夢心地
「さぁさ……一杯どうぞ……」
「ありがとう……」
贅を尽くした刺身料理と熱燗とお猪口。
それらを俺の為に用意してくれた椿のお姉ちゃんは、隣で酒を注いでくれている。
まるで高級料亭の常連客になった気分だ。
「お酒は強うござりんすか……?」
「うーん……あんまりかな……」
「それじゃあ……控えめにしんしょう……」
「うん……あ、お姉ちゃんも良かったら……」
「ふふっ……いただきんす……」
お姉ちゃんは両手で大切そうにお猪口を持ち上げる。
俺はそれにゆっくりと酒を注ぐ。
「まさかこんな日が来るなんて……夢のようでありんす……」
「俺も同じ気持ちだよ……」
「乾杯しんしょう……」
「うん……」
酒の入ったお猪口で乾杯を交わす。
それを2人で一緒に飲み干す。
「ふぅ……」
「うふっ……美味しゅうござりんすぅ……」
「もしかして……酔ってる……?」
「そんなことありんせぇん……」
頬を微かに赤らめたお姉ちゃんは思い切り体を預けてくる。
着物の合間から見える蒸気した艶のある肌、少し寂し気に下から見つめてくる黒い瞳。
「あ、ごめんっ……」
「んぅ……?」
「これ以上は……俺が保たないから……」
急いで俺は席から立ち上がり、お姉ちゃんから距離を取った。
理性のダムが決壊するのを防ぐ為である。
「構いんせんよ……?」
「ちょっ……」
「わっちの体は……主さんの物でありんす……」
壁際に追い込まれた俺の胸に体を寄せて優しく囁くお姉ちゃん。
俺は汗を流しながら、ただただ体を強張らせることしか出来ない。
「い、いやいやいや……! まだ心の準備が……!」
「黙って脱ぎなんしぃ……!」
「待って待って待って……!」
「げへへぇ……!」
俺のズボンを剥ぎ取ろうとしながら口角を鋭く吊り上がらせるお姉ちゃん。
そんな攻防が30分続いた頃、お姉ちゃんは俺のズボンに手を掛けたまま、地面へ突っ伏してしまった。
「お、お姉ちゃん……?」
「すぅ……すぅ……」
「嘘だろ……」
地面に突っ伏したお姉ちゃんは安らかな寝息を立て始めてしまっている。
酔いによって赤く染まった寝顔はとても安らかだ。
「よっと……」
俺は眠っているお姉ちゃんを担ぎ上げ、寝室へと向かう。
寝室の棚には古びた達磨が置かれていて、子供の頃はそれが怖くて仕方がなかった。
「主さまぁ……」
「布団敷くから下ろすよ……」
「すいやせぇん……」
「お酒弱かったんだ……」
「えへへぇ……」
お姉ちゃんは完璧な人だと思っていた。
でも、実際は酒に弱かったり、笑い方が変わっていたりと、弱点もあることが分かった。
「一緒に寝んすぅ……」
「えっ……?」
「早くぅ……早くしんすぅ……」
お姉ちゃんは布団を片手で叩きながら口を尖らせる。
無理だ。お姉ちゃんと添い寝なんてしてしまったら、きっと破裂してしまう。
「いっ……いや……俺は居間で寝るよ……!」
「むうぅ……」
頬を膨らませるお姉ちゃんに背を向けて襖に手を掛ける。
「主さぁん……」
「えっ……!?」
襖を開けようとした瞬間、とてつもない力で俺は布団の中へと引き摺り込まれた。
「うふふぅ……捕まえんしたぁ……」
「ちょ……ちょっと……!」
「可愛いでありんす……初々しくてぇ……」
優しく微笑みながら俺の頭を撫でてくるお姉ちゃん。
大胆に空いた胸元と布団の下で絡んでくるお姉ちゃんの手足に俺はもう限界だった。
「何見てるんでありんすかぁ……?」
「い、いや……! 何も……!?」
「ふふっ……ほれほれぇ……!」
「うぷっ……!?」
顔を覆う柔らかさとハリと温もりを兼ね備えた双丘。
微かに聞こえる鼓動の音。
「明日はもっと楽しいことしんしょうねぇ……」
その言葉を最後に俺は意識を手放した。
今日は夢のような1日だった。
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