第70話 終・配下集合!
魔王事変から幾日がすぎた。
澄みわたる青空がどこまでも広がっている。
午前授業を終えたボクは、トゴサカ南部の【ダンジョン管理局六六六特務課】を訪れていた。
と、名前だけは立派だが、ボロボロの雑居ビルだ。
ダンキョーの監視施設だったらしく、電気や水道が一応とおっているが今はほとんど物置と化していた。
ボクは三階まであがって、特務課の扉をあける。
物が積みかさなったホコリ臭い部屋に、メカクレの女の子が立っていた。
「お待ちしていました、鴎外みそらさま……」
ひいいいい⁉⁉⁉
目覚めし10人の子だ⁉⁉⁉
「い、い、いつから⁉⁉⁉」
「一時間前ほどから? そ、それで、だ、誰をぶっ殺せばよいので……?」
瞳が見えなくてもハイライトが消えているのがわかる……。
「き、君のところとは協力関係になっただけで、ボクの部下になったわけじゃないよ……。
い、今は特に仕事がないし……帰ってくれるかな」
「……かしこまりました、鴎外みそらさま」
メカクレの女の子は頭を下げると、足をひきずるように去った。
なんのつもりかわからんが、だから闇専じゃないんだって!
物を片付けただけの応接間で、ボクはソファにどすりと座る。
それからちょっとため息を吐いた。
「……名前だけはホント立派だけどな」
ただの物置な六六六特務課をぐるりと見渡した。
冷遇しているわけじゃなく、ボクの扱いに困っている感じだなあ。
「まあ、騒ぎを起こした張本人なわけだし」
魔王みそらは、ダンキョー特務課で働くことになった。
トゴサカの管理下に入ったんじゃなくて、トゴサカ側と
ボクはボクのやらかしたことで起きる現象にとことん付き合う。
トゴサカ側も魔王事変から起こるであろう事象の対処。
あと、すうひゃくおくえんの機械が壊れたこと……とか。
すうひゃくおくえんの機械に関しては、向こうも『あれは事故だ』と言ってくれたけど、それはそれとして研究者たちに穴があきそうなほど凝視されてね……。
あと、他国との外交もろもろ面倒なことを色んな人にお任せすることになったわけで、国のとってもえらい人たちから『その分アレだぞ。がんばれよ』と笑顔で言われましてね……。
怖かった…………本当に怖った……。
ボクはただの男子高校生だよ…………。
びっくりするぐらい広い会議室で、海千山千の大人たちに囲まれたボクの心情を察して欲しい……。
がんばりますけども。
「でも、なにができるのかわからないんだよなー」
こうして新設部署を与えられたが、どんな権限があるのかサッパリわからない。
ひとまず自分のやるべことは掃除か。
ボクが気合を入れようとすると、特務課の扉がひらいた。
「やっほー、鷗外君。元気してたー」
「赤沢先輩!」
スーツ姿の赤沢先輩がやってきた。
やっぱ似合っているなあ、スーツ姿。
そっちが本職なんだけどさ。
「おくつろぎ中のところ悪いねー。
必要書類を持ってきたからたしかめてー」
赤沢先輩は正面ソファに座り、鞄から書類を取りだした。
「……なんです、これ?」
「君に与えられる権限」
「…………専門用語が多くて、ぜんぜんわからないんですけども」
「わからないことは教えるけれど、しっかり覚えておかなきゃダメだよー?
だいじょーぶ。コンビニの仕事を覚えるより簡単だって」
赤沢先輩はそう言って、いつかのコンビニの先輩らしくニコニコ笑った。
まあアルマと一緒に覚えればいいか。
こーゆーの強そうだし。
「ボクはけっきょくどんなものを?」
「次元変数が著しく乱れた場合の特殊措置、ってーのが任されるね。
鴎外君の言葉を使うなら『とことん付き合うための措置』かな?」
権限の範囲がかなーり広そう。
次元同位体以外のこともアリってことかな。
こりゃあ相当面倒ごとがやってきそうだ。
「現象によっては鴎外君のほうが権限が強くなるから、ダンキョーの人間をコキ使えるよ。
特殊部隊は……場合によりけりかな。あそこは所属がちがうからねー」
ボクのほうが権限強くなるんだ。
どーりで……子供になった頭領がこの雑居ビルを紹介してきたとき、なにか言いたそうにボクをずっと見ていたわけだよ……。
ううっ……胃が……。
なんで頭領、大人に戻らないんだろね……。
「そーゆーことで、わたしの上司でもあるわけだねー。
がんばってね、魔王さま」
赤沢先輩は実にお気楽そうに笑った。
ここまで展開を読んだわけじゃないだろうけど、一応たずねておく。
「……赤沢先輩が望んだ結果になりました?」
「んー……あたしは組織間の風通しが良くなることを一番望んでいたしね。
とにかく研究所の発言力が強すぎるのと、トゴサカ上層部の隠蔽体質がかみ合っていたからねー。
いつかどこかで大きな破綻がきそーだったから……」
「それはなくなった、と」
「まあ上層部の何人かは責任問題に発展するねー」
「それで、仕事量も少なくなって万々歳ですか?」
「そうそう! 監視業務がめっちゃ減ったのよ!
まー、これから未知に対応していくことになるし大変だけど、ずっとずっと楽なのー! 土日のお酒が美味しいのよねー!」
赤沢先輩はたいへん素直に話してくれた。
まあ、それだけじゃないのだろうけど。
「赤沢先輩、律儀ですよね。
ココアのお礼、ありがたく受けとりました」
「……そんなところはホント魔王さまだよね」
赤沢先輩は微笑んだ。
どんなところだろと考えていたボクに、今度は先輩がたずねてくる。
「鷗外君の望んだ結果になった?」
「むしろこれからって感じですが、まあ、はい」
「もっと大々的にやることもできたんだよ?」
「次元同位体のことです? ボクはこんな力があるとみんなに教えたかっただけで、『だからお前はこんな存在なんだー』って言う気はありませんよ」
自分の設定を信じたい人もいるだろうし、それが救いになるのならそれでいい。
フェアじゃないと思ったからボクは力を使った。
ただ知る範囲でも、ボクのような次元同位体の人たちが晴れ晴れした表情でいたので、やったことは無駄じゃないはず。
「鴎外君は研究所をどう思っているの?」
「どう、ですか? そうですね、甘城博士を見ていたら……ああいった人たちの集まりなんだなあとは思いました」
クソツヨティラノゴーレムは、さすがにめちゃくちゃ怒られたみたいだが。
なのでゴーレムは修理もせずにそのまま廃棄コース。
ただ、さすがは甘城博士ということにもなったらしい。
その博士は大好きな恐竜が魔王に負けて、一週間ぐらい研究室で泣いていたらしい。さらにはアルマが追い打ちとばかりに勝利宣言を何度もしたらしく、完全に立ち直るのはまだまだ先とのことだ。
真の魔王として復活しなければいいけどね……。
「ほんと研究熱心な人ばかりだよねー。
鴎外君はそのあたり理解があるか」
赤沢先輩は苦笑しながら次の書類を取りだそうとしていた。
父さんのことを言ったみたいだな。
「あ、そうそう鴎外君」
「なんです?」
「甘城博士、曰くなんだけどね。
この世界はわたしたちが思っているよりずっと強固なんだって。
あれだけ派手に力を使っても、けっきょく次元変数に大きな乱れはなかった……。だから次元同位体以外で、標準世界で力が使える人間はそうあらわれそうにないって。
……君が必要以上に責任を負う必要はないよ?」
最後は、赤沢先輩の言葉かな。
「責任とかじゃなくて……」
ボクが
サキュバス化した母さんも元に戻った。
ユニークスキルが強化されたことによりサキュバスの力が顕現しただけで、標準世界でなにかしらの影響を及ぼすってことはなさそうだ。
今日だってブルマ体操服姿で楽しそうに料理していた。
『ねー、みそら君ー。
すっごくえっちなおかーさんも別次元に存在するのかなー』
とか言ってたし。
……大丈夫だよな。
…………大丈夫のはず。
まあボクが言いたいことはだ。
「ボクがとことん付き合いたいだけです」
そう答えると、赤沢先輩はひれ伏してきた。
「さすが魔王さまです」
「やめてください」
※※※
真夜中のトゴサカ。
アルマが見繕った魔王衣装を着たボクは、高層ビルのてっぺんからトゴサカの夜景を眺めていた。
今宵、次元同位体が騒ぎを起こすらしく、アルマ、クスノさん、
そう、ボクは尊大で傲慢な魔王さま。
すべての混沌はボクが呑みこみ、愛してみせよう。
さあ、共に駆けようぞ! 配下たち!
そんな感じでかっこよくいきたかったなーと――ボクは
「なんで……こんなことに……」
どこぞの廃工場。
割れた窓から月の光が差しこんでいる。
ボクは鉄の鎖でぐるぐる巻きにされて、天井から宙吊りになっていた。
目の前には、ローブ姿の仮面女子が三人。
仮面女子たちは回転ノコギリを手にし、ボクに向かって宣告する。
「「「これより、
回転ノコギリがギュイイイイイイインと不気味に回転しはじめた。
なんでええええええええええええええええええ⁉⁉⁉
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