第2話 色

 あれからどれくらいの時間歩いているのだろうか、実際は大したことはないのかもしれないが、日頃の運動不足が祟ったか、変わらない風景のせいか、既に方向感覚なんてものは無かった。

(いや、そもそもどこも目指していないのに方向なんてあったものじゃないな。

…頭の中のナレーションにツッコミを入れる余裕はある、ならまだ大丈夫だろう、しかし…喉が渇いた、水が欲しい)

そんなことを考えながら手頃な木に寄りかかる。


 すると、近くからちゃぷちゃぷと水の音が聞こえてきた。水音のする方に駆け寄り茂みをかき分け進むと、そこには小さなボロ小屋と泉、そして岩に腰掛ける少女が一人、その水面を素足で蹴っていた。

「……だれ?」

少女がこちらを向き、消え入りそうなか細い声をあげる。敵対の意思はないことを伝えるべく、両手を上げながらゆっくりと歩み寄る。

「すまない、ここは君の敷地だったか?もしよければ、少し水をもらいたいんだが」

 少しずつ近づくが、何か違和感を感じる。こちらを向いてはいるが、視線を感じない。


 小柄で白髪はくはつ、頭の先からつま先まで、まるで色が全て抜け落ちたかのような白い少女は応える。

「ご自由にどうぞ、というかここ、別に私の敷地とかではないです、先程から人の気配もしないので、大丈夫だと思いますよ」

 泉の水を手に掬い、喉を潤す。

少女へ礼を言うと

「いえいえ、全く何もしてませんから」

 少女は不安そうな顔をしながら尋ねる

「ところでここ…どこなんですか?さっきまで私公園のベンチに座っていたはずです、それに…」少女は自分の手に顔を向ける

「真っ暗すぎてなにも見えないですよね、おじさんは何か知っていますか?」


 木漏れ日で辺りは明るい、なんだったら幻想的なくらいだ。やはりこの少女は…

「とりあえず自己紹介だ、と言っても俺は何も思い出せない、記憶喪失ってやつだな」

自嘲気味に笑い、言葉を続ける

「思い出せる事は日本に居たこと、それと」

「え?ここ日本じゃないんですか!?」

少女が声を上げる。

しかし、確かにそうだ、ここが【日本じゃない】という確信は無いはず、それなのに

「確かに言うとおりだ、だが俺はなぜか『ここが日本じゃない』と自信を持って言える、なんでかは知らん」

自分でも驚くほど冷静に言ってのけた。

「それとあんた、そんな見た目だが日本人なのか」

「そんな格好? え?変な格好してますか?あれ?というか見えるんですか?」

少女は自らの姿を見ようとキョロキョロと見回す。

「多分だがあんた、色を失ってるぞ」

そう、光でも視力でもなく【色】見開いた目や話す口から覗く舌さえも、まるで白黒写真が動いているかのように色が無かった。

「どういう原理かは分からんが、俺は記憶、あんたは色を失って、この世界にきたみたいだな」


 困惑顔のまま固まった少女に提案をする

「嫌じゃなければ、俺があんたをおぶってやる、そこに小屋があるから、座って話さないか?」

 少女は依然、口を開け放心したまま頷いた。



━━━━━━━━━━━━━━━

出会う直前、少女の独り言

「うぅん……あれ?私寝てた!?外で!?うわぁ……真っ暗だし…街灯全部消えてる……?というか電気も、停電?」


「というか、ベンチの座り心地じゃないよね、これ、なんだろ…岩?なんで?」


「あ、でも風は涼しくてちょうどいいかも、まるで森にいるみたい、さわさわ言ってる葉っぱもいいけど…………暗い。怖い。 まだ停電終わんない…?」


「うわっ、つま先なんか当たった!?水!?…………夜だけどちょっと暑い気もするし、ちょっと涼もうかなぁ……」


「〜🎶 プール以外で水遊びなんていつぶりだろ、そだ!今度海にでも行こ〜っと🎶」

ガサガサ


▲ ▽ ▲ ▽▲ ▽ ▲ ▽

どうも、家戸あずです

1話[記憶]とは打って変わって長めではございますが、今後このくらいの量かと思います、知らんけど。

2話目でまだ名前はおろか主人公に至っては容姿すら分かってませんね。

少女いわく「おじさん」

おじさんいわく「おじさん言うな」

だそうです

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