第2話
雑面で顔を隠し、神官のような格好をした短髪の男は扇を僕の首に突きつけたまま顔を近づけた。
まるで僕のことを雑面越しに品定めをしているようだった。
に、人間か?雰囲気がなんか…
何故かその時に相手が普通の人間でないことを僕は本能的に感じた。
物々しい空気が流れている。
「…お前何処から入って来た。」
2人の間に流れていた沈黙を破ったのは僕ではなかった。
何処から入ってきたかと聞かれても山で遭難した挙句、崖から落ちてここがどこか分からない僕にはそれに対する答えなんて持ち合わせていない。
なんて答えればいいんだよ…。
素直に答えればいいのか?
「や、山で遭難して…」
スラスラと言葉が出ず、吃るように答えた。
男は僕がそう答えた後、再び男は僕を品定めするようにしていた。
僕が紙越しでも見えているのか?
この人は一体なんなんだ…。
謎めいたこの空間では1秒ですら長い時間に感じた。
男は首に突きつけていた扇を下ろし顔を近づけることをやめると、持っている扇をピシャンと閉じた。
表情が全く見えないから何を考えているのか分からない。
僕の身体からは冷や汗が止まらなかった。
すると男は突然身体を僕から逸らして何も居ないはずのところに声をかけた。
「兎季、ちゃんと匣を据えたんだろうな」
男が向けている方を見ると髪を後ろで結っている同じような格好をした髪を女が腕を組んで木に気だるそうにもたれかかっている。
「当たり前でしょ。」
全く気づかなかった。
いつからそこに居たんだ…?
喋り出すまで気配すらも感じなかった。
この2人は何者なんだ…。
「その人間は山で遭難したとか言ってるけどそんなの関係なく人間は匣には入って来れないはずよ。匣に近づいたら無意識のうちにそこを避けて引き返すようになっているもの。」
女は男の方に向けていた身体をこちらに向けて淡々とそう言った。
匣(ごう)?なんなんだそれ…、聞いたことすらない。
「ぼ、僕は何も知らないし、匣っていうやつとか見ても無いし、触ってもない!」
それがどういうものか検討すらつかないのに、そんなこと言われたって僕には答えることがない。
大体、山で遭難してなんでこんなに責められているんだよ…。
だが、そんなことを考えても今僕の現状が良くなるわけではないのだ。
女は僕に話を続ける。
「見えるはずないじゃない。匣はただの人間には見え…」
「兎季、余計なことは言うな。」
男が女の言葉を遮った。
すると、女は今までもたれかかっていた木から離れてをゆっくり男に近づき男を指差した。
「貴方が私に話振ったんじゃなかったかしら?」
今までの淡々とした口調から変わってイライラしているのか少し荒い口調で女がそう言うと男は特に気にする様子もなく女に一歩近づいた。
「話は振ったが、そんなことまで言えと…」
何やら2人は言い争っている。
僕は蚊帳の外で2人の話している内容なんて半分も理解できてはいないし、今起きている現状をどうにか解決しようと頭をフル回転させても、僕に出来ることは何も無い。
「どうせ記憶は消すんだから言っても言わなくても一緒でしょ。その後に鈴鹿様に報告をすれば…」
え?記憶を消す?どう言うことだ?
その時、バキバキッと木が折れる音やゴロゴロと岩同士がぶつかり合う音が崖の上の方から聞こえた。
「まずい、始まった。」
男は少し慌てた様子でそう言うと、崖にある少し出っ張っている岩を足場に使ってぴょんぴょんと軽快に崖を上がっていく。
「ちょっと!この人間どうするの!?」
女は僕と既に崖を登っている男を交互に見て、自分がどうすればいいのか悩んでいる様子だった。
そんな女をよそに男はいつの間にか崖の上に着いてこちらを顔を向けた。
「そいつは後だ!まずは平定する!」
そう言うとすぐに音の鳴っていた山の上の方に向けて走り出した。
「放置できる訳ないでしょ!?」
そんな女の声に耳を貸すことも無く男は振り返らず、山の中を進んで行った。
女は大きくため息をつくと、突然僕の服の首元の襟を掴んだ。
「…え?」
「一応貴方もついて来て」
女がそう言った瞬間、何処から出てきたか分からない大きな剣が女の手元に急に現れると、女は剣を離し素早くその刀身に足を乗せた。
途端に剣は宙に浮いて必然と女に掴まれている僕の身体も宙に浮きそのまま崖より上の高さで宙ぶらりんになると、山の斜面に沿うように剣は宙に浮いたまま山の上の方にかなりの速さで進んで行く。
「ちょ、、ま、まっ、てえぇーーー!!??」
僕は多分ここ最近で1番情けない格好を晒していたと思う
…………
兎季(とき)
玄(げん)
誘掖のハル 原谷凪 @kyonara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。誘掖のハルの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます