鳴らして。
部屋から出てこられて顔合わせるよりは扉一枚あったほうがいいかな。もう真っ直ぐ向かおう。
きょーこの部屋は3階の大きい方の部屋。ぬいぐるみをたくさん持っているからその置き場のためにこっちを使ってる。その半分は私と色違いのもの。
階段を上る。ここも音を鳴らしてあくまできょーこママと勘違いさせる。もし悩みがあってのことならわざわざきょーこから扉を開けないはず。
うん、なんともなく着いた。
「ふぅ……」
聞こえない程度に深呼吸して心を落ち着かせよう。
トントントン
「…………ママ、なに?」
一回無視しようとしたけど、やっぱり下手に心配させたくないからって出したみたいなちょっと渇いた声。
もしかしたら、悩みが原因で泣いてしまった後なのかも。
「ママじゃないよ」
ギッ……
ベッドの軋む音。驚いて立ち上がったのかな。
「どうして家にいるの?」
「ほんとちょっとまえに、きょーこママに入れてもらった。きょーこの助けになりたいからって」
「助けになりたいってなに? 私のこと知った気になってるだけじゃないの?」
らしくない強い言葉だ。無理してるのがまるわかりで、そうさせているのが自分ならって思ったら胸が痛い。絶対にここは負けちゃダメ。
「そうかもしれない。今、私が悩ませているのになにが原因なのかわかってないの。それをちゃんと聞いて、きょーこに寄り添いたいから話そ」
「……」
この間が怖い。もし嫌だって言われたら、もう会わないって宣言されたら私が立ち直れなくなってしまうかも。
重たい空気のなかに隙間をつくりたくなくて声を出しそうになるけど、我慢しなきゃ。
「……なかには入ってこないで。そこで話し、しよう」
胸の痛みが強くなる。鍵が掛けられる音でより強く何かが刺さる。
今はたしかに嫌われてしまっている。それほどのことをきょーこにしてしまった。
ちゃんとこれまでより真剣に向き合わなきゃ。きょーこを失いたくなんかない!
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