第3話 名のない森
「クヨクヨしてても仕方無いです、全身白くなるほどの【ふしぎぱわー】があるならきっと治す方法もあるはずです!」
少女は意気揚々と拳を掲げる
「その心意気は評価するが、どうするんだ?“ナル”」
「いいえ全く!“シイナ”さんは何か策や案は有りますか?」
現状の整理をした上でお互いに『呼ぶ名前も無いんじゃ困る』となり、仮の名前を付けた。…別にナルは偽名じゃ無くても良かったのでは?
「案どころかこの森の出方すら分からんからな、まずは森の外へ、その後は情報を集めるためになるべく人の多い街へ、このくらいだろ」
ナルも大きく頷き、白く長い髪を揺らす
「そもそもどちらに行けば人の居る方へ出るのかすら…」
途端に話すのを止め、耳を澄ませるナル。
「いま、人の声が聞こえました!あっちです!」
ナルを抱き抱え、指さす方向へ走る。
「……ぱい、先輩!そこで寝転がって無いでなんとかしてくださいよ!」
若い男の声が聞こえて来る。
茂みをかき分け、陽射しに目を眩ませながらも進む。
すると、ナルが
「犬…?の鳴き声…3匹居ます!」
森を抜け、声の主を見る。
鉄の鎧を着た兵士が2人、そのうち1人は倒れている。おそらくアレが先程聞こえてきた【先輩】だろう。そして、声を荒げる若い兵士と対峙しているのは、粗く削っただけの木剣を振り回し、二足歩行する犬【コボルト】であった。
兵士の元へ駆け寄る。
「ナル、そこに兵士が倒れてる。手当を頼む」
必要ありません、とナル。
「呼吸も正常、気絶どころか、多分軽傷もありません」
若い兵士に声をかける。
「無事か、助太刀する」
兵士の詰所に立てかけてある鉄製の剣を手に取り、コボルトへ
互いに牽制し、緊張感が空気を、肌をピリつかせる。
すると、先程まで倒れていた【先輩兵士】が軽快に起き上がり、我が物顔で声を上げる。
「よし!これで形勢逆転だっ!」
拳を握りジャブを始める。
多勢に無勢と認め、リーダー格だろう、毛並みの黒いコボルトがひと鳴き、丘向こうの山へ逃げて行った。
若い兵士が敬礼をしながら礼を言う。
「あなた達が居なければきっと怪我をしてました、ありがとうございます、まぁ、先輩が真面目にしてくれたらすぐ追い払えたんですけどね」
兜越しでも分かるほどの気迫で先輩兵士を睨みつける。
ナルの後ろへ隠れつつ先輩兵士は答える
「そう怒るなよ、それにしても本当に助かったぜ、ありがとな!可愛い嬢ちゃん」
苦労の多そうな後輩兵士がため息をつく
「コボルトが人を、ましてや武装している兵士を襲うことなんて滅多にないんですがね…」
言いながらナルの肩に置かれた兵士の手を払い、間に入る若い兵士。
ナルを呼び、手を繋ぐと
「ところでお2人、もしかして【名のない森】から出てきました?」
思わず、聞いた言葉をそのまま聞き返す。
「名のない森?」
やや不貞腐れ気味に先輩兵士が答える。
「あぁ、そこの森はな、何度名前をつけてもなぜだか皆から忘れられちまう、だから【名の無い森】」
ニヤリと笑いながらナルの方を見つめる。
「なんでも、魔女の呪いのせいだとかー!」
ウケが悪かったからか不安そうに狼狽える兵士…無視しておこう。
「魔女の呪い…ですか?」
ようやくナルに反応して貰えて嬉しそうに答える、なんだコイツ。
「ま、明るくはないんだがな!!!」
本当になんだコイツ。
「詳しく知りたいなら、ここから東にある丘の先、町の“物知りばぁさん”に聞くといい、何か知ってるかもしれない」
後輩兵士へ目配せをすると、後輩兵士は詰所へ入っていった。
そう時間もかからず戻ってきたその手には手紙と小さな麻袋が握られていた
「こちらはお礼です」
断ろうとするも押し切られてしまう。
「それと、こちらにはあなた達の事を紹介する旨を書いてます、門兵に見せてください」
「何から何まですまない」
「いえいえ、他に何か出来ることはありますか?」
さすがに悪いと断ろうとするのをナルの腹の虫が『ぐぅ』と遮る。
「軽いものですがお出ししますね」
言葉に甘えることにした。
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食事中、経緯を話された先輩兵士
「なるほど、そんな事が……大変だったな」
(良かった、受けてなかったんじゃなくて気づいてなかったのか)
「なら、さっきのモンスター【コボルト】の習性も知らないわけだ」
「【コボルト】は雑食で少数の群れを作る、機敏だが力は弱い、それを知ってか【自身の群れより少数】の相手としか取り合わない」
後輩兵士が口を挟む
「武装の有無もありますね、頭の良い動物ですよ」
そこにナルが
「なるほど、だからあの時逃げ去ったんですね、先輩さんが凄いのかと思ってました」
……止してやれ、ナル。
先輩兵士の項垂れた首がもう上がってこないぞ。
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どうも、家戸あずです
記憶
光
そして今回 名のない森
登場人物未だに4人(➕コボルト3匹)
という少数精鋭ですが
誰一人として名前がちゃんと分かってませんね
決して、ね、考えてないなんてそんなわけ……
次回【色の町】
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