最終話 地味男子、にちじょうを楽しむ
「「「これより、
回転ノコギリがギュイイイイイイインと不気味に回転しはじめた。
なんでえええええええええええええ⁉⁉⁉
道を歩いていたら急に眠気が襲ってきて、次目覚めたらコレて。
こ、心当たりなんて……。
ごめん、あります、わかります。
このところ忙しくて三人のことを考える余裕がなかった。
三人とほぼほぼ結婚を前提にした関係になったのに、特にリアクションがなかったからさ。なあなあで済ませてくれたのかなあー、と勝手に思っていました……。
「みんな、どーしたんだい? そんな恰好をして?
鉄の鎖でグルグル巻きなんて、ふふっ、冗談じゃないのはわかるよ。
だからこそ、ボクたちはきちんと話し合おう」
すべての体液をぶちまけたくなるほど怖くても、正気は保たなければいけない。
このままではマオウがバラバラになってしまう。即死だ!
ってかダレでも即死だ‼‼‼
そう切に訴えかけたのだが、三人は粛々と告げてきた。
「「「
「問答無用なんですか⁉⁉⁉」
鉄の鎖で吊るされていたボクに、クスノさんが歩みよる。
駆動した回転ノコギリが迫ってくる。
ボクの汗がポタポタと地面に落ちていった。
「汝、複数人と結婚前提のお付き合いをしているとはまことか?」
圧が……仮面の裏から伝わってくる……。
考えろ、考えろ、考えるしかないんだ‼
アルマの指輪は
知っているのはミコトちゃんとの関係性のみだろう。
それも、おそらく仄めかされた程度。
他はよく知らないはず。
クスノさんにはまっすぐ語りかけよう。
「嘘じゃない。結果的にそんな感じになってしまったけれど、彼女たちといい加減に付き合うつもりはないよ」
「汝に裁きの刃がおとずれる」
回転ノコギリがさらに勢いよく回りはじめた。
ぐおおおおお⁉⁉⁉
無茶があったか⁉⁉⁉
だけど下手に嘘を吐けばそれこそどうなるかわからないし!
ボクが芋虫みたいにガチャガチャと蠢ていると、ミコトちゃんがクスノさんと入れ替わるようにやってくる。
ミコトちゃんなら話がつうじる……!
「汝、トゴサカのえらーい人にお願いして、小学生との婚姻は取り下げさせたのはまことか?」
小声で告げてきた少女の声は、おそろしく冷え冷えしていた。
…………そこかあ。
……気づかれていたかあ。
ボクは顔をひきつらせながら至極まっとうに答える。
「やっぱりさ……責任能力も判断能力も乏しい年齢まで、結婚年齢を引き下げるわけにはいかないって」
「少女はそれらが欠けていると言いたいのか?」
「ミコトちゃんはめちゃくちゃしっかりしているよ……。しっかりしすぎているよ……。
ただ他の子がそうじゃないってわけで……」
「信頼できる第三者をあいだに置けばよいではないか」
具体的な対策すぎて怖い……。
「じ、自由恋愛は人類にはまだ早すぎるって……ね?」
「汝に裁きの刃がおとずれる」
回転ノコギリがさらに勢いよく回りはじめた。
ぬおおおおお⁉⁉⁉
だが間違ったことは言ってないはず‼
ミコトちゃんに入れかわって、今度はアルマがやってくる。
ワンチャンアルマ‼ まだアルマがいる‼
「汝、麻酔は必要か?」
「言い訳させてくれません⁉⁉⁉」
三人娘は集まって、回転ノコギリをボクに向かってチラつかせてきた。
ボクへの想いをノコギリに乗せて、ギュイイイイイイインと回す、回す、回す。
恐怖で卒倒しかけるが……ここで倒れるわけにはいかない……‼‼
「ま、待って‼‼‼ 待って!
ボク、このままじゃあ死んじゃうよ⁉ みんなと会えなくなっちゃうよ⁉⁉⁉」
闇深い子は、一緒に深淵まで堕ちるのを願うはず!
そこに隙があるはずだ!
「みそら君は勘違いしているわ」
「か、かんちがい?」
クスノさんの代わりに、アルマが答える。
「みそらさまをバラバラにして殺すなんて物騒な真似はしません。
お母さ……甘城博士の実験を応用して、みそらさまの各部位をそれぞれでわけあって、因子をゴーレムに移植。
それから疑似的な次元同位体を作って、みそらさまを標準世界で
今アルマ、お母さんって言いかけた。
少しずつ話すようになったと言ったし、家族関係が改善されたんだ。
よかった……本当によかった……。
いやボクは全然よくないよ⁉⁉⁉
「みそら君、あなたは増えるのよ」
「クスノさん⁉ それ増えるって言わないよ⁉」
「いいえ、あなたは増えるの。倍々のみそら君なの」
「それテセウスの船的なやつにならない⁉⁉⁉
ってーか成功率はいくつだよ‼‼」
ボクが必死で叫んでも、回転ノコギリの勢いは止まらない。
ぐっ……だ、だけど、このシチュエーションは考えたことがあるんだ……!
もしボクと同じような窮地におちいった人は、ぜひ試して欲しい。
「と、と、頭部は誰のものになるわけ?」
三人は、ノコギリの回転を止めた。
身を寄せあうように集まって、ゴニョゴニョと相談しはじめている。
っしゃあああああああ!
時間稼ぎにはなったあああああ!
すぅーーーーーーはぁーーーーーーーー。
よし思考はクリアに。
ボクが簡易
それにボクが特異点化しているからか、近しい人の次元変数に影響がでるみたいなんだよな……。
666をつかえば、おそらく三人とも強くなる。
ミコトちゃんの魔糸は特に厄介だ。
ならば次元同位体として重なってみる……か?
身体能力があがれば脱出もできる。
彼女たちも時間が経てば落ち着いてくれるかもしれないし。
よし……だったら、もう一人の自分を深くイメージ……ここではないどこかを想像しろ……。
魔王として駆け抜けた記憶を探るように……。
『……うむ? 誰だ?』
ガイデルにつながったあああああああ⁉⁉⁉
やればいけたああああああ‼‼‼
『お、お前、デルタ⁉⁉⁉ ど、どうやって次元の狭間に⁉⁉⁉』
え……?
デルタ?????
『あ、愛の力? いや愛の力でどうにかなるものでは……。
そ、そうだな! 愛の力だな! 信じておったぞ!
え……信じていたのならどうして置いて行った……。お、お前の幸せを思ってだな……』
あ……それ、怒られるやつ……。
『う、うむ! すまん! まったくもってそのとおりだ!
お前の言うとおりだ! だからな! 落ち着こう!』
……。
『あ、愛しているとも、愛しているぞ!
この世界でお前以上に愛しているものなどおらんぞ……!
じゃあなんで置いて行った……? それはまあそのとおりで……はい……。
お、落ちつこ! ね! 僕も寂しかったよ⁉ だから落ちつこうよ、デルタ!』
素がでちゃうほどに追いつめられてる……。
『ぬわああああああああああああああ!』
……あっちも立てこんでいるみたいだ。
魔王とデルタは再会できたんだね……よかったよかった……。
ボクはどこか悟りめいた表情で三人娘に視線をやる。
結論がでたみたいだ。
「みそらさま……ホールケーキは仲良く三分割するべきかと」
「そっかぁ……そうなるよねぇ……」
ボクはこのまま、3匹のみそら君。
もしくは7人のみそら君になってしまうだろう。
闇深い混沌女子と付き合うとは、こういうことだ。
……それもこれも彼女たちの想いが深すぎるゆえに。
………想いが重すぎて倫理が崩壊しているのならば、逆に利用できないか?
そこ突けばよくない???
し、しかしこの生きのこる筋は……だ、だけどもうこれしかない気がする……。
三人娘が回転ノコギリで迫ってくる。
もう言うっきゃない‼‼‼
「ト、トゴサカのえらい人に、一夫多妻制を検討するように訴えるよ……‼‼‼」
三人娘がぴたりと止まる。
また集まって、ゴニョゴニョと相談はじめていた。
最低な申し出だとも思う!
だけど、だけどボクはまだ生きたいんだ……!
それに彼女たちも強引な手段にでるよりは、法的に認められて祝福されたいはず!
あとは当人たちの問題だが、三人の仲は悪くない……!
これまで培ってきた仲間たちの絆を信じろ!
仲間のキズナを信じるんだ……!
アルマがすっと手をあげる。
「汝、保留といたす」
そう言って、三人娘はそそくさと去って行った。
た、たすかったあああああああああああああ‼‼‼
保留だけど、たすかったああああああああああああ!
絶体絶命の危機からの生還で気がゆるんで気絶しかけたが、ローブと仮面を脱いだ三人娘がバタバタと再びやってくる。
え? な、なになに?
「みそらさま! こんなところにいたのですね!」
「みそら君! 怪しい人たちに捕まったって聞いていたから、ずっと探していたのよ!」
「みそらおにーさん、今おろしてあげるねー」
ああ……そうゆう設定……。
この寸劇いるのかな……。
鉄の鎖がほどかれて、ボクは地上に降ろされる。
ゲッソリとしていたボクを、三人娘は甲斐甲斐しく介抱してきた。
「みそら君……こんなにも身体が冷えて、よっぽど怖い思いをしたのね……。
家で身体が温まる料理をちょうど作っていたの! みんなで食べましょう……!」
「そうなんだ……。それは楽しみだな……」
クスノさん……なんかこうなることがわかっていたみたいだな……。
「みそらおにーさん、大変だったねー。
ミコトがいーっぱい慰めてあげるよー? ……自由恋愛もよろしくね?」
「うん……なんとかがんばってみるよ……」
ミコトちゃんにうまく誘導されたのかもしれない……。
「みそらさま、みそらさま、みそらさま」
「うん……そーだね、悪かったよ……」
アルマは左手の薬指でつんつんとボクを突いてきた。
そうだよね、婚姻仄めかせてちょっと放置気味だったものね……悪かったよ……。
どうしようもなく闇深くて、寂しそうで、騒がしい三人娘。
色々あったけれどボクはこれからもこの三人に関わるつもりだし、こんな三人だからこそボクは……ボクは……。
…………。
うん……うまく、言葉がでてこないや……。
※※※
真夜中のトゴサカ。
魔王姿のボクは、高層ビルのてっぺんからトゴサカの夜景を眺めている。
次元同位体がどうやら騒ぎを起こしているらしくて、アルマ、クスノさん、仮面少女MOちゃんたちとあのあと集まっていた。
今度こそ本当だ。
テイク2だ。
ボクはクスノさんには聞こえないよう小声で唱える。
「――
夜空がさらに黒くなる。
簡易トゥ。範囲はかなりしぼったし、セーフティ値も高めに設定したからこれで大丈夫なはず。
隣のアルマはすでに配信をはじめていた。
『こんばんやみー』
『今日は標準世界なんだー』
『魔王さま……混沌の導かれるままに……』
『魔王さまの深淵で世界が満たされておりますぞおおおお!』
今日もなかなかに濃ゆいコメントばかり。
そんなリスナーたちの反応もすっかり慣れて、今じゃあ親しむようになったけどね。
「うむ、我が混沌を魅せてやろうぞ!」
と返しておきながら、アルマにたずねた。
「して、今日の相手は?」
「ポータル使いの次元同位体でございます。トラベラーとはまた違うようですね」
「ふむ?」
「近似値世界から物体を引き寄せることができるようで、なかなか強敵かと」
「騒ぎを起こしている理由は?」
「なんでも『この世界はホッカイドウが南にある。なんでまだ平成がつづいているのか。今はレイワじゃないのか』と叫んでいるようでして……。
記憶の混同が起きて、恐慌状態になったようでございます」
???
ホッカイドウってなんだろう。
名前的に
平成が終わった世界みたいだけれど……。
「わたしたちの世界に極めて似た世界のようですね。
ただ、ダンジョン化現象のない世界のようです」
「なるほど、異世界で迷子になったようなものだな」
そりゃあ怖いだろうな。
どーにか落ち着いてもらうためにも、こっちからいっぱい話しかけるしかないか。
ボクがそう覚悟を決めていると、アルマが静かに告げてくる。
「お気をつけください、ポータルに吸いこまれたらどこに飛び出るかわかりません」
「我らがその世界に迷いこんだりもするのか?」
「……もしそうなれば、いかがなされましょう?」
アルマはどこか期待するかのようにうすく微笑んでいた。
なにを笑っているんだと聞こうとしたが。
「魔王さま、笑っておられますよ」
……ボクも笑っていたらしい。
けっきょくのところ、ボクが一番彼女たちから離れられなさそうだ。
「
冷たい風を顔にうけながら、全身の熱を吐きだすように闇の炎を空に放つ。
闇の炎が、バチバチッと夜空に散っていった。
魔王がここにいるとわかったからか騒動が近づいてくる。
クスノさんが「なにをボンヤリしているの!」と怒っている。
ミコトちゃんは「いーぱい遊んであげよーね」と楽しそうだ。
アルマは隣であいかわらず静かにたたずみ、ボクを待っていた。
「魔王さま、出番でございます」
「さあ、
なんだかとっても魔王らしい言葉が自然と出てくる。
――だけど、それはまぎれもなくボクの言葉だった。
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