第2話 ロマンスの結末

 徹底的に努力をしない父と母が「幸せな結婚生活の維持」に努力をするわけがなく、二人の世紀のロマンスは、縁結びを担当した影たちの解任日となったあの結婚式の日から、少しずつ破綻していたのだろう。


 王子と王子妃として逃げていたこともあって、二人で過ごす時間はどんどん少なくなり、それに比例するように二人の間の距離が広がった。

 それに気づいたかどうかは分からないが、例え気づいても努力する人柄ではないので、二人はそれぞれ破綻していく様を眺めていったことだろう。


 ロマンスが破綻しても家族愛くらいは残っていたのだろうか、それもローナの浮気が発覚してしまったので分からず終わったが。


 ***


 王子妃になったことにローナは満足していたという。

 庶民だったときとは比べものにならない、最高級に囲まれた贅沢な暮らしをローナは満喫していたからだ。

 もちろん厳しい妃教育を嫌ってはいたが、それは何とか逃げることができたので、プラスとマイナスでプラスのほうが多かったというわけだ。


 常に新品のドレスが用意され、きれいな宝飾品は使い放題。

 食事だって豪華で「何を食べようか悩む」ことは聖女になる前はあり得なかったと侍女に言ったりしたらしい。


 しかし贅沢も慣れればただの日常になる。

 口煩い教育係や使用人しか周りにいないローナが自分の置かれた状況に不満を感じたとき、自分を特別な存在にしてくれた学生時代を思い出したらしい。


 学院のアイドル、女生徒たちの憧れの眼差しを一身に浴びる男性たちにチヤホヤされた栄光の時代が懐かしくなったローナは、いま住んでいる王子宮ではなく、聖女の自分のための宮が欲しいといった。


 当然だが、突然の思いつきで宮がひとつポンッと建つわけがない。

 当時国王だった祖父はローナの要求を「無理だ」と断り、不貞腐れたローナは自分の取り巻きたちに思い通りにならないことを愚痴った。


 ローナの取り巻きたちは悪知恵だけは働いた。

 醜聞を扱うことが多い新聞社に情報を売り込み、ローナに都合よく書かれた内容に「自分たちを守ってくれる聖女の願いをなぜ叶えないのか」と国民は憤った。


 魔物が出たときは神力をもつ国民も合わせて一丸となって戦うのがこのシュバルツ王国で、他の国に比べて世論の影響はかなり大きい。

 結局、祖父たちはあまり使っていなかった離宮をローナに与えた。


 ローナは歴史ある離宮を自分好みに改装し、取り巻きの者たちを招いて連日のように夜会を開いた。

 これだけだったら皆も頭痛ですんだが、やがてローナは自分が気に入った男性を傍に侍らせるようになった。

 最初は男爵家の長男や伯爵家の三男など貴族だったが、やがて贔屓にしている商人の息子や男娼など「気に入った」で集められてきた男たちの住む、ローナのための後宮ができ上った。


 残念ながら、ローナの後宮はいまも稼働している。

 いまでは王太后となったというのに、相変わらず容姿の整った男性を招き入れては私設後宮に住まわせ、絶え間なく浮気と不貞を楽しんでいるらしい。


 こんな状態でも父がローナと離縁しないのは、王族には離縁できないという穂率があるからである。

 だから父は我慢していた―――そんなわけはない。


 浮気をしたのはローナが先だったそうだが、俺に言わせれば五十歩百歩だ。

 自分を慰めてくれた女性たちの手管にあっさりはまり、父も自分の宮だった王子宮を私設後宮にして大量の愛人を住ませている。


 昼夜関係なく、それぞれの宮で乱痴気騒ぎ。


 世紀のロマンスの結末は、規模の大小はあれど、どこにでもある普通の夫婦の終わりだった。

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