第40話 地味男子、女忍者とたたかう
「魔王ガイデルとお見受けいたす。その命、もらいうける!」
なんでぇ???
ニンジャなんで⁉⁉⁉⁉⁉⁉
なんで家にニンジャがあがりこんでボクの命を狙うわけ⁉⁉⁉
「にん」
チャキリ、と日本刀の鍔が鳴った。
この問答無用感……モタモタしていたらヤられる‼‼‼
アルマたちとの日常で、鍛えられた生存本能を刺激しろ……!
「あ、あの……な、なにか勘違いしていませんでしょうか……?
ボクは地味で平凡で冴えない男子高校生なわけでして……。
魔王なんてそんなとても……」
擬態……嘘……弱者を装えっ……!
いや標準世界でのボクはまじで弱者なので、嘘は吐いていない。
本気で怯えながら油断を誘って、背後の玄関扉に逃げろ!
「無駄でござるよ」
カチンッと音がして、玄関扉の鍵が閉まる。
狐面をかぶった女忍者は鉄鋲のようなものを指ではじいて、鍵に当てたようだ。
そんなことができるの????
まじなにものですか?????
「な、なにものなんです……?」
「見てわからぬか」
「忍者です……見間違いようもなく忍者です……」
「にんにん」
女忍者は誇らしげに言った。
いやだなあ……常識外の存在なのに、当たり前のように日常にいないで欲しいなあ……。
ただでさえボクの常識が壊れつつあるのに……。
「……ボクが魔王ガイデルだとして、どうして命を狙うんです?」
「邪悪な存在だからだ」
「邪悪かもしれないですけど……だからって命を狙うなんて……」
「いやならば抗え」
「ド、ドッキリかなにかですか? その日本刀もぶっちゃけ偽物なんでしょ?」
煽りつつ、相手の意図を探りにかかる。
日本刀が偽物の可能性はとても高い。
だってここは日本だ。
そうそう危険なことがあるわけがないし、こんな狭い室内でふりまわせるものでもないだろう。
「ふん」
しかし女忍者は、日本刀を素早くふるう。
花瓶の花が茎だけをのこし、綺麗に斬られてパラリと落ちた。ついでにボクの生存者バイアスも斬りふせられる。
わあ……すごいお手前……。
「お覚悟……!」
女忍者が踏みこんでくる。
ボクは手近のクッションを投げつけて、回避する。
ボシュンッとした音がして、羽毛が飛び散った。
動ける……っ!
危機的状況でも怯えることなく身体が動くぞ!
「回避はかなりのものだな!」
「普段から鍛えられているんで‼‼‼」
アルマたちとの命がけの日々は無駄じゃなかった……!
無駄であって欲しかった……‼‼‼
「せいっ!」
「ぬわあ⁉」
ボクの髪がはらりと落ちる。
文字通り、紙一重だ!
ちゅー太郎⁉⁉⁉ ちゅー太郎は出てこないのか⁉⁉⁉
魔王! 魔王らしき存在! ボクがピンチだよっ⁉⁉⁉
ほーーーーら身体を奪って見せろ!
こっちの身体はあーまいーぞ‼‼‼
ビュンッと刀がふるわれる。
「ひいいいい!」
ダメだ……!
ぜんっぜん力が発現しない!
追いつめられるだけじゃダメなのか⁉⁉⁉
ちくしょう! こうなったら!
「ぐっ⁉ ぐうううううううう⁉⁉⁉」
ボクは、右手がいかにも熱くなった感じをだした。
「右手がうずく…………‼‼‼
いけない……っ! ボクの側から早く逃げるんだ、忍者さん……!」
「む?」
女忍者が追撃をやめた。
「く……っ、しずまれボクの右手……!
このままじゃ、魔王が……魔王が……!
ぐわああああああああああああああああああああ⁉⁉⁉」
いかにも身体を奪われた感じで、ダランと脱力して立つ。
ほーら魔王的人格があらわれるっぽいぞー。
逃げてくれないかなー……。
逃げてくれないなあー……。
ボクは腹をくくり、いかにも魔王らしい笑みで髪をかきあげある。
「クククッ……仮初の肉体相手に随分とやってくれたようだな」
「魔王……ガイデル」
「蟲ごときが、我の名を気安く呼ぶでないわ。
どうやら我に用があるようだが、貴様の
聞いてやらんでもないぞ」
なんとか話し合いの余地を探ってみる。
いくらなんでも邪悪な存在だからって、問答無用で殺しにかかる人間はいないはずだ。
いや、クスノさんがいた……‼‼‼
「死ぬのはお前だ、魔王!」
女忍者が再度斬りかかってくる。
ううっ……一か八か……!
「トゥ」
ボクは重々しく唱えた。
女忍者がびたりと停止する。
「トゥ……トゥトゥ、クゥ」
ボクが魔王だと知っているのならば、トゥで警戒するはずだ。
実際、女忍者はボクに踏みこめずにいる。
「トゥ……トゥ、トゥ……」
適当にトゥトゥとそれっぽく唱えておく。
カバディカバディの要領で相手との距離を保ちつつ、それとなーく玄関扉に移動していくが、女忍者はボクの退路をふさいだ。
そっちも警戒しているか……!
「トゥ……クゥ……トゥ……」
さすがにそろそろ気づかれるかも……。
自室のクローゼットに視線をやる。
もしかしてアルマが密かに待機していないかと願ったが、女忍者が否定した。
「クローゼットには今は誰も潜んでおらぬ。助けは諦めよ」
「トゥ……?」
え……?
今、なんて言った……?
女忍者からの想像だにしなかった言葉。
頭を思いっきりゆさぶられたかのような衝撃がはしる。
混乱する頭で、ボクはカーテンをたしかめた。
カーテンは閉じられている……。
家を出るとき……カテーンはひらきっぱだった。
なのに今は閉じられている……まるで誰かを警戒するように。ボクが襲われているところを誰かに見られなくするにしても、これは……。
「…………」
詠唱をやめたボクに、女忍者が踏みこんできて日本刀をふるう。
「ニンッ!」
「――
日本刀がびたりと止まる。
あ、あぶなあああああああああああああああ……。
確信なかったけど、断定ぎみに言ってよかった!
固まったままの女忍者に、ボクは告げる。
「クローゼットの件も、遠くから誰かに狙われていることも……。
ボク、誰にも言ってないんですよ……。相談できる友だちなんていないし……。
言ったのは、赤沢先輩だけなんです」
女忍者はわずかに首をかたげ、はあと息を吐く。
それから日本刀をかちんと納刀した。
ボクを殺そうとしたのはハッタリだったようだ。
「……しくったあ。頭領に怒られるなあ、これ」
「や、やっぱり赤沢先輩ですよね⁉ な、なんで、どうして⁉⁉⁉」
「鷗外君のあの力の条件が知りたかった。
追いつめられるだけじゃダメみたいだねー」
ちょっとお軽い口調は、コンビニで働いていたときと同じだ。
ボクはもう頭がぐらんぐらんしていて、斬られていなのにぶっ倒れそうだった。
どうにか女忍者、もとい赤沢先輩を見つめる。
「赤沢先輩……なんだ……やっぱり……」
「そっだねー。事情を話すにしても、わたしの身分をあかそっか。
普段はお軽い感じのコンビニ店員!
ときには風魔学園OBであり、魅惑の臨時講師!
そしてその正体はー、ダンジョン管理局
「待ってください!」
ボクは、身分を明かそうとする彼女に待ったをかけた。
「あー。いきなりダンキョーの人間だと言っても驚くよねー」
「それはもちろん驚いたんですけど、名前は別に明かさなくていいです!」
「え?」
「赤沢先輩は赤沢先輩というか……!
名前を知っちゃうと解像度があがるというか……! 自意識過剰ではあるんですが……!」
「なにを言っているの?」
名前を知ると、らしくなってしまうというか……!
これ以上、厄介そうな
そんなボクの危惧なんて知ったことないとばかりに、赤沢先輩は狐のお面をはずした。
「ダンジョン管理局一壱課特務員、赤沢セリナ。あらためてよろしくねー」
赤沢先輩は、うっすらと糸目をあける。
その瞳のハイライトは……やっぱり消えていた……。
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